
どんど焼きとは?意味・由来・正しいやり方をわかりやすく解説
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新年を迎えると、全国各地で行われる様々な年中行事のひとつに「どんど焼き」があります。地域によっては「左義長(さぎちょう)」「とんど」などとも呼ばれ、古くから日本人の暮らしに深く根付いた伝統行事です。
しかし、現代ではどんど焼きに参加したことがない、あるいは行事の意味をよく知らないという方も増えつつあります。少子高齢化や地域行事の縮小、生活スタイルの多様化などによって、こうした伝統文化が徐々に薄れてきているのが現状です。それだけに、改めてどんど焼きの意義や由来を知り、正しいやり方や注意点を学ぶことは、日本文化を未来につなぐ上でも大切なことです。
本記事では、「どんど焼きとはどんな行事なのか?」という基本的な疑問から始まり、その語源や由来、行事の内容、焚き上げできるもの・できないもの、さらには参加時に知っておきたい注意点まで、幅広くかつ深く掘り下げて解説していきます。
どんど焼きとは?
「どんど焼き」は、毎年1月の中旬、主に小正月(1月15日)前後に行われる日本の伝統的な火祭り行事のひとつです。地域によっては「左義長(さぎちょう)」「とんど焼き」「どんと祭」「さいと焼き」など様々な呼び名があり、その土地の歴史や文化背景によって呼称も実施方法も少しずつ異なりますが、共通して「正月飾りを燃やす」「神様を送り出す」「新年の健康や幸運を祈願する」といった目的があります。
小正月に行われる年中行事のひとつ
日本の年中行事は「大正月(1月1日)」と「小正月(1月15日)」のふたつの節目を中心に組まれており、どんど焼きはこの小正月の行事として定着しています。大正月では年神様を迎え入れるための準備や祝賀が行われ、小正月ではそれを締めくくる意味合いで、正月飾りや書き初めなどを焚き上げるのがどんど焼きです。
この火を通じて年神様を天に送り返し、役目を終えた正月飾りなどを丁寧に処理することで、1年の無病息災・五穀豊穣・学業成就などを願います。
なぜ火で燃やすのか?日本における「火」の神聖性
どんど焼きの中心には「火」があります。これは単に物を燃やして処分するためではなく、火そのものに清め・浄化の力があると信じられてきたからです。
日本では古代より、火は神聖なものとされ、神道の儀式や仏教の供養でもたびたび登場します。神棚や仏壇の蝋燭、神社での篝火(かがりび)なども、その名残です。どんど焼きで火を焚く行為も、物を「ただ捨てる」のではなく、「清めて、感謝とともに手放す」ことに重点が置かれています。
この点において、現代的なごみ焼却や廃棄処分とは明確に異なり、どんど焼きは「魂を込めたものを、神聖な火で丁寧に還す」という儀式的な意味を持っているのです。
地域ごとのバリエーションも豊富
「どんど焼き」は全国に広く伝わっていますが、そのスタイルは多様です。
たとえば
- 長野県や新潟県では「三九郎」と呼ばれ、竹や杉の枝で組んだやぐらに正月飾りをくくりつけて燃やします。
- 京都や奈良では「左義長(さぎちょう)」として神社の境内で盛大に焚き上げが行われることが多いです。
- 九州地方では「鬼火焚き」や「とんど祭り」として子どもたちが中心となって行事を盛り上げる例もあります。
また、どんど焼きの火で焼いた団子や餅を食べると無病息災になる、書き初めの紙を火に入れて高く舞い上がると字が上達する、といった言い伝えや風習も地域ごとにさまざまです。
どんど焼きの起源とその背景
「どんど焼き」は、現在では地域行事や正月の締めくくりとして親しまれていますが、その起源をたどると、実は平安時代の宮中行事にまで遡ることができます。ここでは、その歴史的背景と語源について、文献や伝承をもとに詳しく解説します。
平安時代の「左義長(さぎちょう)」がルーツ
どんど焼きの最も古い形は、平安時代に宮中で行われていた「左義長(さぎちょう)」とされています。『続日本紀』や『類聚国史』などの文献には、宮中で行われていた年初の火を使った催しとして記録が残っており、当時は1月15日に扇子や短冊、書初めなどを竹で組んだ「やぐら」に結びつけて燃やし、陰陽師が悪霊を祓うための祝詞を唱えるという宗教的・魔除け的な意味を持つ行いでした。
