脱水症状

高齢者の脱水症状に要注意!初期サインの見分け方と日常に取り入れたい予防・対処法

公開日: 1970.1.1     更新日: 2025.8.27

目次

はじめに

夏場に多く見られる「脱水症状」。気づいたときには重症化していた…ということも少なくありません。特に高齢になると喉の渇きを自覚しづらく、水分不足に気づかないまま症状が進行してしまうことがあります。本記事では、高齢者が脱水になりやすい原因や、初期のサイン、家庭でできる予防・対処法までを詳しく解説します。

高齢者における脱水症は、単に水分不足というだけでなく、熱中症や腎機能障害、心疾患など深刻な健康被害を引き起こす可能性があります。そのため、家族や介護者が日常的に注意を払い、早期に対応することが重要です。

本記事を読むことで、脱水症の基本的な知識から実践的な予防法まで理解でき、実生活に取り入れるための具体的なヒントを得ることができます。大切なご家族の健康を守るために、ぜひ最後までご覧ください。

「脱水症」とは?

脱水症の定義と仕組み

脱水症とは、体内の水分や電解質が不足した状態を指します。人間の体は約60%が水分で構成されており、この水分は血液循環や体温調節、老廃物の排出など生命維持に不可欠な役割を果たしています。体内の水分が一定量を下回ると、細胞や臓器が正常に働けなくなり、さまざまな不調を引き起こします。

特に高齢者では、喉の渇きを感じにくくなるため、気づかないうちに水分不足が進行してしまいます。さらに、利尿作用のある薬を服用している場合や、慢性疾患を抱えている場合には、より脱水症に陥りやすくなります。

体内の水分量とその役割

体内の水分は、大きく「細胞内液」と「細胞外液」に分かれます。細胞内液は体重の約40%、細胞外液は約20%を占めています。細胞外液には血液やリンパ液、組織液が含まれており、これらは栄養や酸素を運ぶ役割を担っています。

下表は年齢ごとの体内水分量の目安です。

年齢層

体内水分量の割合

新生児

約75%

成人男性

約60%

成人女性

約55%

高齢者

約50%

このように高齢者はそもそも体内の水分量が少なく、少しの水分不足でも体調不良を起こしやすい状態にあります。

軽視できない脱水症の危険性

脱水症は軽度であれば「喉が渇く」や「だるい」といった症状にとどまりますが、進行すると深刻な健康被害につながります。代表的なリスクとして以下が挙げられます。

  • 意識障害やせん妄などの神経症状

  • 腎臓の機能低下による老廃物の排出不良

  • 血液が濃くなることで起こる血栓症のリスク上昇

  • 熱中症の引き金となる体温調節機能の低下

特に高齢者では、これらの症状が急速に進行することがあり、放置すると命に関わるケースもあります。そのため、「少しの水分不足だから大丈夫」と軽視せず、早期の対策を心がける必要があります。

高齢者が脱水症に陥りやすい理由

加齢による体内水分量の減少

人間の体は年齢を重ねるごとに体内の水分量が減少していきます。成人男性でおよそ60%、女性で55%程度の体内水分量が、高齢者になると約50%まで低下するとされています。この減少は、筋肉量の減少が主な要因です。筋肉は水分を多く含んでいるため、加齢によって筋肉が減ると必然的に体内水分量も減少するのです。

その結果、高齢者は少しの水分不足でも脱水症に陥りやすく、重症化しやすい傾向があります。

喉の渇きへの感度が鈍る

加齢に伴い、脳の視床下部にある「口渇中枢」の働きが低下します。これにより、体が水分不足に陥っても「喉が渇いた」と感じにくくなります。実際に、脱水症状が出ている高齢者に水分を摂るよう促しても「喉は渇いていない」と答えることが少なくありません。

この「喉の渇きを感じにくい」という特性は、脱水を見逃す大きな原因のひとつです。本人の自覚症状に頼るのではなく、家族や介護者が定期的に水分摂取を促すことが欠かせません。

夜間頻尿を避けるための水分制限

高齢者の多くが夜間頻尿に悩まされています。そのため「夜トイレに行くのが大変だから」と就寝前や夕食後の水分摂取を控える方が少なくありません。ところが、この習慣が知らぬ間に脱水症状を招く原因となります。

夜間頻尿への不安から水分を制限してしまうと、特に夏場や暖房を使用する冬場には体内の水分が不足し、朝起きたときには脱水状態になっているケースも見られます。

病気や服薬(利尿剤・下剤など)の影響

高齢者は高血圧や心不全、腎疾患などの治療のために利尿剤を処方されていることが多くあります。利尿剤は体内の余分な水分を排出することで病状をコントロールしますが、その分、体が脱水に傾きやすくなります。

