遺言書を見つけたらどうする?開封NG・検認・法務局保管・遺留分まで全形式を解説

遺言書を見つけたらどうする?開封NG・検認・法務局保管・遺留分まで全形式を解説

公開日: 2024.10.21     更新日: 2025.9.8

目次

自筆証書遺言をご自宅などで発見した場合

家族が亡くなった後、遺品整理をしていると、思いがけず「遺言書」が見つかることがあります。特に自筆証書遺言は、故人が自ら書いたものを自宅の引き出しや本の間に保管していることが多く、発見されるタイミングは相続の手続きが始まってからであることもしばしばです。このような場面で重要なのは、見つけた遺言書が本当に有効なものかどうか、またどのように取り扱うべきかを冷静に判断することです。

まず、遺言書を発見しても、すぐに開封することは避けましょう。法律上、封がされた自筆証書遺言を家庭裁判所の「検認手続き」なしに開封することはできません。万が一、勝手に開封した場合には、過料(罰金)として最大5万円が科される可能性があります。ただし、開封してしまったことで遺言書自体が無効になるわけではないため、落ち着いて次のステップに進みましょう。

自筆証書遺言が有効と認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 全文、日付、氏名がすべて本人の自筆であること

  • 押印(印鑑)があること

  • 改ざんの形跡がないこと

  • 記載内容が明確であること

2020年7月からは「法務局による自筆証書遺言の保管制度」が導入され、自筆証書遺言を法務局で預けていた場合は検認手続きが不要になります。ただし、自宅で見つけた遺言書がこの制度に基づくものかどうかは、法務局への照会で確認できます。

仮に保管制度を利用していなかった場合、発見した遺言書は「通常の自筆証書遺言」として家庭裁判所での検認が必要です。検認は、遺言書の内容を審査する手続きではなく、遺言書が確かに存在していたことを公的に確認するためのもので、原本の状態(封がされていたか、開封されたかなど)を記録します。検認後には「検認済証明書」が発行され、これにより相続登記や金融機関での手続きに進むことができます。

なお、遺言書の発見後に家庭裁判所へ提出する義務は、法的には保管者に課されています。もし相続人の一人が遺言書を隠匿していた場合、それは法的な問題に発展する可能性があります。すべての相続人に対して公平かつ誠実に対応するためにも、遺言書が見つかった時点で他の相続人や専門家に報告し、法的手続きを進めることが極めて重要です。

次に、遺言書の検認手続きについて、具体的な流れと必要書類を詳しく見ていきましょう。

自筆証書遺言の検認手続き

自筆証書遺言が発見された場合、それを相続手続きに活用するためには、家庭裁判所での「検認手続き」が不可欠です。検認は遺言の有効性を判断するものではなく、「このような遺言書が存在していた」ことを家庭裁判所が確認し、公的に記録するための手続きです。これは相続人間のトラブルを防止し、証拠保全の役割も果たします。

まず、検認手続きを申し立てるには、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申請を行う必要があります。申立人となれるのは、遺言書の保管者、または遺言書を発見した相続人です。手続きには以下の書類と費用が必要となります。

【検認申立てに必要な書類】

  • 検認申立書(裁判所の所定様式)

  • 遺言書の原本(封がされている場合は未開封のまま)

  • 遺言者の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍含む)

  • 相続人全員の戸籍謄本(続柄の確認のため)

  • 相続関係説明図(任意だが、あると手続きがスムーズ)

  • 遺言者と相続人の住民票や附票(裁判所によって異なる)

【費用】

  • 収入印紙:800円(遺言書1通あたり)

  • 郵便切手:裁判所によって異なるが、数百円〜数千円分が必要

  • 検認済証明書の発行には150円分の収入印紙と印鑑が必要

申立て後、家庭裁判所が検認期日を指定し、相続人全員に通知が送られます。通常、申立てから1〜2か月ほどで期日が設定され、希望すれば誰でも出席可能です。検認当日には遺言書が開封され、その場で内容が確認されます。

検認が完了すると「検認済証明書」が発行され、不動産の名義変更や口座の解約など、相続手続きに利用できます。

ただし、検認はあくまで遺言書の存在と形式を確認する手続きであり、遺言の内容が法的に有効であることを保証するものではありません。*形式不備や遺言能力の欠如、強要・偽造の疑いがあれば、後に無効とされる可能性もあります。

