
目次
はじめに:タワマン節税、もうできない?──誤解と現実のギャップ
タワーマンション節税とは?過去に注目された理由
節税のインパクト:簡易なモデルケース
2024年以降の相続税評価ルール改正とは?
それでもゼロではない「節税効果」
どんな人ならまだタワマン節税が有効なのか?
活用が検討できる人
注意すべき人
タワマン節税に潜むリスクと落とし穴
評価額が高くなり、期待した節税効果が得られないケース
固定資産税や管理費の負担
賃貸・売却の出口戦略を考えておかないと資産価値が下がる懸念
国税庁の監視強化(特に不自然な節税スキームに対して)
タワマン以外に検討すべき相続税対策
不動産活用(自宅の建て替え・賃貸化)
生前贈与(ただし110万円非課税枠の注意点)
生命保険活用(非課税枠の利用)
信託や家族信託の活用(認知症リスク対策にも)
自分に合った相続税対策を見極めるには?
節税額だけで判断しない
家族構成や将来のライフプラン、資産の種類を総合的に検討
複数の手段を組み合わせるのが基本
専門家(税理士・司法書士・不動産コンサル)への相談が鍵
まとめ
はじめに:タワマン節税、もうできない?──誤解と現実のギャップ
かつて「富裕層の相続税対策」として絶大な注目を集めたタワーマンション節税、いわゆる「タワマン節税」。高層階を購入して相続することで、時価よりもはるかに低い相続税評価額が適用される──この制度の特性を活かし、大幅な節税が実現できるとして話題を呼びました。
しかし2024年、税制が見直され、「もう使えない」という情報が一人歩きしています。確かに従来のような極端な節税は難しくなりましたが、「完全に意味がなくなった」わけではありません。むしろ、制度を正しく理解し、他の相続税対策と組み合わせて活用することで、今でも十分に選択肢となり得るのです。
この記事では、タワーマンション節税の基本的な仕組みから、2024年の評価ルール改正の背景とその影響、さらには今でもタワマン節税が有効となりうるケース、注意すべき落とし穴、代替となる相続税対策の選択肢まで、実例や構造的な観点を交えてわかりやすく解説します。
タワーマンション節税とは?過去に注目された理由
タワーマンション節税の基本にあるのは、「不動産の評価方法と実際の市場価格(時価)との乖離」です。
不動産の相続税評価額は、建物部分については「固定資産税評価額」、土地部分は「路線価」または「倍率方式」で算出されます。いずれも、市場での実際の取引価格よりも低く評価されることが一般的です。特に、東京や大阪といった都市部のタワーマンションではこの乖離が顕著でした。
さらに特徴的なのが「高層階ほど価格が高いにもかかわらず、評価額はほぼ同じ」であるという構造です。例えば、1階と30階の同じ面積の部屋が、実勢価格では大きな差があるにもかかわらず、相続税評価額ではほとんど差がつかない。この構造的なギャップを利用して、多くの富裕層が節税対策として活用してきました。
節税のインパクト:簡易なモデルケース
項目 | 高層階タワマンの例 |
---|---|
時価(実勢価格) | 2億円 |
相続税評価額(建物+土地) | 約1億円 |
評価差額 | 約1億円 |
想定相続税率(仮定) | 50% |
節税効果 | 約5,000万円 |
このように、評価差額が大きければ大きいほど、課税対象が圧縮され、結果的に納める税金が抑えられます。加えて、収益物件として貸し出すことで、賃料収入を得ながら節税もできるという、まさに「資産形成と税対策の両立」が実現できる手法でした。
2024年以降の相続税評価ルール改正とは?
