生前葬を行うには？準備の流れ・費用・家族への伝え方まで、失敗しないための基礎知識

生前葬という選択肢

「自分らしい最後」を演出したいと考える人が、近年少しずつ増えてきています。従来、日本では「葬儀」といえば亡くなった後に行うのが当然とされてきました。しかし価値観の多様化や終活の浸透により、本人が存命中に自らの意思で企画・開催する「生前葬（せいぜんそう）」が注目されています。

生前葬とは、文字通り生きているうちに行う葬儀のような儀式を指します。従来型の葬儀と大きく異なるのは、主役である本人がその場に参加できることです。家族や友人に直接感謝を伝えたり、思い出を共有したりすることが可能であるため、「温かいお別れの場」として選ばれるケースが増えています。

一方で、「お別れ会」と混同されることもあります。一般的にお別れ会は、亡くなった方を偲ぶために後日開催されるものであり、生前葬はあくまで本人が存命中に行う点で異なります。また宗教儀礼を伴わない自由な形式が多いため、従来の葬儀と比べても柔軟性が高いのが特徴です。

なぜ今、生前葬が注目されるのでしょうか。背景には、核家族化の進展や高齢者の孤立感、さらには「家族に負担をかけたくない」という心理的動機があります。またコロナ禍以降、人とのつながりの大切さが改めて見直され、「生きているうちに会いたい人に会っておきたい」という思いを形にする方法として、生前葬を選ぶ人が出てきているのです。

次の章では、具体的に生前葬を行う理由と、その目的について深掘りしていきます。

生前葬を行う理由と目的の明確化

生前葬を選ぶ人が増えている背景には、単なる流行ではなく、人生の締めくくりにおける価値観の変化があります。特に注目されるのが「家族への配慮」と「自分自身の納得感」です。ここでは、生前葬を行う主な理由と目的について整理します。

家族への負担を減らしたいという思い

従来の葬儀は、喪主や遺族にとって大きな負担となることが少なくありません。短期間で会場の手配や参列者への連絡を行い、費用も相応にかかります。さらに精神的なショックの中で進めなければならないため、家族に大きなストレスを与える場合があります。
その点、生前葬であれば本人が主体的に準備を進められるため、家族の負担を大幅に軽減できます。

感謝の気持ちを伝えたい／人生の節目として区切りをつけたい

生前葬を行う大きな動機のひとつは、普段はなかなか言葉にできない「感謝」を直接伝えられることです。
多くの人は、葬儀の場で故人の業績や人柄を称えますが、本人がそれを聞くことはできません。生前葬であれば「お世話になりました」「ありがとう」といった言葉を、本人の耳で受け止めることができ、感動的な瞬間となります。
また、人生の節目として「ここで一区切りをつけたい」という動機も少なくありません。病気や退職、還暦などの節目に合わせて開催されるケースもあります。

自分で内容を決めることで「納得のいく別れ」にしたい

葬儀は従来、宗教や地域の慣習に沿って行われることが多く、本人の意向が反映されにくい側面がありました。
生前葬では、会場の選定から進行内容、演出まで自由に設計できます。例えば、好きな音楽を流したり、趣味の写真を展示したり、思い出の映像を上映したりと、本人の人生を象徴する場にすることが可能です。
「最後の場を自分らしく彩りたい」という希望を叶える手段として、生前葬は最適といえるでしょう。

これらの理由から、生前葬は単なる葬儀の代替ではなく、「人生の集大成を自分の手でプロデュースする場」としての意義を持っています。次章では、具体的にどのような形式で行われるのかを紹介します。

生前葬の主な形式と内容

生前葬は「自由度の高さ」が大きな特徴であり、従来の葬儀のように宗教儀式に縛られる必要はありません。ここでは代表的な形式や内容を詳しく紹介します。

宗教儀式あり／なしの形式

生前葬には、宗教的要素を取り入れる場合と、そうでない場合の二種類があります。

• 宗教儀式あり
  　仏式で僧侶を招いて読経を依頼するケースや、キリスト教式で牧師・神父に祈りを捧げてもらう形式などがあります。従来の葬儀と同じく「魂を見送る」という意味を重視する方に選ばれやすい形式です。
  
  
• 宗教儀式なし（無宗教式）
  　形式に縛られず、本人や家族が望む形で進行する自由なスタイルです。音楽や映像を流したり、親しい人同士で語り合ったりと、温かみのある集いが可能です。
  
  

会場タイプ

生前葬の雰囲気は会場選びで大きく変わります。以下のような選択肢があります。

よくある流れの例

生前葬のプログラムは自由ですが、多くのケースで以下のような流れが採用されています。

1. 開会の挨拶
   
   
2. 主催者（本人または代表者）の挨拶
   
   
3. 想い出の映像や写真の上映
   
   
4. 参列者によるスピーチや手紙朗読
   
   
5. 会食・歓談
   
   
6. 記念撮影やメッセージカード記入
   
   
7. 閉会の言葉
   
   