また、慢性便秘により下剤を常用している場合も、下痢や排便の増加で水分が失われるリスクがあります。こうした服薬の影響も、脱水症に陥りやすい要因です。

認知症や寝たきりなどによる水分摂取の困難さ

認知症の高齢者は、喉の渇きを感じにくいだけでなく、飲み物を口にする行為自体を忘れてしまうことがあります。また、寝たきりや体が不自由な方は自分で水分を用意することが難しく、周囲のサポートがなければ必要な水分を摂取できません。

特に要介護状態の高齢者では、介護者の気づきと声かけが重要であり、定期的に水分を摂取できる環境を整えることが脱水症予防の鍵となります。

こんな症状があれば注意!脱水症のサイン

高齢者における脱水症は、軽度から重度まで進行度によって症状が大きく異なります。症状を早期に発見するためには、日常生活の中で小さな変化に気づくことが何より大切です。ここでは、重症度別に注意すべきサインを詳しく解説します。

軽度のサイン

脱水が始まったばかりの段階では、自覚症状が乏しく見過ごされがちです。しかし、この段階で気づければ、比較的簡単な対応で症状を改善することができます。

  • 口の中が渇く/唇が乾く
    水分不足の初期に現れる最も一般的な症状です。唇のひび割れや舌の乾燥も見逃さないようにしましょう。

  • 皮膚にハリがない/手足が冷たい
    皮膚の弾力が失われ、軽くつまんでも元に戻るのが遅くなるのは、体内の水分不足によるサインです。

  • 倦怠感・食欲不振・集中力の低下
    軽い疲労感や食欲の低下、ぼんやりとした様子が見られたら、脱水を疑う必要があります。

中度のサイン

水分不足がさらに進行すると、身体の機能に明らかな異常が出始めます。ここで適切な対応を取らなければ、重度へと移行する危険性があります。

  • 体温上昇/発熱
    水分不足により体温調節がうまくいかず、体温が上昇することがあります。熱中症と見分けがつきにくい場合もあります。

  • 頭痛・めまい・ふらつき
    血液量の減少により脳への血流が不足し、頭痛やふらつきが起こります。転倒のリスクも高まるため、注意が必要です。

  • 脈拍の増加・血圧の低下
    心臓は少ない血液量で全身に酸素を送ろうとするため脈拍が早くなり、同時に血圧は低下していきます。

重度のサイン

脱水が進行し重症化すると、生命の危険が差し迫った状態となります。この段階では自己判断で対応するのは非常に危険であり、速やかに医療機関を受診する必要があります。

  • 意識がもうろうとする/反応が鈍い
    脳が十分な血流を得られないため、意識が混濁したり、呼びかけに対する反応が鈍くなったりします。

  • 立ち上がれない/動けない
    極度の脱力感により体を動かせなくなります。転倒や寝たきりのきっかけになることもあります。

  • 尿がほとんど出ない/色が濃い
    尿量が極端に減少し、排泄されても濃い黄色や茶褐色になるのは、体が深刻な水分不足に陥っているサインです。

このように、脱水症のサインは軽度から重度まで段階的に現れます。特に高齢者では本人が症状を訴えにくいため、家族や介護者が客観的に観察し、早めの対応を心がけることが重要です。

脱水症の症状が見られたときの応急処置

高齢者に脱水症の症状が見られた場合、迅速かつ適切な対応が求められます。軽度から中度の場合は家庭での応急処置で改善できる可能性がありますが、重度の場合には速やかに医療機関を受診することが必要です。

軽度〜中度の場合

  • 冷房を効かせて安静に
    体温が上がっている場合は、まず涼しい環境に移動させましょう。扇風機や冷房を使用して体温を下げることが大切です。ただし、冷やしすぎには注意し、体を冷やしすぎて震えが出るような状況は避けてください。

  • 経口補水液やスポーツドリンクの活用
    単に水を飲むだけでは不十分な場合があります。汗や尿とともに失われるナトリウムやカリウムなどの電解質を補うために、経口補水液(ORS)やスポーツドリンクを活用しましょう。特に経口補水液は、世界保健機関(WHO)も推奨している脱水時の補水方法です。

  • 水分と共に塩分補給も忘れずに
    真水だけを大量に摂取すると、体内の電解質バランスが崩れ、低ナトリウム血症を起こすことがあります。塩分を含む味噌汁や梅干しなども併用すると効果的です。

重度の場合

  • すぐに医療機関へ(救急車の利用を検討)
    意識がもうろうとしている、立ち上がれない、尿が出ないといった重度の症状が見られた場合は、迷わず救急車を呼びましょう。時間の経過が症状を悪化させるため、迅速な対応が命を守ります。