左義長はその後、次第に武家社会、そして庶民の間にも広がっていきましたが、その過程で宗教的な意味合いが薄れ、より日常的・地域的な年中行事へと変化していきました。現在でも京都などでは「左義長」という名称が残っており、古式ゆかしい伝統的な行いとして続けられている地域もあります。
農耕儀礼と融合していった民間信仰
中世以降、左義長は日本各地の農村部に伝わり、農耕にまつわる習わしや民間信仰と融合していきました。特に、農民たちの間では1年の五穀豊穣や無病息災を願って、田の神や年神様を火で送り出す季節の行いとしての性格が強まりました。
この段階で、現在のどんど焼きに見られるような「正月飾りを燃やす」「餅や団子を焼く」「火にあたって厄除けを祈る」といった風習が加わり、より生活に密着した年中行事となっていきます。つまり、どんど焼きは単に宮中の催しの名残ではなく、民衆の祈りや暮らしの知恵によって育まれてきた行事だと言えるでしょう。
「どんど焼き」という名前の語源
「どんど焼き」という呼び名には諸説ありますが、もっとも一般的に知られている説は、火が「どんど」と音を立てて燃える様子から名付けられたというものです。実際に、竹や杉など油分の多い植物が燃える際には、「パンッ」と音を立てたり、激しく爆ぜることがあります。この音や勢いが、どんど焼きという名前の語感と結びついたと考えられています。
また、他にも「とんど」「どんと」「どんどん火」など、音の響きに由来する名称は全国各地で見られ、火の激しさや神秘性を象徴する言葉とされています。
なお、京都や奈良などでは現在でも「左義長」の名を正式名称として使用しており、神社の年始の行事として伝統的な形を保った催しとして行われています。一方、関東や東北地方では「どんど焼き」「さいと焼き」などの呼び名が多く、民間主体のイベントとしての性格が強くなっています。
現代に続く「由緒ある火祭り」として
現在でも、神社や地域の自治体が主催するどんど焼きには、古来からの形式を守った内容が取り入れられていることも多く、数百年以上の歴史を持つ伝統的な行事として継承されている例も少なくありません。特に観光地や文化保護地区では、どんど焼きを通じて地域の歴史や文化に触れる貴重な機会としても注目されています。
どんど焼きで行われる具体的な内容とは
どんど焼きは、新年を迎えるにあたって飾られた正月飾りや書き初めを「焚き上げる」ことで、年神様(としがみさま)を天へ送り返し、一年の無病息災や家内安全、五穀豊穣を祈願する年中行事です。火を通じて感謝と祈りを込め、自然や神仏と向き合う、非常に日本的な文化が色濃く残る行いと言えるでしょう。
この章では、実際にどんど焼きでは何をするのか、その内容を詳しく解説します。
正月飾りを焚き上げる
もっともよく知られているのが、正月飾りの焚き上げです。具体的には以下のようなものが対象となります
- 門松(かどまつ)
- しめ縄(しめなわ)
- しめ飾り
- 鏡餅(乾燥したもの、またはカビのないもの)
- 破魔矢や熊手
- 神社や寺で受けた古いお守り・お札
これらは「年神様を迎えるための飾り」や「神仏とのつながりを示すもの」であるため、役目を終えた後にゴミとして処分するのではなく、神聖な火で丁寧にお焚き上げすることが習わしとされています。
ただし、燃えにくい素材(プラスチック・金属など)や装飾が多く含まれている場合には、取り外してから持ち込む必要があります。神社や自治体によっては、事前に「持ち込み可能なものリスト」を配布していることもありますので、確認しておきましょう。
書き初めを燃やして「字が上達」するよう祈願
どんど焼きでは、1月2日頃に行われる「書き初め」で書いた紙を燃やすという風習もあります。
このとき、紙が火の上昇気流に乗って高く舞い上がるほど「字が上手になる」「勉強ができるようになる」とされ、子どもたちにとっては楽しみのひとつにもなっています。
かつては学校で書き初めを行ったあと、クラス単位や町内会単位でどんど焼きに参加し、みんなで紙を燃やして願掛けをするという地域も多く見られました。
団子や餅を焼いて食べる
多くの地域では、どんど焼きの火で団子や餅を焼いて食べるという風習があります。
この火で焼いたものを口にすることで、
- 無病息災になる
- 風邪をひかない
- 胃腸が丈夫になる
- 健康に過ごせる
などのご利益があると信じられています。
特に、長野県や新潟県で行われている「三九郎(さんくろう)」では、小枝の先に刺した団子を囲炉裏のような火にかざしながら焼く光景が見られます。火を囲むことで自然と会話も生まれ、地域住民の交流の場としても機能しています。