このように「本人と直接語り合える時間」を中心に据えることが多く、温かく、交流のある雰囲気となります。

葬儀社と組んで行うケース／自力で準備するケース

生前葬を行う方法には大きく分けて2種類あります。

• 葬儀社と組んで行う場合
  　会場手配や進行サポート、映像制作などを任せられるため安心です。特に初めての人や大規模に開催したい場合に向いています。
  
  
• 自力で準備する場合
  　費用を抑えやすく、完全に自由な演出が可能です。ただし会場手配や当日の進行管理など、家族や友人の協力が必要となります。
  
  

形式と内容は本人の希望次第で無限に広がります。次章では、生前葬を実際に行うための準備ステップを詳しく見ていきます。

実施までの流れと準備ステップ

生前葬は自由度が高い分、事前の計画が非常に重要です。無計画に進めると、本人や家族の意向が十分に反映されなかったり、当日に混乱が生じたりする恐れがあります。ここでは、生前葬を実施するためのステップを順を追って解説します。

ステップ1：誰に参加してもらいたいかを考える

最初に決めるべきは、参加者の範囲です。
親しい家族だけで行うのか、友人・知人・仕事関係の人も招くのかによって、会場の規模や準備内容が大きく変わります。

• 少人数の場合：自宅や小規模会場でアットホームに
  
  
• 中〜大人数の場合：葬儀会館やホテルでの開催を検討
  
  

参加者リストを早めに作成することで、会場選びや招待状の準備がスムーズに進みます。

ステップ2：式の目的・イメージを固める

生前葬を行う目的を明確にすることは、成功の鍵となります。
「感謝を伝える会」「人生の節目を祝う会」「静かにお別れをする会」など、目的によって演出や雰囲気が変わります。

目的が明確になれば、選ぶ会場や進行プログラムも自然と決まってきます。

ステップ3：家族と話し合い、理解を得る

生前葬はまだ一般的ではないため、家族や親族が戸惑う場合もあります。
「葬儀は亡くなった後にするもの」という価値観を持つ方も少なくないため、誤解や反対が起こり得ます。

そこで、以下のようなポイントを踏まえて話し合うことが重要です。

• なぜ生前葬をしたいのかを丁寧に説明する
  
  
• 家族にかかる負担が軽減されることを伝える
  
  
• 形式や費用について事前に共有する
  
  

ステップ4：葬儀社や会場に相談・見積もり依頼

実際に開催するとなれば、会場やサービスの確保が必要です。
葬儀社に相談すれば、経験豊富なスタッフが予算や希望に合わせたプランを提案してくれるため安心です。

見積もりを取る際には、会場費・飲食費・映像制作・進行スタッフ費などの内訳を確認し、予算オーバーにならないよう調整します。

ステップ5：プログラムの詳細を詰め、招待状や案内を準備

参加者の顔ぶれや会場が決まったら、進行内容を具体的に決めていきます。

• 開会の挨拶は誰が行うか
  
  
• 映像や写真はどのタイミングで上映するか
  
  
• 会食や歓談の時間をどの程度取るか
  
  

決まったプログラムを基に、招待状や案内状を作成します。郵送のほか、メールやSNSでの案内も増えています。

ステップ6：当日の段取り確認・実施

開催直前には、進行役やスタッフとリハーサルを行い、流れを確認します。
当日は本人が主役となるため、細かな段取りは家族やサポートスタッフに任せるのがおすすめです。

ステップ7：実施後に連絡・お礼のフォローを行う

生前葬終了後には、参加者へのお礼を忘れずに行いましょう。
感謝のメッセージカードを送ったり、集合写真を共有したりすると、参加者にとっても温かい思い出となります。

こうした一連のステップを踏むことで、生前葬は滞りなく進行し、本人も参加者も心から満足できる時間となります。
次に、生前葬を行う際に気になる「費用」について詳しく見ていきます。

生前葬の費用相場と内訳

生前葬を検討する際、多くの人が気になるのが費用です。一般的な葬儀に比べて形式や規模を自由に設定できるため、費用には幅があります。ここでは相場と内訳、そして費用を抑える工夫について詳しく解説します。

全体費用の目安

生前葬の費用は、規模や内容によって大きく変わります。おおよその目安は以下の通りです。

• 小規模（家族中心、自宅や小会場）：10万〜30万円
  
  
• 中規模（友人や知人も招待、ホテルやレストランなど）：30万〜70万円
  
  
• 大規模（葬儀会館やホールを利用、演出を充実させる場合）：70万〜100万円以上
  
  