長年タワマン節税が活用される中で、「実態にそぐわない過度な節税」が社会的に問題視されるようになりました。特に、資産家が高層階の物件を相次いで購入し、あまりにも大きな評価差を利用して税負担を回避する事例が目立ったことが背景にあります。
このような状況を受けて、国税庁は2024年に相続税評価のルール改正を実施。従来の「固定資産税評価や路線価に基づく評価額」に対し、「時価との乖離が大きすぎる場合には補正を加える」という新たな考え方を導入しました。
新ルールのポイント
・高層階タワマンに対して補正率を導入
・評価額が時価の6割未満の場合、その評価額を強制的に引き上げる
・高層階であればあるほど、この補正率は大きくなる
・具体的には評価額が最大1.25倍程度に
・例:評価額8,000万円 → 1億円へ補正
この補正は全国一律ではなく、物件の立地や構造、販売価格と評価額の差などを総合的に判断して個別に適用されます。つまり、単に高層階の物件を購入しただけでは、従来のような節税は期待しにくくなったのです。
それでもゼロではない「節税効果」
重要なのは、「タワマン節税=完全に封じられた」わけではないという点です。補正が加わったとしても、評価額と時価に差があれば一定の節税は可能です。とくに、中層階や築年数が経過した物件などでは、評価の乖離が一定程度残る可能性があり、物件選びと活用法の再設計が鍵を握ります。
どんな人ならまだタワマン節税が有効なのか?
制度改正により「誰でも使える万能な節税策」ではなくなったタワマン節税ですが、条件や資産構成によっては依然として有効なケースがあります。ここでは、どのような人が今でもタワーマンション節税を検討すべきか、また、避けたほうがよいケースについて整理します。
活用が検討できる人
投資も兼ねてマンション保有を考えている人
タワーマンションは立地や資産価値の観点から、依然として人気の高い不動産です。特に東京23区内の駅近エリアにある物件は、賃貸需要が高く、保有中に安定した賃料収入が見込めます。こうした収益性と、ある程度の評価差による節税効果を組み合わせることで、「相続税対策」と「不動産投資」の双方を目的とした資産運用が可能になります。
他の相続税対策が取りにくい人
相続税対策には様々な手法がありますが、中には「分割可能な土地がない」「事業承継できる資産がない」といった制約のある人もいます。そのような場合、タワーマンションのように分かりやすく相続対策に組み込める資産は、計画の一部として依然有用です。
「小規模宅地等の特例」との併用が可能な人
タワーマンションを居住用として所有し、かつ一定の条件を満たす場合、相続税評価額を80%減額できる「小規模宅地等の特例」の適用が可能です。この特例とタワマンの評価差を組み合わせることで、節税効果をさらに高めることができます。特に、被相続人が長年住んでいた自宅マンションを相続するようなケースでは、適用可能性が高まります。

注意すべき人
キャッシュフローや空室リスクに不安がある人
タワーマンションは購入価格が高額な上に、管理費や修繕積立金、固定資産税などのランニングコストも高くつきます。空室が続けば収入がなくなる一方で、費用はかかり続けるため、綿密な資金計画が必要です。節税効果を得るために無理な購入をして、結果的に資産を圧迫してしまうようでは本末転倒です。
相続人が複数いて分割協議が難航しそうな人
不動産は現金のように簡単に分けられません。特にタワマンのような単独物件では、複数の相続人が平等に受け取ることが困難です。共有名義にすれば将来のトラブルの種になりかねません。相続争いの火種を避けるためには、事前に分割方法を考えておくことが不可欠です。
タワマン節税に潜むリスクと落とし穴
タワーマンション節税には魅力もありますが、それ以上に見落とされがちなリスクが存在します。以下では、よくある誤解や失敗例をもとに、注意すべきポイントを解説します。
評価額が高くなり、期待した節税効果が得られないケース
2024年以降、税務当局は物件の取引実績や周辺相場を参照して、「不自然な乖離」がある場合に補正を加えるようになりました。購入時には「節税できる」と試算していても、相続時に補正がかかれば期待したほどの効果が得られないこともあります。
特に、新築時点で購入したタワマンは、分譲価格が高く設定されている傾向があり、評価差が生じにくくなっています。今後は、中古市場の価格や築年数も含めて慎重に見極める必要があります。
固定資産税や管理費の負担
タワーマンションは共用施設が充実している反面、管理費や修繕積立金が高額になりやすい傾向があります。加えて、固定資産税評価額の上昇も今後見込まれるため、「持ち続けるコスト」が重くのしかかる可能性もあります。