そのため、検認の前後には弁護士や司法書士に相談し、遺言書の内容や法的リスクをしっかり確認することが大切です。

遺言のご確認

──遺言書があった場合

遺言書が正式な手続きを経て確認された場合、その内容は相続の進め方に直接影響します。しかし、実際にどのように受け止め、手続きを進めれば良いのかは、多くの方にとって分かりづらいものです。ここでは、遺言書を確認する際に注目すべきポイントを、法的観点も交えて整理します。

1. 財産の分配内容を確認する

まず最初に確認すべきは、遺言書に記載されている「財産の分配指示」です。

例:

  • 「長男に自宅の土地建物を相続させる」

  • 「次男に預貯金をすべて相続させる」

このような具体的な記載がある場合、相続は遺言の内容に従って行います。民法では遺言の内容が法定相続分よりも優先されると定められています。

2. 遺言執行者の有無を確認する

次に注目すべきは「遺言執行者」が指定されているかどうかです。

遺言執行者とは:

  • 遺言の内容を実現するための代理人

  • 不動産登記や銀行口座の解約などを法的に実行できる立場

執行者が指定されていれば、その人物が相続手続きを主導します。指定されていない場合、相続人全員の合意が必要になる場面が多く、手続きが複雑になる可能性があります。

3. 財産の一部しか記載されていない場合

遺言書にはすべての財産が網羅されているとは限りません。たとえば:

記載例:

  • 「A銀行の預金は長女に」

  • 「自宅は長男に」

このように一部しか触れられていない場合、記載されていない財産(他の預金・不動産・有価証券など)については、相続人全員での「遺産分割協議」が必要です。

4. 遺留分を侵害している可能性があるか

日本の相続法には「遺留分」という制度があり、一定の相続人(配偶者・子・親など)には、最低限保障された取り分が存在します。

たとえば:

  • 「長男に全財産を相続させる」という遺言があっても

  • 他の相続人(たとえば次男や配偶者)は「遺留分侵害額請求」によって金銭を請求することが可能

この制度により、極端に不公平な遺言内容に対しても、法的に修正を求めることができます。

5. 不明点がある場合は専門家へ相談

遺言書の内容を正しく理解し、適切に手続きを進めるためには、法律の専門家の助言が不可欠です。

  • 弁護士や司法書士に内容を確認してもらう

  • 手続きの流れやリスクを事前に把握しておく

こうした対応によって、法的トラブルの回避や円満な相続につながります。

遺言書を開封してもいいの?

遺言書を見つけたとき、最も多い疑問の一つが「開けても大丈夫なのか?」という点です。状況によっては、開封が法律違反になることもあるため、まずは正しい知識を持つことが重要です。

自筆証書遺言・秘密証書遺言は開封NG

封がされた自筆証書遺言・秘密証書遺言は、家庭裁判所での検認手続きを受けるまで開封してはいけません。
民法第1004条第2項では、封印された遺言書は、家庭裁判所で相続人の立会いのもとで開封すべきと定められています。

  • 勝手に開封すると「過料(最大5万円)」が科されることがあります。

  • ただし、開封したからといって遺言自体が無効になるわけではありません

開封によってトラブルを引き起こさないためにも、封を開けずに家庭裁判所に提出するのが原則です。

封印のない遺言書の場合

封筒に入っていない、すでに開封された状態で見つかった遺言書については、「すでに開封されていたもの」とみなされる可能性があります。

しかしこの場合でも、自筆証書や秘密証書遺言であれば、家庭裁判所での検認は必ず必要です。封印の有無にかかわらず、検認手続きを経ないと法的に使えません。

破損・改ざんの疑いがある場合

遺言書に次のような問題がある場合は、慎重な対応が求められます。

  • 紙が破れている、破損している

  • 一部が修正・消去されている

  • 明らかに書き換えられた痕跡がある

こうした状態の遺言書は、有効性が争われる可能性が高く、法的判断が複雑になります。
弁護士に相談しながら、家庭裁判所での正規の手続きを進めることが不可欠です。

開封せずに放置するのもリスク

遺言書を見つけたのに長期間放置する、または意図的に他の相続人に知らせないといった行為も大きな問題です。

  • 遺言書を隠匿したと見なされれば「信義則違反」とされ、相続人としての信頼や権利を損なう可能性があります。

遺言書が相続の根幹に関わる重要な文書であることを理解し、早急かつ誠実に対応することが求められます。

公正証書遺言の場合は?

