年末調整では医療費控除できない?確定申告との違いと正しい申請方法をわかりやすく解説

年末調整では医療費控除できない?確定申告との違いと正しい申請方法をわかりやすく解説

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はじめに

年末調整の時期が近づくと、「これで税金の面倒な手続きも終わりかな」と安心する人は少なくありません。しかし、医療費控除は年末調整では扱われず、確定申告で申請する必要があります。知らずに手続きを怠ると、払いすぎた税金を取り戻す機会を逃してしまう可能性もあります。本記事では、医療費控除の制度の全体像から申請の具体手順、注意点まで具体的に解説します。


医療費控除とは?

医療費控除とは、納税者自身やその家族のために支払った医療費が一定の基準を超えた場合、所得税および住民税の一部を還付・軽減できる制度です。つまり、通常支払った税金を「医療費という理由で少し戻す(または減らす)」仕組みです。

対象となる支出の基準

医療費控除が適用されるには、年間に支払った医療費の合計が「一定額を超えている」ことが条件となります。具体的には次のいずれかの基準を上回った部分が控除対象となります:

  • 所得金額の5%
  • 10万円

ただし、所得金額が200万円未満の場合は、「所得金額 × 5%」のほうが10万円より低くなるため、その割合方式が適用されることになります。


医療費控除は年末調整でできる?

年末調整は、給与所得者を対象として、勤務先が源泉徴収した所得税の過不足を精算する仕組みです。この手続きにより、生命保険料控除や扶養控除、配偶者控除など、あらかじめ給与支払者に情報を告知できる控除項目については、年末調整で調整されます。

しかし、医療費控除は「個人がどれだけ医療費を支払ったか」によって控除額が変わる性質を持つため、勤務先が把握できるものではありません。そのため、年末調整の枠内では扱われず、勤務先を通さずに、納税者本人が確定申告で申請を行う必要があります。

この違いを理解しておかなければ、年末調整だけで手続きが終わったと思っていた結果、医療費控除の機会を逃してしまうことになります。


医療費控除を受けるには確定申告が必要

医療費控除を受けるには、年末調整の後、翌年の確定申告期間中に申告を行う必要があります。ただし、還付申告(税金を払いすぎていた分を返してもらう申請)は、確定申告期間より前でも受け付けられる場合があります。

確定申告期間は通常、翌年2月16日から3月15日までです。ただし、還付を受ける申告は1月から受付可能な場合もあります。申請方法には次の選択肢があります:

  • e‑Tax(マイナポータル連携):オンラインで手続きを完結できる方法
  • 税務署への提出:確定申告書を税務署に郵送または持参して提出

e‑Taxを使えば、医療費通知などのデータを自動取得できたり、紙の申告書を用意する手間を省けたりするメリットがあります。次章以降では、これらの具体的な方法を詳しく説明していきます。


医療費控除の対象となる支出

医療費控除の申請にあたって重要なのは、「どの支出が控除の対象になるのか」を正しく判断することです。対象になる支出と対象外の支出を混同してしまうと、申告が正しく行えず、思わぬトラブルや還付漏れにつながります。

控除の対象になる支出

医療費控除の対象となるのは、納税者本人およびその生計を一にする家族(配偶者、子、親など)の治療を目的とした支出です。以下に主な例を挙げます。

支出の種類

内容例

診療・治療費

医師による診療費、歯科治療費、入院費など

処方薬費用

医師が処方した薬の購入費

通院交通費

通院に必要な電車・バスなど公共交通機関の費用(タクシーは原則対象外。ただし緊急時など例外あり)

出産費用

妊婦健診、出産費用、分娩にかかる入院費など

医療機器

治療に必要と認められる補装具(義歯、松葉杖、補聴器など)の購入費

これらの支出は、治療や療養の目的に基づいたものである限り、医療費控除の対象になります。

控除の対象とならない支出

以下のような支出は、医療目的とは見なされず、医療費控除の対象になりません。

対象外の支出

内容例

美容目的

美容整形、ホワイトニングなど

予防行為

健康診断、人間ドック、インフルエンザ予防接種(治療目的でない限り)

快適性のための費用

差額ベッド代(希望による個室)、入院中の食事代(通常の食事以上の費用)

