
108回の除夜の鐘に込められた意味とは?煩悩との関係と東京での体験スポット
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大晦日の夜、厳かな鐘の音が街の静けさの中に響く――それが「除夜の鐘」です。日本全国の寺院で、年越しの瞬間に向けて一打一打丁寧に撞かれる鐘の音は、まさに新しい年の始まりを告げる象徴的な行事として、長年にわたって人々の心に刻まれてきました。
しかしながら、その神聖な音色の背後にある意味や由来を、深く知っている人は意外に少ないかもしれません。なぜ鐘は108回も撞かれるのでしょうか?そしてその「108」という数には、どのような仏教的背景や哲学が込められているのでしょうか?
このコラムでは、「除夜の鐘」に関する基本的な意味や歴史的由来、なぜ108回撞くのかという理由を丁寧に解説するとともに、東京都内で実際に除夜の鐘を撞くことができる寺院情報や、参加時に心得ておきたい作法・マナーまでを詳しく紹介していきます。
毎年の恒例行事として何気なく耳にしていた除夜の鐘が、実は人間の心に深く関わる精神的な行為であることを知ると、その一音一音が持つ重みがまったく違って感じられるはずです。
年末という節目に、自分自身の内面と向き合い、心を整える時間として、除夜の鐘の意味を再認識してみてはいかがでしょうか。
除夜の鐘とは
「除夜の鐘」とは、大晦日の夜から元旦にかけて寺院で撞かれる鐘のことを指します。この鐘は時報や年越しの合図といった意味合いもありますが、仏教の教えに基づいた深い意味を持つ宗教的な行為です。
「除夜(じょや)」とは、「除日(じょじつ)」、すなわち旧年を“除く日”、つまり一年の最後の日を意味します。「夜」はその名の通り夜のこと。したがって「除夜の鐘」とは、“一年の穢れを除き、新たな年を迎えるために夜に撞かれる鐘”という意味を持っています。
この鐘を撞く行為には、旧年中に蓄積された心の穢れや煩悩(ぼんのう)を払い、清らかな心で新しい年を迎えるという精神的な意図が込められています。煩悩とは仏教において、人間の欲望、怒り、無知といった心の迷いを指し、これが苦しみの原因になると説かれています。
除夜の鐘を撞くことは、そうした煩悩を一つずつ取り除きながら自己を浄化し、心のリセットを図る行為です。そのため、鐘の音は単なる音響的な美しさを超えた「意味ある音」として、人々の心に響いてくるのです。
また、除夜の鐘は日本だけでなく、中国や韓国といった仏教文化圏でも行われていますが、日本では特に大晦日の象徴として根づいており、NHKの「ゆく年くる年」などの番組で全国の寺から生中継されることで、より多くの人の記憶に残る文化となっています。
近年では、除夜の鐘の騒音をめぐる議論も一部で見られますが、それでもなお多くの人々がこの伝統行事を心のよりどころとし、年末のひとときに耳を傾けているのが現実です。
除夜の鐘はいつ撞く?
除夜の鐘は、一般的に大晦日の夜から元日の深夜0時にかけて撞かれます。多くの寺院では12月31日の夜11時半ごろから開始され、108回の鐘を撞き終えるのが新年の始まりである1月1日の0時過ぎになるように調整されています。
鐘を撞く「時間帯」の意味
この時間帯に鐘を撞くことには、仏教的・象徴的な意味があります。旧年と新年の境界、つまり「除日(じょじつ)」と「元日(がんじつ)」の間をまたいで鐘を鳴らすことで、旧年の煩悩を清め、新しい年を清浄な心で迎えるという意図が込められているのです。
このため、いくつかの寺では「最初の1回だけを大晦日のうちに撞き、残りの107回を元日に入ってから撞く」というスタイルを採用しています。この順序には、「煩悩を旧年中に1つ祓い、新年に残りを清めることで、より清らかな心で新たな年を始められる」という意味があるとされています。
寺院ごとの違い
ただし、除夜の鐘の開始時間や撞き方には寺院ごとの違いがあります。以下のようなバリエーションが見られます
- 午後11時ごろから開始する寺:早めに始め、日付が変わる前に撞き終える場合もある
- 0時ジャストに始める寺:より「新年の祈り」に重きを置くスタイル
- カウントダウンイベントと連動する寺:観光や地域活性化の一環として行われることもある
現代では地域住民の生活リズムや騒音への配慮から、撞く回数を減らしたり、時間帯を早めたりする寺も増えてきています。例えば、一部の寺では「象徴的に10回だけ撞く」「録音した鐘の音を流す」といった対応をしているところもあります。
除夜の鐘と「カウントダウン」
特に都市部では、除夜の鐘が年越しカウントダウンの合図として親しまれる側面もあります。NHKの「ゆく年くる年」などのテレビ中継では、全国各地の寺院の除夜の鐘の様子が紹介され、視聴者は鐘の音とともに年明けの瞬間を迎えます。
このように、除夜の鐘は「宗教的儀式」としての側面を保ちつつも、現代では文化的・象徴的な意味合いも強くなってきており、多くの人にとって「年越しの実感を伴う風物詩」となっています。
除夜の鐘を108回つく理由
「除夜の鐘をなぜ108回つくのか?」――これは日本人なら一度は疑問に思ったことがあるテーマではないでしょうか。実はこの「108」という数字には、仏教の教えに基づいた明確な意味と象徴性があり、単なる習慣や語呂合わせではありません。
ここでは、煩悩の数や仏教的な世界観に基づき、108回の除夜の鐘に込められた意味を詳しく解説します。
「煩悩」の数としての108
最も広く知られているのが、「人間の煩悩の数が108あるから」という説です。煩悩とは、仏教における人間の欲望、怒り、嫉妬、迷い、執着など、心を乱す感情や思考を指します。これらが人生の苦しみの原因とされ、仏教の修行は煩悩を制し、悟りに近づくためのものとされています。
煩悩108の構成:なぜ108なのか?