公正証書遺言は例外です。

  • 公証人が作成・保管しているため、検認や開封は不要

  • 相続人は公証役場に照会することで、遺言の内容を確認できます。

この点で、公正証書遺言は最もトラブルが少なく、相続実務でも推奨される形式です。

自筆証書遺言が見つかった場合

自筆証書遺言は、本人が全文・日付・署名を自書し、押印して作成する形式で、費用をかけずに済むため最も利用されている遺言形式の一つです。ただし、形式不備や法的な手続きの漏れがあると無効となるリスクが高く、慎重な対応が必要です。

1. 自筆証書遺言の法的要件を確認する

まずは、以下の要件を満たしているか確認しましょう。

有効とされるための要件:

  • 全文が遺言者の自筆であること(パソコン・代筆はNG)

  • 明確な日付の記載があること(例:「令和〇年〇月吉日」は無効の恐れあり)

  • 遺言者本人の署名と押印があること

  • 訂正がある場合、法定の方式に則っていること(訂正の箇所に署名・押印など)

これらのいずれかが欠けている場合、遺言全体またはその一部が無効と判断される可能性があります。

2. 検認手続きが必要

自筆証書遺言は、家庭裁判所で「検認」を受けない限り、正式な相続手続きに使用することができません。

検認とは:

  • 遺言書の存在・状態を公的に確認する手続き

  • 有効性の判断をするものではないが、手続きを経ることで証拠能力が確保される

この検認を受けずに、不動産の相続登記や預貯金の解約などを進めることはできません。

3. 法務局の保管制度を利用していた場合

2020年7月以降、「法務局による自筆証書遺言の保管制度」が始まりました。

制度利用のメリット:

  • 検認手続きが不要

  • 法務局により形式チェック済みのため、形式不備のリスクが低い

  • 相続人は「遺言書情報証明書」を法務局に請求することで内容を確認可能

制度を利用していたかどうかは、最寄りの法務局に問い合わせることで確認できます。

4. 有効性を巡る争いに発展するケースも

自筆証書遺言は「本人が一人で作成する」性質上、以下のような理由で無効を主張されることがあります:

  • 遺言作成当時、認知症が進行していた

  • 第三者による強要や偽造の疑いがある

  • 記載内容が極端で不自然

こうしたケースでは、家庭裁判所での調停や訴訟に発展し、遺産分割が長期化することもあります。

5. 遺言書の隠匿は重大な法的違反

特に注意が必要なのは、遺言書を見つけた相続人が、その存在を他の相続人に伝えず隠していた場合です。

これは「遺言書の隠匿」として扱われ、場合によっては民法上の「相続欠格」に該当し、相続権を失う可能性すらあります。

適切な対応:

  • 発見した時点で速やかに相続人全員に共有

  • 家庭裁判所に提出し、正規の手続きを進める

公正証書遺言が見つかった場合

公正証書遺言は、公証人が作成し、公証役場で保管されている信頼性の高い遺言です。最大の特徴は「検認が不要」であること。相続人は公証役場に連絡し、必要書類を提出すれば内容を確認できます。

主な対応ポイント

  • 検認不要:家庭裁判所の手続きなしで相続手続きを進められます。

  • 正本・謄本の確認:手元に遺言書がない場合は、公証役場で再発行が可能です。

  • 内容の確認と実行:財産の分配や遺言執行者の指定など、遺言に従って相続を進めます。

注意点

  • 遺留分の侵害がある場合、他の相続人から金銭請求(遺留分侵害額請求)を受ける可能性があります。

  • 複数の遺言がある場合は日付を確認し、最新のものが有効です。

公正証書遺言はトラブルが少なく、手続きもスムーズに進めやすい形式です。内容に不明点がある場合は、弁護士に相談しながら対応することをおすすめします。

秘密証書遺言が見つかった場合

秘密証書遺言は、内容を秘密にしたまま公証人に提出し、存在だけを証明する形式の遺言です。封がされたままの状態で保管されていることが特徴ですが、内容のチェックはされていないため、扱いには注意が必要です。

