
目次
生前贈与に活用できる贈与税の非課税枠とは?
年間110万円の基礎控除制度(暦年課税)
複数年にわたる贈与で節税効果を最大化
110万円を超える場合の贈与税
生前贈与(暦年贈与)で相続税を節税する具体例
ケース1:子ども2人に毎年110万円ずつ贈与した場合
ケース2:孫への贈与による“世代飛ばし”効果
注意点:3年以内の贈与は相続財産に加算される
暦年贈与と相続時精算課税制度、どちらを選ぶべきか?
相続時精算課税制度とは?
暦年贈与との比較と選び方
実際の選び方のポイント
2024年税制改正で生前贈与はどう変わった?知っておくべき最新情報
改正① 持ち戻し(贈与加算)期間の延長:3年→7年
改正② 相続時精算課税制度の基礎控除化
改正③ 贈与税申告義務の明確化・電子化の推進
改正④ その他関連制度の見直し
生前贈与の注意点
1. 名義預金とみなされるリスク
2. 贈与税の申告忘れ・誤解による無申告
3. 相続開始直前の贈与は節税効果なし
4. 相続時精算課税制度の「撤回不可」に要注意
まとめ
将来の相続税対策として「生前贈与」に注目する人が増えています。財産を相続によって受け渡すのではなく、生きているうちに贈与することで、相続時の課税対象額を減らすことができるためです。制度を正しく活用すれば、長期的に見て相続税の負担を軽減できる可能性がある一方で、無計画に進めると贈与税が発生してしまい、かえって税負担が増えることもあります。
また、生前贈与には複数の制度が存在し、それぞれ適用条件や節税効果が異なります。さらに、2024年の税制改正により、贈与に関するルールが大きく変わり、これまでと同じやり方では思わぬ課税リスクを招く可能性も出てきました。
こうした背景から、今後生前贈与を活用するには、最新の制度内容を正しく理解し、目的に応じて適切な選択を行うことが重要です。この記事では、贈与税の非課税枠や暦年贈与、相続時精算課税制度の違い、最新の法改正情報、注意点まで、総合的に解説していきます。
生前贈与に活用できる贈与税の非課税枠とは?
生前贈与を活用した節税の第一歩は、「贈与税の非課税枠」を正しく理解することです。非課税枠とは、一定の金額までの贈与であれば、贈与税がかからないという制度です。この枠を活用することで、税金を支払うことなく合法的に財産を移転できるため、長期的に見て相続税の負担を大幅に軽減することが可能になります。
年間110万円の基礎控除制度(暦年課税)
贈与税には、年間110万円の基礎控除が設けられています。これは、贈与を受ける人(受贈者)1人につき、年間110万円までの贈与であれば、贈与税が一切かからないという制度です。たとえば、親が子どもに毎年110万円ずつ贈与すれば、10年間で1,100万円の財産を非課税で移転することができます。さらに、子どもが複数いれば、それぞれに110万円ずつ贈与することも可能です。
複数年にわたる贈与で節税効果を最大化
この基礎控除は、1年ごとにリセットされるため、長期的な視点で計画的に贈与を行うことが鍵となります。たとえば、20年かけて2,200万円を贈与するというように、時間をかけて贈与を分散させれば、その全額を非課税で受け渡すことが可能です。これを「暦年贈与」と呼び、特に資産額が中規模程度で、数年かけて計画的に資産移転をしたい家庭に向いています。
110万円を超える場合の贈与税
年間110万円を超えた場合には、超過部分に対して贈与税が課されます。贈与税は累進課税であり、金額が多くなるほど税率が高くなります。たとえば、200万円の贈与であれば、90万円(200万円−110万円)に対して10%の税率が適用され、9万円の贈与税が発生します。贈与額が大きい場合は、次に紹介する「相続時精算課税制度」との比較が必要です。
生前贈与(暦年贈与)で相続税を節税する具体例