一般的な葬儀に比べると費用を抑えやすい一方、演出にこだわると高額になる傾向があります。

主な費用項目

生前葬でかかる費用を項目ごとに整理すると以下のようになります。

※費用は地域や業者により変動します。

香典や会費の取り扱い

生前葬では、基本的に香典を受け取らないケースが多いです。
「本人に直接会えるのだから、金銭よりも気持ちを持ってきてほしい」という考え方が一般的だからです。
ただし、規模が大きく費用がかさむ場合は、会費制にする方法もあります。例えば「会費1万円」とすることで、参加者の負担を最小限に抑えつつ、主催者の出費も軽減できます。

費用を抑える工夫

• 会場をレストランや自宅にする
  
  
• 映像や装飾を自作する
  
  
• 招待者を厳選して少人数で行う
  
  
• 香典の代わりに会費制を導入する
  
  

無理のない範囲で実施することで、費用面の不安を和らげることができます。次の章では、実際に生前葬を行ううえで注意しておくべき点について解説します。

生前葬を行ううえでの注意点

生前葬は自由度が高く、本人や家族の思いを反映できる一方で、まだ一般的に広く浸透していないため、いくつかの注意点があります。ここでは、生前葬を検討する際に知っておくべきポイントを整理します。

家族・親族との温度差と向き合う

最も多い課題の一つは、家族や親族との間に生じる「温度差」です。
本人は「家族に迷惑をかけないため」と考えていても、家族からすると「生前に葬儀をするなんて縁起でもない」と受け止められることもあります。
こうした場合は、なぜ自分が生前葬を望むのか、その意義を丁寧に説明し、時間をかけて理解を得ることが大切です。

また、親族の理解を得られないまま実行すると、後に人間関係にしこりを残すこともあるため、無理に押し切らず、可能な限り話し合いを重ねる必要があります。

世間の理解はまだ十分ではない点に配慮

生前葬は近年注目されているものの、社会的にはまだ新しい習慣です。そのため、一部の人からは違和感を持たれる場合があります。特に高齢世代には受け入れにくい考え方とされることもあります。
招待する相手によっては「どう受け止められるか」を考え、案内状に「感謝を伝える会」や「人生の節目を祝う会」といった説明を添えることで、誤解を避けられます。

死後の火葬や法的手続きは別途必要

生前葬を行ったからといって、亡くなった後に必要な手続きが不要になるわけではありません。
実際には、以下のような流れを別途行う必要があります。

• 医師による死亡診断
  
  
• 火葬・埋葬の手配
  
  
• 死亡届の提出（市区町村役場へ7日以内）
  
  
• 年金・保険・相続などの各種手続き
  
  

つまり、生前葬は「最後の別れ」を象徴する場にはなりますが、法的な意味での葬儀の代替にはなりません。家族にはこれらの負担が残ることを理解し、必要であれば遺言やエンディングノートで補足しておくことが望ましいです。

こうした注意点を理解しておくことで、生前葬がより円滑に進み、本人も家族も安心できる形にすることができます。
次に、多くの人が抱く疑問をQ&A形式で解説していきます。

よくある疑問へのQ&A形式

生前葬に関心を持っても、具体的なイメージや実際の進め方について疑問を抱く人は少なくありません。ここでは、特によく寄せられる質問に答えていきます。

「家族が反対する場合はどうすれば？」

生前葬はまだ一般的ではないため、家族から「縁起でもない」「恥ずかしい」といった反対を受けることもあります。
その場合は以下の方法を試すと効果的です。

• 目的を明確に伝える：「家族に負担をかけたくない」「直接感謝を伝えたい」といった動機を説明する。
  
  
• 小規模から始める：まずは家族だけで行う「感謝の会」のような形で実施し、徐々に理解を得る。
  
  
• 終活全体の一部として位置づける：遺言や相続の話と合わせて説明することで、家族に安心感を与える。
  
  

「生前葬をしたあとに正式な葬儀は不要？」

生前葬をしたからといって、亡くなった後の葬儀が自動的に不要になるわけではありません。
多くのケースでは、火葬や納骨のために何らかの法的手続きが必要です。

• 生前葬のみで終える場合：本人や家族が「火葬のみ」を希望するケース
  
  
• 生前葬＋簡略な葬儀：親族の希望により、火葬時に小規模な式を行う場合
  
  

つまり、生前葬は「心の別れ」を担う一方で、死後の実務は別に考える必要があります。

「本人が主催する場合、準備は誰が主導？」

基本的には本人が中心となって準備を進めますが、当日の進行や細かな準備をすべて一人で担うのは大変です。
そのため以下のように役割を分担するとスムーズです。

• 本人：式の目的や内容の決定
  
  
• 家族・友人：会場予約、招待状の送付、当日の受付
  
  
• 葬儀社や専門業者：進行サポート、映像制作、司会
  
  