主な対応ポイント

  • 検認が必要:自筆証書遺言と同様、家庭裁判所での検認が必要です。封を開けずに提出します。

  • 開封厳禁:勝手に開封すると過料の対象になります。

  • 形式不備のリスク:本文がワープロで書かれていてもよいが、署名・押印の欠如や形式ミスがあると無効になる可能性があります。

注意点

  • 遺言内容が不明なまま保管されているため、無効リスクが高い形式です。

  • 指定された遺言執行者が不在・死亡している場合、家庭裁判所に新たな執行者の選任を申し立てる必要があります。

秘密証書遺言は法的に有効であっても、内容に問題があるケースが多いため、発見後は早めに専門家に相談し、適切な手続きを進めることが重要です。

遺言書に記載の無い財産がある場合は?

遺言書があっても、すべての財産が記載されているとは限りません。記載されていない財産がある場合は、相続人全員による「遺産分割協議」が必要になります。

よくあるケース

  • 預貯金や株式など一部の資産だけが記載されている

  • 新たに発見された財産(不動産、未申告の口座など)

  • 借金などの債務が遺言に含まれていない

主な対応方法

  • 記載のない財産=遺産分割協議の対象となり、相続人全員で話し合って分け方を決めます。

  • 法定相続分を基準に分けるか、相続人の合意があれば自由な分け方も可能です。

包括的な記載がある場合は?

遺言書に「全財産を○○に相続させる」とある場合、明示されていない財産も含まれる可能性があります。ただし、内容が不明確な場合は解釈の違いからトラブルに発展することも。

注意点

  • 財産の見落としを防ぐためにも、財産目録を整理して全体を把握することが重要です。

  • 協議が難航する場合は、弁護士や司法書士のサポートを検討しましょう。

記載漏れがあったからといって、遺言全体が無効になるわけではありません。足りない部分は協議で補い、トラブルを避けるためにも誠実な情報共有と対応が求められます。

遺言書の内容に納得できない場合は?

遺言書の内容が一部の相続人にとって極端に不利だったり、不公平だと感じられる場合、法的に異議を申し立てる手段があります

主な対応方法

1. 遺留分侵害額請求

法定相続人(配偶者、子、直系尊属)には、最低限の取り分(遺留分)が法律で保障されています。

  • たとえ「全財産を長男に」と書かれていても、他の相続人は金銭で遺留分を請求可能

  • 請求の時効は、相続開始と遺留分侵害を知った日から1年以内

2. 遺言の無効を主張する

以下のような事情がある場合、遺言の有効性を争うことができます。

  • 作成時に認知症などで判断能力がなかった

  • 脅迫・強要・偽造などの疑いがある

  • 署名や押印など、形式不備がある

この場合、家庭裁判所に「遺言無効確認の訴訟」を提起することになります。

3. 遺産分割協議で調整する

すべての相続人が遺言内容に納得しない場合、遺言と異なる内容で遺産を分けることも可能です(全員の同意が必要)。

専門家への相談がカギ

感情的な対立や複雑な法的問題を避けるためにも、早めに弁護士へ相談することが重要です。正当な手続きに基づいて対応することで、相続トラブルの長期化を防ぐことができます。

遺言書に従わない相続

有効な遺言書がある場合、原則としてその内容に従って相続を進める必要があります。しかし実際には、遺言書どおりに相続が行われないケースもあります。

遺言よりも協議を優先できる場合

  • 相続人全員が遺言と異なる分け方に合意した場合、その内容で遺産分割を進めることが可能です。

  • ただし、全員の同意が必要で、一人でも反対すれば遺言内容が優先されます。

遺言執行者がいる場合の制約

  • 遺言書に「遺言執行者」が指定されている場合、その人に相続手続きの権限が委ねられます

  • 執行者がいる場合は、相続人が勝手に手続きを進めることはできません

勝手な相続はリスクあり

  • 遺言書の存在を知りながら内容を無視して財産を処分する行為は、法的責任を問われる可能性があります。

  • 他の相続人から損害賠償や無効確認を請求されることもあります。

トラブル回避のために

  • 不公平だと感じた場合も、遺言を無視して独断で相続を進めるのではなく、まずは協議や専門家への相談を

  • 法的に整った手続きで対応すれば、後々の争いや手続きのやり直しを避けることができます。

次章では、遺留分侵害額請求について詳しく解説します。

遺留分侵害額請求

遺言書によって一部の相続人に多くの財産が相続され、他の相続人の取り分が極端に少ない、あるいはゼロにされてしまうようなケースでは、「遺留分」の制度が強力な保護手段となります。遺留分とは、民法により法定相続人に最低限保障される相続割合のことを指し、これを侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」によって、自分の取り分を取り戻すことができます。