生前贈与の中でもっとも活用されているのが「暦年贈与」です。これは、1年(暦年)単位で贈与を行い、その都度110万円までの非課税枠を活用していく方法です。節税効果があるといわれるものの、実際にどのようにして相続税が軽減されるのか、具体的なケーススタディを通じて確認してみましょう。
ケース1:子ども2人に毎年110万円ずつ贈与した場合
仮に、ある親が10年間にわたり、2人の子どもにそれぞれ毎年110万円ずつ贈与したとします。
・年間贈与額:110万円 × 2人 = 220万円
・10年間の総額:220万円 × 10年 = 2,200万円
この場合、贈与税は一切かからず、10年間で合計2,200万円の財産を非課税で移転できます。結果として、相続発生時の課税対象財産が2,200万円減ることになり、相続税の負担が大きく軽減されます。特に、相続税の税率が30%以上になるような資産家にとっては、数百万円単位の節税効果を生む可能性があります。
ケース2:孫への贈与による“世代飛ばし”効果
さらに、子どもだけでなく孫への贈与を組み合わせることで、いわゆる「世代飛ばし」による節税も期待できます。相続の場合は子ども→孫へと段階的に資産を渡すため、相続税が2度発生する可能性がありますが、孫に直接贈与すれば1回の課税で済み、結果として家族全体での税負担を軽減できます。
例:孫2人に毎年110万円ずつ贈与を10年間行った場合
・年間贈与額:110万円 × 2人 = 220万円
・10年間の総額:220万円 × 10年 = 2,200万円
これにより、次世代に直接財産を移転しつつ、非課税枠をフル活用できます。
注意点:3年以内の贈与は相続財産に加算される
ここで注意したいのが、「相続開始前3年以内に行われた贈与は相続税の課税対象になる」というルールです。ただし、2024年の税制改正により、この加算期間は段階的に7年へと延長されていくため、今後はさらに長期的な贈与計画が求められます。
例えば、2024年に贈与を開始しても、2027年までは「3年加算」のままですが、2027年以降は徐々に4年、5年…と伸び、2031年以降に7年加算が適用されるようになります。この点を見越して、贈与はできるだけ早く開始することが節税の鍵となります。
暦年贈与と相続時精算課税制度、どちらを選ぶべきか?
生前贈与を行う際に重要な判断のひとつが、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」のどちらを選択するかという点です。どちらも贈与税に関する制度ですが、適用条件や課税タイミング、節税効果の現れ方に大きな違いがあります。
この章では、まず「相続時精算課税制度」の基本的な仕組みを解説し、そのうえで暦年贈与との比較を通じて、どのような状況にどちらの制度が適しているかを詳しく見ていきます。
相続時精算課税制度とは?
相続時精算課税制度は、贈与者が60歳以上の親または祖父母であり、受贈者が18歳以上の子または孫である場合に選択できる制度です。この制度を利用すると、累計2,500万円までの贈与に対して贈与税がかかりません。また、2024年からは年間110万円までの贈与については非課税かつ申告不要という新たな措置も追加されました。
ただし、非課税であっても贈与財産は将来の相続時にすべて「相続財産」として加算され、相続税の計算対象になります。これが「精算課税」と呼ばれるゆえんであり、課税が完全に免除されるわけではなく、あくまで繰り延べられるという点に注意が必要です。
特に評価額の上昇が見込まれる資産(たとえば不動産や株式など)を早期に移転する際に有利とされており、将来的な値上がり益に対して相続税が課されるリスクを軽減できます。
暦年贈与との比較と選び方

暦年贈与についてはすでに前章までで詳しく解説しましたが、ここでは制度比較に必要なポイントを簡潔に整理した上で、相続時精算課税制度と比較します。
比較項目 | 暦年贈与(参考) | 相続時精算課税制度 |
---|---|---|
非課税枠 | 年間110万円まで | 累計2,500万円まで+年110万円(2024年〜) |