火にあたって厄除け・健康祈願
どんど焼きの火そのものに「邪気を祓う力」「災厄を防ぐ力」があるとされており、火にあたるだけでもご利益があると信じられています。寒い時期に行われるため、焚き火の暖かさに感謝しながら自然と手を合わせたくなるような、そんな雰囲気も特徴的です。
また、一部の地域では、焚き上げの火の灰を自宅に持ち帰って庭や畑に撒くと「虫除けになる」「豊作になる」といった言い伝えもあり、火の残り灰にも神聖な力が宿ると考えられています。
地域によって異なるスタイルと内容
どんど焼きは全国で行われていますが、そのスタイルや準備、風習には地域差があります。
- 竹を組んで巨大なやぐらを作る地域(例:関東、信州)
- 神社の境内で神主による祝詞のあとに焚き上げを行う地域(例:京都、奈良)
- 子どもたちが中心となって火を囲む「とんど祭り」(例:九州)
行事の内容がその土地の文化や生活に根差しているため、どんど焼きは「一つの決まった形」ではなく、地域ごとのアイデンティティを表す文化的な行いとも言えるでしょう。
どんど焼きでお焚き上げできるものとできないもの
どんど焼きは、正月飾りやお守り、書き初めなどを「火で焚き上げる」ことで、年神様を見送り、感謝の気持ちとともに清めるという意味合いがあります。しかし、なんでも燃やせばよいわけではなく、焚き上げに適したものと適さないものが明確に区別されています。
地域によってルールや判断基準に差はありますが、基本的な考え方は共通しています。この章では、「どんど焼きに持ち込んでよいもの・いけないもの」を整理しながら、その背景についても解説します。
お焚き上げできるもの
基本的には、「神仏や年神様に関係するもの」「正月に使った縁起物」が対象です。以下の表に主な例をまとめます。
種類 | 内容 | 注意点 |
正月飾り | 門松、しめ縄、しめ飾り、鏡餅(乾燥状態)など | ビニール・プラスチック・針金などは取り外す |
書き初め | 習字紙、色紙など | 墨で書かれたものに限る。個人情報の記載は避ける |
お守り・お札 | 古い御守、御札、破魔矢、熊手など | 神社や寺院で授かったものに限る |
年賀状の一部 | 自作の飾りや祈願用のもの | 通常の郵便物や写真入りは不可の場合あり |
縁起物 | 干支の置物(紙製や木製など) | 燃やせる素材であることが条件 |
お焚き上げできないもの
「家庭ごみ」や「宗教・信仰に直接関係しないもの」、あるいは安全面・環境面で問題のあるものは、どんど焼きで燃やすことはできません。
種類 | 内容 | 理由 |
プラスチック類 | 飾りの台座、包装材、ラメ・ビニール製飾りなど | ダイオキシンなど有害物質発生の恐れ |
金属・ガラス | 鏡餅の飾り、台座、金属パーツなど | 燃えず、火の中で危険を伴う |
写真・人形 | 家族写真、ぬいぐるみ、雛人形など | 精神的意味合いが強く、別途供養が適切 |
台紙・化学製品 | ラミネート加工された紙、スプレー塗装の飾りなど | 燃焼時に有毒ガスが発生する可能性 |
お金や貴金属 | 縁起物と見なされない | 焚き上げではなく個人保管または処分が必要 |
「神様のもの」でも、例外的に燃やせないものもある
たとえば、お守りについても、以下のようなものは注意が必要です
- 車用の交通安全ステッカー(接着剤部分が燃えない)
- 御朱印帳(可燃だが燃やさずに保管するのが通例)
- ビニールカバー付きのお守り(必ず外してから)
また、「人形」「写真」「ぬいぐるみ」など、人の思いや記憶が深く込められているものは、どんど焼きでの処分に適していないとされ、寺院での「人形供養」や「写真供養」など、専用の供養方法を利用するのが一般的です。
どんど焼きに持参する前にチェックすべきこと
- 素材を確認する
紙・木・わら・自然素材でできているかどうかを基準に。 - 分別する
飾りの中にプラスチック・針金・ホチキスなどが含まれていれば、あらかじめ取り除いておきましょう。 - 自治体や神社のルールを確認する
場所によっては持ち込めるものに制限がある場合があります。特に都市部では、焚き上げ自体が行われず、神社での回収のみになるケースも。 - まとめて袋詰めにしない
袋ごと燃やすのはNG。中身が何か確認できるようにするのが基本です。
なぜ分別や注意が必要なのか?