遺留分の割合と対象者

遺留分の権利が認められているのは以下の法定相続人に限られます。

  • 配偶者

  • 子(または代襲相続人)

  • 直系尊属(親など)

兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。

遺留分の具体的な割合は、法定相続分のうちの一定割合とされ、次のようになります:

相続人の構成

遺留分の割合

配偶者と子がいる場合

法定相続分の1/2

配偶者のみ

法定相続分の1/2

子のみ

法定相続分の1/2

直系尊属のみ(親)

法定相続分の1/3

兄弟姉妹のみ

遺留分なし

たとえば、「長男にすべてを相続させる」という遺言があったとしても、次男や配偶者にはそれぞれ遺留分が保障されているため、その分の金銭を「遺留分侵害額請求」として求めることが可能です。

遺留分侵害額請求の手続き

遺留分を侵害された相続人は、まずは内容証明郵便などで「遺留分侵害額請求の意思表示」を行うのが一般的です。これは相手方に対して「遺留分を侵害されているため、法定の取り分を請求する意思がある」ということを正式に通知するものです。

この意思表示がなされた後、双方の話し合いで解決ができれば、金銭の支払いによって解決されますが、合意に至らなければ、家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立てることができます。それでも解決しない場合は、最終的に遺留分侵害額請求訴訟へと進むことになります。

請求できるのは「金銭」だけであり、不動産や現物を直接取り戻すことは原則としてできません。つまり、「長男に相続された不動産を一部返してほしい」という形ではなく、その不動産に見合う「金銭の支払い」が認められる形となります。

時効と注意点

遺留分侵害額請求には時効があります。具体的には、

  • 相続が開始されたこと(被相続人の死亡)と、侵害があったことを知った時から1年以内

  • または相続開始から10年以内

のいずれか早い方の期間が経過すると、請求権が消滅します。これは非常に重要なポイントであり、「知らなかった」「忙しかった」といった理由では延長されないため、遺言書を確認した時点で侵害の有無を速やかに判断し、行動する必要があります。

請求を避けるための事前対策

遺言者が生前に遺留分トラブルを避けたい場合には、あらかじめ遺言書に「付言事項」として、なぜそのような財産分配をしたのかの理由を丁寧に書き記しておくことが有効です。法的拘束力はありませんが、相続人の感情的対立を和らげ、調停や訴訟に発展するリスクを減らす手助けとなります。

また、相続人との生前の話し合いによって、あらかじめ理解を得ておくことも非常に有効です。場合によっては、家族会議を開いて弁護士や司法書士の立ち会いのもとで説明を行うことも考えられます。

このように、遺留分侵害額請求は、遺言書があるからといってすべてを思い通りにできるわけではないという、非常に重要な制度です。相続の公平性を守るための法的な盾として、特に遺言内容に納得できない相続人にとっては大きな武器となります。

次章では、遺産分割調停の概要と、それが必要になる状況について詳しく解説します。

遺産分割調停

遺産分割をめぐる協議が相続人間でまとまらない場合、家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用するという選択肢があります。これは、相続人の一人が申し立てを行い、裁判所が調停委員を通じて相続人間の話し合いを仲介する手続きです。相続人同士の対立が激しい場合や、そもそも連絡すら取りづらい状況にある場合など、調停は円滑な相続を実現するための重要な手段となります。

調停の申し立ての流れ

遺産分割調停は、相続人の1人が被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることで始まります。申し立てに必要な主な書類は以下の通りです:

  • 遺産分割調停申立書

  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍・改製原戸籍も含む)

  • 相続人全員の戸籍謄本

  • 被相続人の住民票の除票

  • 相続財産の資料(登記事項証明書、預金通帳の写し、固定資産評価証明書など)