自家用車での通院費

ガソリン代や駐車場代(公共交通機関が使えない特別な事情がある場合を除く)

特に見落としがちなのが、歯科のホワイトニングや、エステ的な皮膚科の治療です。これらは「治療」ではなく「美容」を目的とするため、控除対象から外れます。

判断に迷う場合は、医療機関の領収書や説明を確認し、必要に応じて税務署や国税庁の公式サイトで確認するのが確実です。


医療費控除の特例:セルフメディケーション税制とは

医療費控除には通常の制度とは別に、「セルフメディケーション税制」という特例があります。これは、軽度の体調不良に対して市販薬を積極的に活用する人を支援するための制度で、次の条件を満たすと利用できます。

セルフメディケーション税制の概要

この制度は、健康維持や予防の取り組みを行っている人が、指定された**OTC医薬品(一般用医薬品)**を年間で12,000円以上購入した場合に、所得控除を受けられる仕組みです。

条件は以下のとおりです:

  • 健康診断、予防接種、がん検診、特定健康診査などを受けていること(申告時に証明が必要)
  • 厚生労働省が定める「対象OTC医薬品」の購入であること(対象商品はレシートに記載あり)

控除額の計算

控除できる金額は、以下の通りです:

控除額 = 購入金額 − 12,000円
(上限は88,000円)

たとえば、対象となる市販薬を年間40,000円購入した場合、

→ 40,000円 − 12,000円 = 28,000円が所得控除されます。

医療費控除との違いと注意点

  • セルフメディケーション税制は、通常の医療費控除と併用できません。どちらか一方を選択する必要があります。
  • 高額な治療費を支払った年は、通常の医療費控除の方が控除額が大きくなることが多いため、年ごとにどちらを選ぶかを判断することが重要です。

対象のOTC医薬品はパッケージに「セルフメディケーション税制対象」のマークがついているものもありますが、購入時のレシート確認が確実です。


医療費控除の金額計算方法

医療費控除の金額は、支払った医療費の合計から補填された金額(保険金や給付金など)と、一定の自己負担額を差し引いたものとして計算されます。正確な計算には、総所得金額に応じた基準を理解しておく必要があります。

計算式

控除額の基本的な計算式は次の通りです:

【年間の総所得が200万円以上の場合】
控除額 =(支払った医療費 − 補填された金額)− 10万円

【年間の総所得が200万円未満の場合】
控除額 =(支払った医療費 − 補填された金額)− 所得金額の5%

この計算式により、実際に所得から控除される金額が決まり、それに応じて所得税および住民税の還付額が計算されます。

計算例

次のようなケースで計算してみましょう:

  • 総所得:400万円
  • 医療費:40万円
  • 保険金などで補填された額:5万円
  • 所得税率:20%

【計算の流れ】

  1. 医療費 − 補填された金額:40万円 − 5万円 = 35万円
  2. 上記から10万円を差し引く:35万円 − 10万円 = 25万円(控除額)
  3. 還付額:25万円 × 20% = 5万円

つまり、この場合の還付額は約5万円となります。

なお、医療費の中で補填対象となるのは以下のような金額です:

  • 健康保険などから支給された高額療養費
  • 出産育児一時金
  • 民間保険会社からの医療保険給付金
  • 交通事故の損害賠償などで受けた費用補填

これらは「自己負担」ではないため、控除対象からは除かれます。控除額を正確に計算するためには、領収書だけでなく補填された金額の記録もきちんと把握しておくことが重要です。


医療費控除の確定申告に必要な書類

医療費控除を正しく申請するには、必要な書類をすべて揃えておくことが不可欠です。不備があると、申告が受理されなかったり、確認のための追加提出を求められたりする場合があります。

主な提出書類一覧

書類名

内容と取得先

医療費控除の明細書

支払った医療費の内容を一覧化したもの。自作または医療費通知を活用。

確定申告書(A様式)

所得税の申告書。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で作成可能。

源泉徴収票

勤務先から交付される。給与収入や源泉徴収税額を記載。

マイナンバーカードまたは通知カード

本人確認用。マイナンバーの記載も必要。

医療費の領収書

原則として提出不要だが、税務署から求められた場合に備えて5年間保管が必要。

医療費控除の明細書の作成

医療費控除の明細書には、以下の情報を記載します:

  • 支払先(病院名、薬局名など)
  • 支払日および金額
  • 誰の医療費か(本人、配偶者、子など)
  • 補填された金額の有無と内容

医療費通知(健康保険組合から年に一度送られる)は、明細書の代わりとして利用できるケースがありますが、すべての支出が記載されているとは限りません。特に市販薬の購入や歯科診療など、通知に載らない分は自分で追加記載する必要があります。


医療費控除の対象期間と申告期限

医療費控除の対象となるのは、1月1日から12月31日までの1年間に実際に支払った医療費です。診療を受けた日ではなく、支払いを行った日が基準となる点に注意が必要です。たとえば、2024年12月に治療を受け、2025年1月に支払った場合は「2025年分の医療費」として扱われます。

申告期限

確定申告の期限は、翌年の2月16日から3月15日までです。ただし、還付を受ける申告(払いすぎた税金を返してもらう場合)は、この期間に限らず、翌年の1月からいつでも提出可能です。
また、申告漏れに気づいた場合は、5年間遡って申告が可能です。たとえば、2025年に申告する場合、2020年分までの医療費控除を申請することができます。

過去分の還付申告は時効の5年を過ぎるとできなくなってしまうため、医療費の多かった年については早めに確認することをおすすめします。

医療費控除のタイミングを逃さないために

  • 医療費が多くかかった年は、必ず申告対象年を確認する
  • 支払い日を基準に、領収書を年度ごとに整理する
  • 保険金の受け取りが翌年になる場合、その補填額の扱いに注意する

このように、支払日ベースで整理しておくことが、後の確定申告での混乱を防ぐ鍵になります。


スマホからも申請できるe-Taxの活用

従来、確定申告といえば「税務署で長時間並ぶ」「書類作成が複雑」といったイメージを持つ人が多いものでした。しかし、現在では国税庁の電子申告システム「e-Tax(イータックス)」を利用すれば、スマートフォンから簡単に申請を完了できます。特に、マイナンバーカードとの連携機能が強化されたことで、手続きの手間が大幅に軽減されています。

スマホ申告に必要なもの

スマホで医療費控除を申請するには、次の3点を用意しておくとスムーズです。

必要なもの

内容

マイナンバーカード

e-Taxにログインするために必要。事前に発行・設定が必要。

対応スマートフォン

マイナンバーカードの読み取り機能(NFC機能)がある機種。

マイナポータルアプリ

e-Tax連携用の無料アプリ。医療費通知などのデータを自動取得できる。

スマホでの手続きの流れ

  1. マイナポータルアプリを起動し、e-Taxにログイン。
  2. 「医療費控除」を選択し、医療費通知データを自動取得。
  3. 通知に含まれない支出(歯科、市販薬など)を手入力で追加。
  4. 還付金の受け取り口座を入力し、電子署名を行って送信。

すべての作業がスマートフォン上で完結し、申告書の印刷や郵送は不要です。これにより、申告所要時間が従来の半分以下に短縮され、確定申告のハードルが大きく下がりました。

e-Tax活用のメリット

  • 医療費通知データが自動反映されるため、入力ミスを防げる
  • 提出書類がオンラインで完結するため、税務署に出向く必要がない
  • 過去の申告データを保存・再利用できるため、翌年以降の申請が簡単

e-Taxは年々改良が進んでおり、今後はさらにスムーズに医療費控除が申請できる環境が整っていく見込みです。


医療費控除を受ける際の注意点

医療費控除は正しく手続きをすれば還付を受けられる便利な制度ですが、申告ミスや記載漏れなどによって控除額が減額されたり、そもそも申告が無効になってしまったりするケースもあります。以下のような注意点を押さえておくことで、申請の精度を高めることができます。

医療費通知に記載されない支出に注意

健康保険組合から送られてくる「医療費通知」には、保険適用のある診療費が主に記載されていますが、以下のような支出は反映されないことがあります:

  • 歯科治療(特に自由診療)
  • 処方箋なしで購入した市販薬(OTC医薬品)
  • 医療目的の交通費(通院に使ったバス・電車など)
  • 一部の産婦人科関連費用(検査や処置に関わるもの)