現代のどんど焼きは、昔と違い、環境問題や安全管理の観点からも厳しい制約が設けられています。かつては家庭の焚き火感覚で「なんでも燃やせた」時代もありましたが、現在では神社や自治体が安全に配慮し、自然素材に限った焚き上げを推奨しています。
これは単に規制というだけでなく、「神聖な火に不浄なものを入れない」という文化的な価値観にも通じています。
どんど焼き参加時のマナーと注意事項
どんど焼きは、地域住民が集い、正月飾りを丁寧に焚き上げる神聖な年中行事です。多くの神社や自治体で毎年恒例として開催されていますが、火を使う行事である以上、安全面やマナーへの配慮が欠かせません。
この章では、実際にどんど焼きに参加する際に知っておくべき注意点や心構えを、当日・後日という視点からわかりやすく解説します。
当日の流れと注意点
1. 時間と場所を守る
開催時刻は厳守です。遅れて持ち込むと、すでに火が消えていたり、受付が終了している場合もあります。特に神社では、神職の祝詞(のりと)や簡単な式次第がある場合もあるため、少し早めに到着するのがベストです。
2. 火に近づきすぎない
やぐらが組まれ、大きな炎が立ち上がることもあります。火の粉が舞うこともあるため、小さなお子さんは大人がしっかり見守ることが大切です。火のそばで写真を撮る際も、安全距離を保ちましょう。
3. 燃えやすい服装に注意
化繊(ナイロン・ポリエステル)などは火の粉で穴が開きやすく危険です。できれば綿素材や難燃性の衣類、帽子を着用するなど、服装にも安全への配慮を。
4. 写真撮影・SNS投稿はマナーを守って
神社での催しや年配の方が多い場面では、撮影そのものが控えめに求められることもあります。無断撮影や大声での会話は避け、厳粛な雰囲気を壊さないよう心がけましょう。
家族で参加する際のポイント
子どもたちにとって、どんど焼きは貴重な文化体験の場です。安全に楽しむためにも、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 必ず保護者が付き添う
火のそばでは走らない、押さない、火を覗き込まないなど基本マナーを教えておく。 - 餅や団子の扱いに注意
串に刺した団子や餅を焼く地域では、やけどのリスクがあります。火から目を離さず、熱くなった団子をすぐ口に入れないよう注意が必要です。 - 学びの機会にする
どんど焼きの意味や由来を事前に話しておくと、ただの「お祭り」ではなく、文化や感謝の心を学ぶ機会になります。
環境・地域への配慮
どんど焼きは地域に根付いた共同の行事であり、参加者一人ひとりの意識が成功に直結します。以下のような配慮も忘れずに。
- ごみは持ち帰る(特に飲み物・食べ物の容器)
- 周囲の方へのあいさつや声かけを忘れない
- 主催者やスタッフへの感謝を示す
また、近年は環境配慮の観点から焚き上げそのものを縮小している地域もあります。そうした地域では、火を焚かずに「神社での納札のみ」「リサイクル回収に準じた形での処分」などに切り替えている例もあるため、現地の方針を尊重しましょう。
まとめ
どんど焼きは、日本の正月行事を締めくくる重要な年中行事のひとつであり、正月飾りや書き初め、お守りなどを火で焚き上げることで、年神様を送り、1年の無病息災や家内安全を祈るという意味が込められています。
その起源は平安時代の宮中行事「左義長(さぎちょう)」に遡り、時代とともに庶民の間へ広がり、農村文化や地域信仰と融合しながら現在の形に発展してきました。地域ごとに「とんど」「三九郎」「鬼火焚き」などと呼ばれ、祭りのスタイルや参加の仕方も多様で、日本各地の風土と文化が息づいている行いであると言えるでしょう。
現代においても、どんど焼きは単なる風習ではなく、「物を丁寧に扱うこと」「感謝を持って手放すこと」「自然と共に生きる姿勢」など、日本文化に根差した価値観を伝える行事として再評価されています。特に子どもたちにとっては、文化や習わしを身近に感じる貴重な体験の場でもあります。
ただし、火を使う行事である以上、安全管理やマナーへの配慮が求められます。参加する際には、持ち込む物の素材や地域のルールを確認し、周囲への思いやりを忘れないことが大切です。
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