申立て費用としては、収入印紙(1,200円)および郵便切手(裁判所によって異なるが数百円から数千円)が必要です。

申し立てが受理されると、家庭裁判所が調停期日を設定し、相続人全員に通知が送られます。期日には、当事者が裁判所に出頭し、調停委員の進行のもとで財産分割についての話し合いが行われます。調停委員は法律と家庭問題に精通した専門家であり、中立の立場から当事者間の意見調整を図ります。

調停の進め方と決着

調停では、相続財産の全体像を把握するために、財産目録の作成が最初に行われます。全員が納得する形での合意が目標であり、各相続人の希望、遺言書の有無、特別受益や寄与分などを総合的に考慮して分割案が検討されます。調停中には、必要に応じて専門家の意見や不動産評価、鑑定などが取り入れられることもあります。

**合意に至った場合、その内容は「調停調書」として裁判所に記録され、判決と同じ効力を持つことになります。**これに基づいて登記変更や預貯金の解約、名義変更などの相続手続きを行うことができます。

一方、調停が不成立となった場合には、自動的に「審判手続き」に移行します。これは、裁判官が一方的に判断を下す手続きであり、相続人の意思とは関係なく結論が下されるため、当事者にとっては不本意な結果となることもあります。審判の結果に不服がある場合は、高等裁判所への即時抗告が可能ですが、さらに手続きが長期化・複雑化するリスクを伴います。

調停が必要になる主なケース

  • 遺言書の有効性をめぐって相続人間で意見が分かれている

  • 遺留分侵害額請求が拒否されている

  • 相続人の一部が連絡を取れない、もしくは協議に応じない

  • 特別受益や寄与分の認定について争いがある

  • 相続人間の人間関係が悪化しており、話し合いが困難

これらの状況では、当事者間での話し合いだけで合意に達することは難しく、調停を通じて中立の第三者の介入によって前進することが期待されます。

遺産分割調停は、単に法律的な判断だけでなく、相続人の感情や家族関係にも深く配慮された解決を目指す制度です。相続が「争族」と化すのを防ぐためにも、冷静な判断と専門家のサポートのもとで調停を活用することが推奨されます。

次章では、遺言書があとから出てきた場合の対処法と相続手続きへの影響について解説します。

遺言書の効力はいつまで有効なのか

遺言書に「有効期限」はなく、原則として遺言者が死亡した時点でその効力が発生し、無期限で有効です。ただし、いくつかのケースでは効力が失われる可能性があります。

有効性が失われるケース

1. 遺言の撤回や変更があった場合

  • 遺言者は生前であれば、いつでも自由に遺言を取り消したり書き直したりできます

  • 複数の遺言書がある場合は、日付が新しいものが優先され、古いものは無効になります。

2. 遺言書自体が無効と判断された場合

  • 形式に不備がある(署名・押印がない、日付が不明など)

  • 遺言能力がなかった(認知症など)

  • 強要や偽造の疑いがある

このような事情がある場合、裁判所で遺言の無効を判断されることがあります

3. 遺言の内容が実現不可能な場合

  • 相続財産がすでに処分されている

  • 指定された受遺者が先に死亡している

このような場合、その部分だけが無効とされることもあります。

有効な限り効力は続く

遺言書が有効である限り、相続手続きが未完でも、その内容に従って対応する義務があります。相続人間で合意があれば遺言と異なる分割も可能ですが、正当な手続きに基づくことが前提です。