108という数は、以下のように仏教的な概念を組み合わせて算出されます。
(1)六根(ろっこん) × 三受(さんじゅ) × 三世(さんぜ)
- 六根:人間の六つの感覚器官(眼・耳・鼻・舌・身・意)
- 三受:それぞれの感覚に対する三つの反応(好・悪・平)
- 三世:過去・現在・未来
計算式:
6(感覚) × 3(反応) × 3(時間)= 54
これに、自分に対する反応と他者に対する反応の両面を加えると、54 × 2=108とされる説もあります。
(2)四苦八苦の語呂合わせ説
「四苦八苦(しくはっく)」とは、仏教における人間の代表的な苦しみのこと。
- 四苦:生・老・病・死
- 八苦:愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五蘊盛苦 など
「四苦(4×9 = 36)+八苦(8×9=72)=108」という語呂合わせ的な意味づけも存在します。これは民間信仰的な解釈に近いですが、覚えやすく親しまれている説です。
(3)その他の構成説
- 十二因縁 × 九類の煩悩
- 六塵(感覚を通じて迷いを生む対象)× 三毒(貪・瞋・癡)× 他の分類
このように、「108」という数は煩悩を体系的に表した数として、仏教の教義に基づいていることが分かります。
108回の鐘に込められた意味
除夜の鐘で108回撞くという行為は、人間の煩悩を一つひとつ鐘の音で打ち消すという象徴的な意味を持ちます。つまり、一回の鐘=一つの煩悩を消すという意味で、鐘の音を聞くことで自らの煩悩を反省し、心を清める機会とされているのです。
また、仏教において「音」は非常に重要な意味を持ちます。梵鐘(ぼんしょう)と呼ばれる大きな鐘の低く長い音は、心を静め、真理へと導く響きとされ、耳で聞くことで精神的な作用をもたらすと考えられています。
実際は108回じゃない場合もある?
寺によっては、鐘を撞く回数を減らしているケースもあります。騒音問題や住民への配慮から、象徴的に10回、20回、あるいは33回だけ撞くという対応もあります。また、一部では108回の代わりに数回の代表的な撞き方にとどめることも。
しかし、そのような場合でも、本質的な目的は「煩悩を払い、心を整えること」に変わりはありません。形にとらわれず、心の在り方を見つめ直す機会として除夜の鐘を捉えることが大切なのです。
東京で除夜の鐘がつけるお寺
年末になると、東京都内でも一般の参拝者が「除夜の鐘」をつくことができる寺院がいくつかあります。ここでは、実際に参加体験が可能な代表的な寺院5ヶ所と、見学型で人気の高い浅草寺についてご紹介します。記載内容は、2024年末〜2025年元旦にかけて実施された情報をもとにしていますが、次回(2025年末)の参考としてお役立てください。
池上本門寺(大田区)
- 参加条件:2024年12月31日23時から鐘楼堂前で先着600名に整理券を配布。1組最大6名で参加可能。
- 概要:除夜の鐘撞きは0時より開始。鐘を撞いた人には記念のお守りが授与される年もあり、地域密着型の厳かな雰囲気が特徴。
- アクセス:東急池上線「池上駅」から徒歩10分。
築地本願寺(中央区)
- 参加条件:「除夜のつどい」内で自由参加が可能。整理券は不要(年によっては変更の可能性あり)。
- 概要:鐘撞き体験に加え、温かい飲み物の提供や音楽演奏など、家族連れでも参加しやすいイベントを開催。都会的で開かれた雰囲気が特徴。
- アクセス:東京メトロ日比谷線「築地駅」出口直結。
廣慶寺(町田市)
- 参加条件:整理券・予約不要。当日自由参加が可能。
- 概要:参道に並んだ108個の小さな鐘を、小槌で一つずつ撞いていくスタイル。混雑が少なく、静かに過ごしたい方におすすめ。
- アクセス:小田急線「町田駅」からバス+徒歩で約20分。
五百羅漢寺(目黒区)
- 参加条件:2024年末は、19時〜20時30分に寺務所で「鐘つき券(お守り付き・1,000円)」を購入して参加。