  • 無理に飲ませない/誤嚥のリスクに注意
    意識がはっきりしない状態で無理に水分を与えると、誤嚥によって窒息や肺炎を引き起こす可能性があります。この場合は経口での水分摂取は避け、医療機関での点滴による補水が必要です。

応急処置では「水分補給」「体温調整」「休養」の3点が基本となります。高齢者の場合は特に回復が遅れる傾向にあるため、軽度の段階で素早く対応し、重症化を防ぐことが重要です。

普段からできる脱水症の予防法

高齢者が脱水症に陥らないためには、日々の生活習慣に工夫を取り入れることが何より大切です。ここでは、家庭で簡単に実践できる予防法を紹介します。

1日の水分摂取量の目安(体重1kgあたり40ml程度)

健康な高齢者の場合、体重1kgあたり約40mlの水分を摂ることが目安とされています。例えば、体重50kgの人であれば1日約2リットルが必要量となります。ただし、このうち約半分は食事から自然に摂取できるため、飲み物としてはおよそ1〜1.2リットルを意識すればよいでしょう。

体重

推奨水分量

食事からの摂取(目安)

飲み物として必要な量

40kg

約1.6L

0.6〜0.7L

約1L

50kg

約2.0L

0.8〜0.9L

約1.1〜1.2L

60kg

約2.4L

1.0〜1.1L

約1.3〜1.4L

食事や間食での水分補給(スープ・果物・ゼリーなど)

飲み物以外にも、水分を多く含む食材を積極的に取り入れることが効果的です。スープや味噌汁、果物(スイカ、みかん、梨など)、ゼリーやヨーグルトなどは水分補給に適しています。これらは同時にビタミンやミネラルも補えるため、一石二鳥の効果があります。

起床時・入浴後・就寝前に意識的に水分を摂る

高齢者が脱水を起こしやすいのは、起床直後、入浴後、就寝前のタイミングです。

  • 起床時:睡眠中に汗や呼吸で水分を失っているため、コップ1杯の水を摂取する

  • 入浴後:体温上昇や発汗で失われた水分を補給する

  • 就寝前:夜間頻尿を気にする場合でも、少なくとも100ml程度は摂取する

これらを習慣化することで、無理なく必要な水分を補うことができます。

好みに合わせた飲み物の工夫(冷たすぎず、甘すぎず)

高齢者は冷たい飲み物を嫌がる場合があるため、常温や少しぬるめの飲み物を準備すると飲みやすくなります。また、砂糖を多く含むジュース類は血糖値の急上昇を招くため避け、水や麦茶、カフェインレスのお茶がおすすめです。味に変化をつけるために、レモン水や薄いスポーツドリンクを利用するのも効果的です。

湿度・室温の管理(エアコンや加湿器の活用)

体温調整の機能が弱まっている高齢者にとって、室内環境の管理は脱水症予防に直結します。夏は冷房を利用して室温を28℃以下に保ち、冬は暖房による乾燥を避けるため加湿器を活用するとよいでしょう。特に湿度が40%を下回ると脱水が進みやすくなるため注意が必要です。

熱中症との違いと併発への注意

脱水症と熱中症は密接に関連していますが、同じ病気ではありません。特に高齢者では両者が同時に進行することも多いため、違いを理解し、適切に対応することが求められます。

熱中症との共通点と違い

脱水症と熱中症はいずれも体内の水分不足が関係しますが、発症のメカニズムには違いがあります。

  • 脱水症:水分や電解質の不足が主因で、季節や環境に関係なく起こり得ます。冬でも乾燥や発汗によって発症することがあります。

  • 熱中症:高温多湿の環境下で体温調節がうまくいかなくなり、体温が異常に上昇することで起こります。脱水症がその引き金となることが多いです。

つまり、脱水症は「体内の水分不足そのもの」であり、熱中症は「環境による体温上昇に伴う症候群」であると整理できます。

脱水が熱中症を引き起こすケース

高齢者にとって危険なのは、脱水症が熱中症を誘発するケースです。体内の水分が不足すると、汗をかいて体温を下げる働きが不十分になり、結果として体温が急激に上昇します。

特に夏場の室内では、冷房を我慢して過ごしている高齢者が少なくなく、気づかぬうちに脱水と熱中症を併発してしまうことがあります。

予防・初期対応はほぼ同様だが、医療機関の判断を仰ぐ重要性

脱水症と熱中症の初期対応は共通しており、涼しい環境に移すことと水分・電解質の補給が基本です。しかし、両者を完全に区別するのは困難なため、症状が中度以上の場合は医療機関の判断を仰ぐことが欠かせません。