不安な点がある場合は、早めに弁護士など専門家に確認し、遺言の有効性を把握してから行動することが重要です。

次章では、相続人が遺言書を隠匿していた事実が発覚した場合の法的リスクと対応について解説します。

相続人が遺言書を隠匿していた事が判明した場合

遺言書を発見した相続人が、その存在を他の相続人に知らせずに隠していた場合、重大な法的問題となります。

法的な位置づけと影響

  • 遺言書の隠匿は、「相続欠格事由」に該当する可能性があります(民法第891条)。

  • 故意に遺言を破棄・隠匿・改ざんしたと認められた場合、その相続人は相続権を失うことになります。

どんな行為が「隠匿」とされるのか

  • 遺言書を発見しても報告せず、自分に有利なように手続きを進める

  • 他の相続人に遺言の存在を知らせずに放置する

  • 開封せず長期間保管し、検認手続きを行わない

これらは、信義則(公平・誠実な対応)違反とみなされ、法的責任を問われる可能性があります。

発覚した場合の対応

  • 家庭裁判所に申し立てて、相続欠格の審判を求めることができます。

  • 同時に、遺言書の有効性や内容に基づいた相続手続きをやり直す必要があります。

トラブル回避のために

  • 遺言書を見つけたら、速やかに他の相続人と共有し、家庭裁判所に提出することが鉄則です。

  • 不安がある場合は、発見時点で弁護士に相談し、適切な手続きを確認するのが安全です。

遺言書の隠匿は、相続全体を無効にしかねない深刻な行為です。相続人同士の信頼関係を守り、公正な相続を実現するためにも、誠実で透明な対応が求められます。

次章では、相続後に遺言書が見つかった場合の取り扱いについて詳しく解説します。

相続後に見つかった場合

遺産分割や名義変更など、相続手続きがすでに完了した後に遺言書が見つかるケースもあります。このような場合、対応を誤ると相続手続きをやり直さなければならないこともあるため、慎重な判断が必要です。

原則:遺言書の内容が優先される

  • 有効な遺言書が後から見つかった場合でも、原則としてその内容が相続に優先されます。

  • たとえ手続きが終わっていても、遺言の内容に反していた場合はやり直しが必要になる可能性があります。

遺言書の有効性が前提

  • 発見された遺言書が法的に有効であり、最新の日付であることが確認される必要があります。

  • 無効であれば、すでに行った手続きをそのまま維持できます。

名義変更や税務手続きの修正が必要な場合も

  • 不動産登記や預金の名義変更が遺言と異なる内容で行われていた場合、更正登記や金融機関への修正手続きが必要になることがあります。

  • 相続税の申告が済んでいる場合でも、分配内容が変わると修正申告や更正の請求が求められる可能性があります。

相続人全員の合意があれば再協議も可能

  • 相続人全員が、遺言書と異なる現在の分割内容に納得している場合は、そのまま維持することも可能です。

  • ただし、一人でも反対すれば、遺言の内容に基づく再分割が必要になります。

トラブル回避のために

  • 感情的な対立を避けるためにも、発見時点で遺言の内容と手続き状況を整理し、全員に共有することが重要です。

  • 必要に応じて弁護士に相談し、法的リスクを最小限に抑える対応策を取ることが望まれます。

まとめ

遺言書が思いがけず見つかったとき、相続人は突然の法的判断や複雑な手続きを迫られることになります。特に、すでに遺産分割が進んでいた、あるいは完了していた場合においては、遺言書の扱い方ひとつで相続人間の関係性が大きく変わることもあります。

自筆証書遺言や秘密証書遺言を発見した場合は、まず開封せずに家庭裁判所での検認手続きを行うことが不可欠です。この検認を経なければ、遺言書を正式な相続手続きに使うことはできません。逆に、公正証書遺言が見つかった場合には、検認は不要であり、速やかに相続手続きに反映させることが可能です。

また、遺言書の記載内容がすべての財産を網羅しているとは限らず、記載漏れの財産については遺産分割協議が必要になります。さらに、遺言の内容が一部の相続人にとって不利である場合には、遺留分侵害額請求という法的手段によって、最低限の権利を取り戻すことができます。

重要なのは、遺言書が見つかったからといって感情的に動かず、まずは法的な有効性を確認し、相続人全員が誠実に情報を共有し合うことです。もし、誰かが遺言書を隠匿していたことが明らかになった場合には、その相続人は法的な責任を問われることとなり、相続権を失う可能性すらあります。

相続手続きがすでに完了していたとしても、有効な遺言書が見つかれば原則としてその内容が優先されます。状況によっては不動産の名義変更や税務処理のやり直しが必要になることもあり、対応には相応の準備と調整が求められます。

このように、遺言書の発見は相続の流れを大きく変える可能性を秘めているため、慎重かつ正確な対応が不可欠です。相続トラブルを未然に防ぎ、遺言者の意思を尊重した円満な相続を実現するためには、専門家の力を借りながら法的手続きを踏んでいくことが最善の道と言えるでしょう。何よりも大切なのは、「遺言書をどう扱うか」が、相続そのものの成功と失敗を分ける鍵であるという認識を持つことです。

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終活を始めよう!分野別やることチェックリスト:エンディングノート活用法も|終活相続ナビ

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