- 概要:目黒の静かな環境で、少人数制の除夜の鐘体験が可能。屋上の鐘楼でゆっくりと心を落ち着けて撞くことができる。
- アクセス:東急目黒線「不動前駅」から徒歩8分。
法明寺(豊島区)
- 参加条件:2025年元旦(2024年末〜2025年初頭)には、0時〜1時30分頃まで一般参加可/無料。
- 概要:数人ずつ交代で108回の鐘を撞く形式。池袋駅から徒歩圏内という利便性もあり、落ち着いた雰囲気で年越しが可能。
- アクセス:JR「池袋駅」から徒歩約10分。
その他:浅草寺(台東区)
浅草の名所・浅草寺では、伝統的な「百八会(ひゃくはちえ)」という法要の一環として除夜の鐘が撞かれますが、鐘を撞けるのは僧侶のみで、一般の参加はできません。
- 参加条件:一般参加不可。鐘の音を聞いて年越しを迎える形式です。
- 概要:観光客も多く集まり、にぎやかで華やかな雰囲気の中、除夜の鐘の音を通じて新年を実感することができます。
- アクセス:東武スカイツリーライン「浅草駅」から徒歩5分。
鐘撞き体験はできないものの、伝統ある除夜の鐘の音に包まれながら、厳かな気持ちで年を越したい人には最適な場所です。
除夜の鐘のつき方と作法・マナー
除夜の鐘は、単なる年越しイベントではなく、仏教の儀式としての意味を持つ行為です。参加する際は、その背景を理解し、敬意と節度をもって臨むことが大切です。
ここでは、除夜の鐘を撞くときに知っておきたい基本的な作法や実際の流れについて解説します。
1. 鐘を撞く前の心構え
まず重要なのは、「鐘の音は煩悩を一つずつ打ち消す」という意味を意識することです。鐘を撞くことは、自らの心を見つめ直し、清らかな気持ちで新年を迎えるための象徴的な行為でもあります。
2. 鐘を撞くまでの流れ
寺院によって異なる場合もありますが、一般的には以下のような流れです。
- 受付・整理券の受け取り(ある場合)
- 列に並び、順番を待つ
- 鐘の前で一礼、または合掌
- 撞木(しゅもく)を持って一打(または指定回数)撞く
- 再度一礼または合掌し、退出
案内係や僧侶の指示に従って、落ち着いて行動しましょう。
3. 基本的なマナーと注意点
- 静かに順番を待つ:私語や騒音は控え、周囲への配慮を忘れずに。
- 力加減を意識する:強く叩かず、心を込めて丁寧に撞くのが作法です。
- 合掌・一礼を忘れずに:感謝と敬意の気持ちを表す所作です。
- 撮影マナーに注意:フラッシュ禁止。撮影可否は事前に確認を。
4. 寺院ごとのルールに従う
鐘の撞き方や回数、人数制限などは寺院ごとに異なります。当日は係員や案内に従い、無理のない形で参加しましょう。仏教的な意味を忘れず、厳かな気持ちで臨むことが何より大切です。
まとめ
除夜の鐘は、日本の年末を象徴する行事であると同時に、仏教の教えに深く根ざした宗教的な儀式でもあります。その意味は単なる年越しの演出にとどまらず、108あるとされる煩悩を一つひとつ鐘の音で払い、心を清めるという精神的な浄化の行為にあります。煩悩の数には仏教的な体系が存在し、人間のあらゆる欲望や迷いを象徴しているとされ、それを打ち消すために鐘は108回撞かれるのです。
実際に都内の寺院では、一般の人でも除夜の鐘をつける体験が可能であり、寺院ごとに整理券の配布や参加方法の違いはあるものの、誰もがこの伝統に触れ、静かに自分と向き合う時間を持つことができます。鐘を撞く際には、形式よりも心の持ち方が大切にされ、煩悩を手放し、新しい年を清らかな気持ちで迎えたいという思いを込めて行うことが本質とされています。
年の終わりを迎えるこの特別な時間、除夜の鐘の音に耳を傾けながら、自らの内面と対話し、静けさの中に心を整えるひとときを持ってみてはいかがでしょうか。
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