特に規模が大きい場合や演出を凝りたい場合は、葬儀社やイベント業者への依頼を検討しましょう。

「服装は平服でいい？」「香典を断るにはどう言えば？」

生前葬の雰囲気に合わせて服装を決めるのが一般的です。

• フォーマルな会場（ホテル・葬儀会館など）：落ち着いた色味のスーツやワンピース
  
  
• カジュアルな会場（自宅・レストランなど）：普段着に近い平服でも可
  
  

香典については、招待状に「香典・供花などのお気遣いはなさらないでください」と明記しておくと安心です。会費制にする場合も「会費制で行いますので香典はご辞退申し上げます」と添えると誤解を避けられます。

こうした疑問を事前に解消しておくことで、本人も家族も安心して生前葬を迎えることができます。次章では、家族とどのように対話を進めていけばよいか、その具体的な方法を解説します。

家族との対話を始めるために

生前葬を考えるうえで避けて通れないのが、家族との対話です。本人にとっては前向きな選択でも、家族にとっては受け入れがたい提案に感じられる場合もあります。ここでは、家族と円滑に対話を進めるためのポイントを解説します。

反対を和らげるための伝え方のコツ

生前葬の話題を切り出す際には、唐突に「葬儀を生きているうちにしたい」と伝えるのではなく、段階を踏むことが重要です。

• 感謝や思いやりを前面に出す
  　「家族に負担をかけたくない」「自分の思いを直接伝えたい」という前向きな理由を伝えることで、理解を得やすくなります。
  
  
• 言葉選びに配慮する
  　「生前葬」という言葉に抵抗を示す家族には、「感謝の集い」「人生の節目の会」といった表現を使うのも効果的です。
  
  
• 小さな一歩から始める
  　まずは誕生日会や退職祝いなどに近い形で検討し、「これを終活の一環にしたい」と伝えると受け入れやすくなります。
  
  

「家族に迷惑をかけない」ためにこそ、話し合いが大切

本人が「負担を減らしたい」と考えても、準備や進行の一部は家族の協力が必要となります。家族が不安を抱えたまま進めると、当日にトラブルや気まずさが生じかねません。

• 会場や予算について、早めに共有する
  
  
• 誰が何を担当するか役割を明確にする
  
  
• 家族に相談するタイミングを十分に取る
  
  

これにより、家族も安心して協力できる環境を整えられます。

生前葬だけで終わらず、遺言・火葬・相続の話も含めた「終活の一環」に

生前葬を検討するなら、それを単独のイベントとして終えるのではなく、広い意味での「終活」の一部として取り入れるのがおすすめです。

• 遺言の作成：財産の分配や希望を明確に残す
  
  
• 火葬や納骨の希望：形式や方法を家族に伝えておく
  
  
• 相続や保険の整理：法的手続きがスムーズに進むよう準備
  
  

こうした終活全体を通じて話し合うことで、生前葬の意義も家族に理解されやすくなります。

生前葬をめぐる対話は、家族にとっても「死」を前向きに考えるきっかけになります。次の章では、記事全体を総括し、生前葬がもたらす価値を改めて整理します。

まとめ：生前葬は「人生を前向きに締めくくる手段」のひとつ

生前葬は従来の葬儀の代替というよりも、「自分らしい形で人生を締めくくり、感謝を伝えるための場」として注目されています。

その大きな魅力は、本人が主役として参加できることにあります。家族や友人に直接「ありがとう」を伝え、思い出を共有できるのは、生前葬ならではの大きな価値です。

また、生前葬は自由度が高いため、宗教儀式を取り入れるか否か、会場をどこにするか、参加者を誰にするかなど、自分の希望に沿って設計できます。費用も内容次第で幅があり、小規模でアットホームに行うことも、大規模で華やかに行うことも可能です。

ただし、まだ一般的に浸透していないため、家族や親族との温度差や世間の理解不足といった課題もあります。そこで大切なのが、家族との丁寧な対話です。「負担を減らしたい」「感謝を伝えたい」といった前向きな動機を共有し、終活の一環として計画することで、理解を得やすくなります。

さらに、生前葬を行った後も、火葬や法的手続きなどは必要です。したがって、生前葬は終活全体の中で位置づけることが望ましく、遺言や相続準備と並行して考えるのが賢明です。

総じて、生前葬は「人生をポジティブに締めくくるための選択肢」であり、本人にとっても家族にとっても貴重な時間を共有できる手段です。専門家や葬儀社に相談することで、より安心して準備を進められるでしょう。

これから生前葬を考える方は、まずは家族との話し合いから始め、無理のない形で自分らしい最後を設計してみてはいかがでしょうか。

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