特に、発熱や意識の混濁、動けないといった症状がある場合には、自己判断せず速やかに救急要請を行うことが重要です。

高齢者では「脱水症」と「熱中症」の境界があいまいで、しばしば同時に発症します。そのため、「水分補給と室温管理を徹底する」というシンプルな対策が、両方の予防につながります。

家族や介護者ができること

高齢者の脱水症を防ぐには、本人の自覚だけに頼らず、家族や介護者が日常的にサポートを行うことが不可欠です。特に認知症や寝たきりの方は、自己判断での水分補給が難しいため、周囲の見守りと工夫が大きな役割を果たします。

日々の観察ポイント(食事・排泄・行動の変化)

高齢者の体調変化はささいな兆候から始まります。以下のような観察ポイントを意識しましょう。

  • 食事:食欲が落ちていないか、汁物を残していないか

  • 排泄:尿の回数や色に変化がないか、便秘が続いていないか

  • 行動:ぼんやりしている時間が増えていないか、動作が遅くなっていないか

これらの小さな変化を見逃さず、早めに水分補給を促すことで、脱水の進行を防ぐことができます。

本人が自分で気づきにくい点をサポート

高齢者は喉の渇きを感じにくいため、「喉が渇いたら飲む」では遅れてしまうことが多いです。家族や介護者が「今の時間は飲むタイミング」と気づかせるサポートが重要です。

例えば、会話の流れで「そろそろお茶を飲みませんか?」と自然に勧める、テレビを見終わったらコップ1杯の水を飲むなど、生活の流れに合わせて飲水のタイミングを習慣化することが有効です。

水分摂取を習慣化させる工夫(タイマー活用・見える位置に飲み物)

実際に水分摂取を習慣化するには、以下のような工夫が役立ちます。

  • タイマーを利用:2〜3時間おきにアラームを設定し、飲水のきっかけをつくる

  • 見える位置に飲み物を置く:冷蔵庫の奥ではなく、テーブルや手の届く場所に常備する

  • 好みの飲み物を選ぶ:麦茶やハーブティーなど、本人が「美味しい」と感じるものを用意する

  • 飲みやすい容器を使用:軽量で持ちやすいコップやストロー付きボトルを使う

こうした工夫によって、「気づいたときに飲む」から「自然と飲む」へと行動が変化していきます。

点滴が必要なタイミングの目安を知っておく

どれだけ努力しても、経口摂取だけでは改善が難しいケースがあります。特に以下のような状態になった場合は、速やかに医療機関を受診し、点滴による補水を検討すべきです。

  • 水分を摂ろうとしても吐き気が強く飲めない

  • 意識がもうろうとしており、誤嚥の危険がある

  • 尿量が著しく減少している、または24時間以上排尿がない

  • 体温が高く、頭痛やけいれんを伴っている

これらは脱水がすでに重度に進行しているサインであり、家庭での対応を超えている状態です。

家族や介護者が「ここまでなら家庭で対応」「ここからは医療機関に任せる」と判断できるようにしておくことで、高齢者の命を守る可能性が大きく高まります。

まとめ

高齢者の脱水症状は、日常生活の中で気づかれにくい小さなサインから始まります。喉の渇きを感じにくい、夜間頻尿を避けるために水分を控える、服薬や持病の影響といった複数の要因が重なり、気づいたときにはすでに中度から重度に進行していることも少なくありません。

軽度であれば口や唇の乾燥、皮膚のハリの低下、倦怠感などにとどまりますが、進行すると頭痛やめまい、血圧の低下、さらに重度では意識障害や尿量の減少など、命に関わる危険な状態に至る可能性があります。したがって、家庭でのこまめな観察と早期対応が何より重要です。

日常的に実践できる予防策としては、体重に応じた水分摂取量を意識し、スープや果物など食事からも水分を補うこと、起床時や入浴後など水分が失われやすいタイミングでの補給、室温や湿度の管理が挙げられます。さらに、家族や介護者がタイマーや声かけを活用して水分摂取を習慣化させる工夫も欠かせません。

また、脱水症と熱中症は密接に関連しており、特に夏場には両者が併発する危険性があります。症状が中度以上に進んだ場合には、迷わず医療機関に相談し、必要であれば点滴治療を受けることが安全です。

大切なのは「気づいたときにはすでに重症化」という事態を避けるため、日頃から予防を徹底し、小さなサインを見逃さないことです。高齢者が安心して日常を過ごすためには、家族や介護者が積極的に関わり、適切なサポートを行うことが何よりの対策となります。今日からできる小さな習慣を積み重ね、脱水症状から高齢者の健康を守りましょう。

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