また、築年数が経過するほど修繕積立金の増額も想定されるため、10年先、20年先の資金計画も視野に入れた資産設計が必要です。
賃貸・売却の出口戦略を考えておかないと資産価値が下がる懸念
一時的な節税を目的に購入したタワマンが、将来的に売却困難になったり、賃料が下落したりすると、資産価値全体の毀損につながります。特に地方都市や郊外のタワーマンションでは供給過剰の兆しもあり、空室リスクが顕在化しやすくなっています。
都市部であっても、周辺の再開発や駅の新設・廃止といったインフラの変化が、物件価値に大きな影響を与える可能性があるため、中長期的な出口戦略が不可欠です。
国税庁の監視強化(特に不自然な節税スキームに対して)
近年、国税庁は「不自然な節税」を重点的に監視しており、相続税の調査強化が進んでいます。特に、名義変更直後に売却したり、家族名義を使って購入したりといった「節税のためだけの行為」は、否認されるリスクが高まっています。
タワマン節税を検討する際は、正当な資産設計の一環として、実態に即した利用を行うことが重要です。書類や証拠を整備し、第三者にも合理性を説明できるよう備えておく必要があります。
タワマン以外に検討すべき相続税対策
タワーマンション節税が制限されたいま、他にどのような相続税対策があるのでしょうか。ここでは、比較的利用しやすく、タワマン節税と併用も可能な対策を体系的に紹介します。
不動産活用(自宅の建て替え・賃貸化)
不動産は、相続税評価において「利用目的による評価減」が得られる代表的な資産です。特に自宅として使用している土地については、「小規模宅地等の特例」が適用され、330㎡までであれば最大80%もの評価減が可能です。
また、自宅を賃貸物件に転用すれば、貸家評価減(30%)や貸家建付地の評価減(15〜20%)が受けられるため、相続税評価額を実質的に大きく圧縮できます。これは特に、都市部に土地を持つ家庭で有効です。
活用方法 | 適用可能な特例 | 評価減の目安 |
---|---|---|
自宅のまま相続 | 小規模宅地等の特例(居住用) | 最大80% |
賃貸住宅への転用 | 貸家評価・貸家建付地の評価減 | 合計40〜50%程度 |
土地の一部を賃貸化 | 部分的に特例適用可能 | 地積按分で評価減 |
ただし、賃貸経営は空室リスクや修繕コストなども発生するため、事業としての側面を持つ点に注意が必要です。
生前贈与(ただし110万円非課税枠の注意点)
年間110万円までの贈与は非課税という「暦年贈与」は、多くの家庭で利用されている制度です。ただし、2024年以降、相続税との一体的な課税(持ち戻し期間の延長など)によって、制度の使い勝手が変わりつつあります。
贈与を行う場合は、計画的に実行することが重要です。たとえば、以下のような手法が考えられます。
・教育資金一括贈与(最大1,500万円まで非課税)
・結婚・子育て資金贈与(最大1,000万円)
・相続時精算課税制度の活用(贈与税は課税されるが、後の相続税で調整)
いずれも、一定の用途制限や手続きがあるため、専門家のサポートを受けながら活用するのが現実的です。
生命保険活用(非課税枠の利用)
生命保険金は、法定相続人の数に応じて「非課税枠」が設けられており、次の式で算出されます。
500万円 × 法定相続人の数
この非課税枠を活用することで、相続財産を現金で残しながら、税負担を抑えることが可能になります。さらに、生命保険の大きなメリットは「現金で速やかに受け取れる」という点であり、納税資金の確保という意味でも重要な役割を果たします。
実際には、遺族の生活費、納税資金、葬儀費用などに充てられることが多く、資産の流動性を確保する意味でも有効です。
信託や家族信託の活用(認知症リスク対策にも)
近年注目されているのが、財産の管理や承継を目的とした「家族信託」です。これは、財産を信頼できる家族に託し、被相続人の生前から死後にかけて柔軟に資産を引き継ぐ仕組みです。
特に、被相続人が認知症などで判断能力を失った場合、従来の相続対策(贈与や売却)が一切できなくなるリスクがあり、そのリスクを避ける手段として家族信託が有効です。
家族信託の活用例:
・高齢の親が保有する不動産を、子供が管理・運用
・信託契約により、将来の分配方法や処分権限を事前に定めておく
・遺言代用信託として、死後の資産分配も可能
制度の設計は複雑ですが、法的に柔軟な対応ができるため、資産管理や相続が複雑な家庭には特に効果的です。
自分に合った相続税対策を見極めるには?