贈与税率 | 超過分に累進課税(10〜55%) | 超過分に一律20% |
相続時の扱い | 一部(3〜7年以内の贈与)を相続財産に加算 | すべての贈与財産を相続財産に加算し精算課税 |
適用後の柔軟性 | 毎年判断・変更可 | 一度選択すると撤回不可 |
おすすめのケース | 少額の贈与を長期的に行いたい場合 | 評価額上昇が見込まれる資産を早期に移転したい場合 |
実際の選び方のポイント
・柔軟に資産移転を進めたい:暦年贈与が適しています。特に中長期で少しずつ贈与を行い、家族全体での税負担を軽減したい人向けです。
・高額の贈与を短期間でまとめて行いたい、または値上がりが予想される資産を早めに子や孫に移したい場合は、相続時精算課税制度の方が効果的です。
・節税目的のみで判断するのではなく、家族構成や財産の種類、将来のライフプランも加味して選択する必要があります。
そして何より、相続時精算課税制度は一度選択すると暦年贈与に戻せないため、慎重な検討が不可欠です。迷った場合やケースが複雑な場合には、税理士などの専門家に相談することが推奨されます。
2024年税制改正で生前贈与はどう変わった?知っておくべき最新情報
2024年1月から施行された税制改正は、「生前贈与」における大きなルール変更を含んでおり、今後の贈与・相続対策にとって重要な内容ばかりです。本章では、特に知っておくべき改正ポイントを整理し、それが実際の節税計画にどう影響するのかを深掘りします。
改正① 持ち戻し(贈与加算)期間の延長:3年→7年
従来、相続開始前3年以内の贈与は「持ち戻し」(相続税の計算上、相続財産に含める)とされていました。2024年以降、これが段階的に7年へと延長されます。
・2024年1月から:持ち戻し対象期間が4年に拡大
・2031年以降:完全に7年加算へ移行
・以降、相続開始前7年以内の贈与は全額相続財産に加算されるようになります。
この改正により、暦年贈与の計画にもより長期的視野が必要となるため、早期・計画的な贈与開始が重要になる点に留意が必要です。
改正② 相続時精算課税制度の基礎控除化
相続時精算課税制度には、すでに累計2,500万円まで非課税という枠がありましたが、2024年より新たに「年間110万円までの非課税枠」が追加されました。これにより:
・年間110万円までは申告不要・非課税
・累計贈与額が2,500万円を超えた場合にのみ、追加で一律20%の贈与税が発生
・非課税枠の活用によって、贈与税の節税効果がさらに高まる
制度の利便性が大幅にアップし、分割贈与と一括贈与の組み合わせなど、柔軟な運用が可能になりました。
改正③ 贈与税申告義務の明確化・電子化の推進
2024年税制改正では、贈与税の申告要件や手続きの電子化が進められています。
・年間110万円を超える贈与については、申告義務の明確化
・電子申告(e‑TAX)の利便性を高める仕様改訂
・書面申告から電子申告への移行を検討することで、手続き負担が軽減
この点は、申告漏れやミスを防ぐうえでも重要な改正です。
改正④ その他関連制度の見直し
・住宅取得や教育資金の一括贈与に関する特例制度の見直し
→ 教育・住宅資金の一括贈与に関する非課税制度についての適用範囲や期間が調整されています。
・相続時精算課税制度の対象者要件見直し
→ 60歳以上の贈与者、18歳以上の受贈者という適用対象の年齢要件に変更なし。
生前贈与の注意点
生前贈与は、正しく活用すれば相続税の節税に非常に有効な手段ですが、誤った手続きや理解不足により、期待していた節税効果が得られなかったり、思わぬ税負担を招いたりするケースも少なくありません。ここでは、生前贈与を行う際に特に注意すべき代表的なポイントを詳しく解説します。
1. 名義預金とみなされるリスク
もっとも頻出するトラブルの一つが、「名義預金」として税務署に否認されるケースです。たとえば、子ども名義の口座に親が勝手に資金を移した場合、それは形式上の贈与にすぎず、実質的には贈与と認められません。