これらの支出を忘れずに「医療費控除の明細書」に追記することが重要です。

補填された金額は必ず差し引く

医療費控除の計算で誤解されがちなのが、「受け取った保険金や給付金は控除対象から除外する」必要がある点です。たとえば次のような支給を受けている場合、その金額を医療費合計から差し引かなければなりません:

  • 高額療養費制度による支給
  • 出産育児一時金
  • 民間の医療保険や共済からの給付金
  • 交通事故の治療費として支払われた賠償金

これを差し引かずに申請した場合、税務署から訂正を求められたり、最悪の場合には不正申告と見なされる可能性もあります。

家族の医療費も合算可能

医療費控除では、納税者本人だけでなく、同一生計の家族の医療費も合算して申請することができます。これは、扶養に入っていない配偶者や、別居しているが生活費を負担している親などの医療費も含められるということです。

たとえば、次のようなケースでも合算が可能です:

  • 離れて暮らす大学生の子どもの医療費(仕送りをしている場合)
  • 同居している高齢の親の医療費(生活費を負担している場合)
  • 妻の分娩費用(扶養に入っていなくても同一生計ならOK)

申請者本人が家族の医療費をまとめて申告することで、より高額な医療費控除が受けられる可能性があります。


年末のうちに準備しておきたいこと

確定申告は毎年2月中旬から始まりますが、その前に年末の段階からできる準備を進めておくことで、スムーズな申告が可能になります。特に医療費控除に関しては、日々の記録と年末の整理が鍵になります。

医療費領収書の整理

  • 1年間に支払った医療費の領収書は、月ごとまたは支払者(本人・配偶者・子どもなど)ごとに分類して保管します。
  • 不要な領収書(美容目的、予防接種のみなど)と混ざらないように注意します。
  • 合計額を表計算ソフトなどで計算しておくと、後の申告作業が楽になります。

医療費通知の保管

  • 健康保険組合から届く「医療費通知」は、医療費控除の明細書として活用できる貴重な書類です。
  • 通知が届く時期は組合によって異なるため、年明けすぐに確認し、届いていない場合は問い合わせましょう。

マイナポータルや申告システムの登録

  • e-Taxでの申告を予定している場合は、事前にマイナンバーカードの有効期限や暗証番号の確認をしておきましょう。
  • 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」のアカウント登録も、年末に済ませておくと便利です。

こうした準備をしておくだけで、確定申告の際に慌てることなく、確実に医療費控除を受けることができます。

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医療費控除を受けることで得られるメリット

医療費控除は、単に税金が戻ってくるだけでなく、家計や健康への意識を高めるきっかけにもなります。以下に、制度を活用することで得られる主なメリットを紹介します。

所得税・住民税の還付が受けられる

最も直接的なメリットは、所得税や住民税の還付を受けられる点です。特に高額な医療費を支払った年や、家族の医療費を合算できた年は、数万円から数十万円の還付が受けられることもあります。

節税につながる

医療費控除は「所得控除」に該当するため、課税所得が減り、結果として税率が下がることにもつながります。これにより、所得税だけでなく、住民税の軽減効果も得られます。

家計の見直しや記録の習慣化

医療費控除の申請をきっかけに、1年間にどれだけ医療費を支払っていたのかを把握でき、家計管理にも役立ちます。また、領収書の整理や支出の記録が習慣化されることで、他の支出項目の見直しにもつながります。


まとめ

医療費控除は年末調整では申請できず、確定申告でのみ受けられる制度です。そのため、「年末調整で税金は完了した」と思い込んでしまうと、医療費控除のチャンスを逃してしまう可能性があります。年間10万円以上の医療費を支払っている場合は、家族の分を合算できることも含めて、必ず制度の対象かどうかを確認することが大切です。

また、確定申告は煩雑なイメージがあるかもしれませんが、e-Taxやマイナポータルを活用すれば、スマートフォンだけで簡単に手続きを完結させることもできます。日頃から医療費の領収書や通知を整理しておき、年末から確定申告に向けた準備を始めることで、申告時の手間を減らし、確実な還付につなげることができます。

大切なのは、制度を正しく理解し、事前に行動することです。医療費控除は、節税のための強力なツールであり、上手に活用することで、家計にも大きなメリットをもたらします。早めの準備と正しい申請で、無駄なく税金を取り戻しましょう。

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