相続税対策を考える際に、最も重要なのは「自分の家族構成・資産構成・将来像」を正しく把握することです。単に税金が安くなるから、節税になるからという理由だけで対策を講じると、思わぬトラブルや失敗につながる可能性があります。
節税額だけで判断しない
節税効果が高いからといって、不動産を無理に購入したり、相続トラブルの火種となるような複雑な設計をすることは避けるべきです。納税額を減らすことと、家族の生活を守ることは別の問題です。
家族構成や将来のライフプラン、資産の種類を総合的に検討
以下のような要素を総合的に分析する必要があります:
・相続人の数と年齢、居住地
・相続財産の種類(現金、不動産、有価証券など)
・相続後の管理負担や売却可能性
・家族関係や分割協議のしやすさ
これらを把握することで、無理のない、実現可能な相続計画を立てることができます。
複数の手段を組み合わせるのが基本
1つの対策だけで完璧な節税をすることは困難です。不動産、保険、贈与、信託など、複数の対策を適切に組み合わせることで、より柔軟でリスクの少ない計画が可能になります。
たとえば、「生命保険で現金の非課税枠を活用しつつ、自宅は小規模宅地等の特例で評価減、加えて家族信託で管理の手間を軽減する」といった複合的な戦略が有効です。
専門家(税理士・司法書士・不動産コンサル)への相談が鍵
相続税対策は制度が複雑で、税制改正の影響も大きいため、個人で判断するのは非常に困難です。必ず信頼できる専門家と相談しながら、自分と家族にとって最適な対策を立てることが重要です。
まとめ
2024年の相続税評価ルールの改正により、「高層階タワーマンションの購入による過度な節税」は困難になりました。かつてのように時価との差を最大限に活かす戦略は通用しなくなっています。しかし、これはタワマン節税が「完全に終了した」という意味ではありません。
制度が厳格化されたとはいえ、評価の乖離が完全にゼロになったわけではなく、物件の選び方、活用の仕方、他の制度との併用次第では依然として節税の余地が残されています。重要なのは、節税手法の選択にあたって「目的の明確化」と「リスクの把握」、そして「長期的な視点」が求められるということです。
相続税対策においては、家族の将来や財産の性質を踏まえた柔軟な戦略が不可欠です。タワーマンション節税は、その中の選択肢の一つに過ぎません。自宅の活用、生前贈与、生命保険、信託などの手段と組み合わせることで、より盤石な対策が可能となります。
かつては「節税の切り札」とされたタワマン節税ですが、これからは精緻な設計と法的な整合性が求められる“戦略的手段”として再定義される時代に入りました。
タワマン節税を検討する際に最も大切なのは、「その手法が自分の相続計画に本当に合っているのか」という視点です。税制は常に変化し続けており、「昨日の正解が今日の失敗」になる可能性も否定できません。
例えば、評価額の下がりにくい新築マンションよりも、築年数の経った中古物件を選ぶこと、または評価額があまり動かないエリアよりも、市場との乖離がまだ残るエリアを選ぶなど、物件の見極めがこれまで以上に重要になっています。
加えて、相続税の節税だけを追い求めるのではなく、家族との分割のしやすさや、賃貸経営の安定性、資産価値の維持といった総合的な観点から、タワーマンション節税の可否を判断するべきです。
制度改正によって「一発逆転」の節税術は封じられたかもしれませんが、知識と準備がある人にとっては、今でも十分に価値ある選択肢となるのです。
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