名義預金とされる典型例
・子どもが通帳や印鑑を管理していない
・子ども本人が贈与を受けた認識がない
・生活費として出金していない・使用実態がない
このような場合、実際には親の財産と見なされ、相続時に相続税の課税対象として加算されてしまいます。
対策
・贈与契約書を毎年作成する(書式は簡易で可)
・贈与金は振込で行い、記録を残す
・子どもが管理・使用できる状態であることを証明する
2. 贈与税の申告忘れ・誤解による無申告
年間110万円を超える贈与を受けた場合には、贈与税の申告が必要です。非課税枠を使い切った分について正確に申告していないと、税務調査の際に追徴課税を受ける可能性があります。
特にありがちな誤解は、「親子間なら申告しなくても大丈夫」「通帳に入れただけだから税金はかからない」といったものです。税法上の贈与は、名義や関係性に関係なく、「財産の無償移転があったかどうか」によって判断されます。
対策
・贈与額が110万円を超えたら必ず翌年3月15日までに申告
・書面申告だけでなく、可能であればe‑TAXを活用し記録を一元化
・金額の多寡に関わらず、毎年の贈与実績を表計算などで管理しておく
3. 相続開始直前の贈与は節税効果なし
2024年からは「相続前3年以内の贈与加算」が段階的に7年へ延長されるため、相続が近いと見込まれる場合に贈与しても、結局は相続財産に加算されてしまう可能性が高くなりました。
この点は、暦年贈与を行う際に「数年だけ行えば良い」といった誤解をしているケースで、節税どころか贈与税も相続税もかかってしまうという二重課税状態になることがあります。
対策
・贈与はできるだけ早期に開始し、5年以上継続するのが理想
・相続が近いと感じたタイミングでの贈与はリスクが高いため慎重に
・持ち戻しルールの適用期間を確認し、贈与スケジュールを長期的に立てる
4. 相続時精算課税制度の「撤回不可」に要注意
相続時精算課税制度を一度選択すると、以後はその対象となる贈与についてはすべてこの制度が適用され、暦年贈与に戻すことができません。
たとえば、「まず500万円だけ相続時精算課税制度を使ってみよう」と軽く考えて選択してしまうと、その後の少額贈与についてもすべて精算課税扱いとなり、思わぬ形で2,500万円の非課税枠を使い切ってしまうリスクがあります。
対策
・適用前に必ず専門家に相談する
・将来的に継続的な贈与を考えている場合は暦年贈与を選択
・「後戻りできない制度」と認識した上で慎重に判断
このように、生前贈与には多数の落とし穴があり、制度の特性や税務上の取り扱いを正確に理解せずに行動すると、節税どころか逆に損をしてしまう可能性すらあります。
正しい手順と記録、長期的視点に基づいた贈与計画を立てることが、賢い節税への第一歩です。
まとめ
生前贈与は、相続税の節税を目的とした有効な手段の一つです。年間110万円までの非課税枠を活用する暦年贈与は、時間をかけて資産を分散移転できる制度であり、特に長期的に相続対策をしたい家庭に適しています。
一方で、相続時精算課税制度は、最大2,500万円まで贈与税が非課税で、一括で高額な贈与が可能です。2024年からはこの制度にも年110万円の非課税枠が追加され、さらに柔軟な運用が可能となりました。
また、2024年の税制改正では、暦年贈与における「相続前3年以内の持ち戻し」期間が段階的に7年へ延長されるなど、大きな制度変更が行われました。これにより、贈与の開始時期や継続年数を含めた長期的な戦略がますます重要となっています。
生前贈与を成功させるためには、制度の選択を誤らず、贈与契約書の作成や資金管理の証拠を残すなど、適切な手続きと証明が不可欠です。節税だけでなく、家族間の資産移転を円滑に進めるためにも、税理士など専門家の助言を活用しながら、計画的に進めることが大切です。
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