認知症などのケアへの新しいアプローチ「ユマニチュード」とは?

2024.10.24

    ユマニチュードは、フランスで誕生したケア技法であり、認知症患者へのアプローチとして高く評価されています。この技法の大きな特徴は、「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱を中心に、人間としての尊厳を尊重し、相手の存在を大切にする点です。今回は、ユマニチュードの基本的な理念やその効果、具体的な実践方法について詳しくご紹介します。

    ユマニチュードの起源と理念

    ユマニチュードは、フランスの二人の体育学の専門家、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティによって開発されました。もともと彼らは、病院職員の腰痛予防プログラムの指導者としてフランス文部省から派遣されたことがきっかけで、介護の分野での仕事を始めました。その中で彼らがまず気づいたのは、介護の現場で「何でもやってあげている」ことによって、患者の持つ本来の力を奪ってしまっているという現実でした。 例えば、歩ける患者でも車椅子で移動を勧めたり、立てる人でもベッド上での清拭が行われたりしている状況が一般的でした。ジネストとマレスコッティは、これでは患者の能力を低下させてしまうと考え、可能な限りその人の持っている力を活かすことに重点を置きました。ここから、「その人のもつ能力を奪わないための技法」が試行錯誤の中で生まれ、結果的に「ユマニチュード」と名付けられたのです。この名称はフランス語で「人間らしさを取り戻す」という意味を持つ造語です。

    ユマニチュードの4つの柱

    ユマニチュードは、ケアの際に「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱を意識し、これを組み合わせた「マルチモーダル・ケア」を実践します。この4つの柱は、「あなたは大切な存在です」と相手に伝えるための具体的な手段です。

    1. 見る技術

    多くの介護の場では、対象者の身体の部位を確認するための「見る」が中心です。しかし、ユマニチュードでは、視線を合わせることを通じて相手の存在を認め、「あなたはここにいて、私はあなたを見ている」というメッセージを送ります。特に、同じ目の高さから優しく見つめることが大切です。視線を合わせることで、「私たちは平等である」、「私はあなたを尊重している」というメッセージを伝えることができます。

    2. 話す技術

    「話す」ことは、相手とのコミュニケーションにおいて非常に重要です。ケアの際には、ただ作業的な指示を出すのではなく、相手が理解しやすい穏やかなトーンで、前向きな言葉を使います。例えば、「これからお食事の時間です。楽しみにしていましたか?」というように話しかけます。また、相手が返答をしない場合でも、ケアの内容を実況する「オートフィードバック」技術を用い、無言の状態が相手に不安を与えないように努めます。

    3. 触れる技術

    触れることも、ケアを受ける人にとっては強いメッセージを含んでいます。ユマニチュードでは、相手を「つかむ」のではなく、広い面積で優しく触れることを重視します。触れる際の速度や圧力も大切で、相手に対して尊重と温かみを伝えるように心がけます。さらに、敏感な部位ではなく背中や肩など鈍感な部位から触れ始め、徐々に手や顔などの敏感な部位に移行するなど、相手の反応に配慮します。

    4. 立つ技術

    ユマニチュードにおいて、立つことは単なる運動機能の維持にとどまりません。人間は立つことで、その姿勢や動作に「人間らしさ」を表現することができます。介護の場面でも、できるだけ立つ時間を確保し、立位の支援を通じて患者の尊厳を守ることが重要とされています。たとえ短時間でも、食事やトイレなどの場面で立つことを意識的に取り入れることで、寝たきりの防止にもつながります。

    ユマニチュードの5つのステップ

    ユマニチュードでは、介護のプロセスを「5つのステップ」に沿って進めます。この5つのステップを通じて、患者との良好な関係を築くことが可能になります。

    1. 出会いの準備

    自分の訪問を告げ、相手の空間に入る許可を得ます。これは相手のプライバシーを尊重する行動です。

    2. ケアの準備

    ケアを始める前に、ケアを行うことへの合意を得ます。相手に「これから何をするか」をしっかり伝え、了承を得ることが重要です。

    3. 知覚の連結

    実際のケアを行います。このとき、「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱を駆使してケアを進めます。

    4. 感情の固定

    ケアが終わった後、相手と共に過ごした時間を振り返ります。たとえば、「今日も一緒に良い時間を過ごせましたね」と声をかけます。

    5. 再会の約束

    次回のケアに向けた約束を交わし、相手に安心感を与えます。これにより、次回のケアを受け入れる準備が整います。

    ユマニチュードの効果と具体的な導入事例

    ユマニチュードを導入することにより、認知症患者の心理的安定がもたらされ、暴言や抵抗行動の減少が報告されています。例えば、実践例として、介護職員が「見る」「話す」「触れる」の技術を用いて患者に接した結果、患者が自発的に笑顔を見せるようになったケースや、ケアを受け入れる意欲が高まった事例が多く報告されています。 さらに、ユマニチュードを導入することにより、介護者のストレス軽減やスタッフ間のコミュニケーションの向上にも寄与しています。フランスや日本の多くの医療・介護施設で導入が進み、その効果が確認されています。特に日本では、京都大学や九州大学などの情報学・心理学の専門家と協力し、人工知能を活用したケア技術の評価が進んでおり、今後さらに科学的な裏付けが強化される見込みです。

    まとめ

    ユマニチュードは、相手の人間らしさを尊重し、信頼関係を築くためのケア技法です。その実践においては、「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱を軸に、患者とのコミュニケーションを通じて介護を行います。また、「5つのステップ」に沿ったプロセスによって、一貫したケアが実現できます。これらを通じて、ユマニチュードは認知症患者のケアの質を高め、介護現場に穏やかな環境をもたらすことを目指しています。 ユマニチュードを知る・学ぶための研修なども開催されています。この記事を読んで興味を持った方は、ぜひ学んでみてはいかがでしょうか? (参照:日本ユマニチュード学会 https://jhuma.org/humanitude/)

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