サブリース契約は相続対策になる?知っておくべき注意点と活用法

2025.6.23

  • 相続

少子高齢化の加速とともに、日本社会では「相続」が誰にとっても現実的な課題になりつつあります。特に都市部に不動産を保有する家庭では、相続税の負担が無視できない問題となっています。2015年に相続税の基礎控除額が引き下げられて以降、「相続税の課税対象者」が大幅に増加し、これまで課税とは無縁だった層までもが影響を受けるようになりました。 こうした状況を受けて注目されているのが「不動産を活用した相続税対策」です。不動産は現金や有価証券と異なり、「評価額の圧縮」が可能なため、課税対象財産を合法的に減額できる手段として多くの富裕層・中間層が取り入れ始めています。 中でも「手間のかからない相続税対策」として注目度が高まっているのが「サブリース契約」です。サブリースとは、所有する不動産を不動産管理会社などに一括で貸し出し、管理・運用を代行してもらう仕組みで、安定収入と節税効果の両立が期待できることから、相続を見据えた資産運用戦略として脚光を浴びています。 加えて、高齢化によって不動産の管理が困難になる高齢オーナーが増えており、「手放さずに運用し続ける方法」としての需要も拡大しています。 このコラムでは、「サブリース契約」がなぜ相続税対策に有効とされているのか、どのようなメリット・デメリットがあるのか、実務上の注意点を含めて詳しく解説していきます。節税効果を最大化しつつ、家族内のトラブルを避けるために、サブリースという選択肢を正しく理解することがこれからの相続対策において重要になるのです。

サブリースとは?

相続税対策として注目されるサブリース契約ですが、その仕組みと税制上の扱いを正しく理解することが、効果的な活用の第一歩です。この章では、サブリース契約の基本構造と、それがどのように相続税評価に影響を与えるのかについて詳しく解説します。

サブリース契約の仕組み

サブリース契約 流れ

サブリース契約とは、不動産の所有者(オーナー)が不動産会社などの管理業者に物件を一括で貸し出し、業者が第三者(入居者)に転貸する契約形態です。オーナーにとっては、空室リスクや入居者対応の手間を回避しながら、一定の賃料収入を得られるのが大きなメリットです。 この構造は、以下のような流れになります。 1.オーナーが不動産会社とサブリース契約を締結 2.不動産会社が物件を借り受け、第三者に転貸 3.入居者が不動産会社に賃料を支払う 4.不動産会社が一定の手数料を差し引いて、オーナーに賃料を支払う このように、サブリース契約は「転貸借契約」の一種であり、オーナーは直接入居者と契約しないため、煩雑な管理業務から解放されます。

「貸家建付地評価」「借家権割合」などの節税メカニズム

サブリース契約が相続税対策として有効とされるのは、「不動産の相続税評価額を引き下げる」仕組みが働くためです。主に以下の2つの節税要素が関与します ・貸家建付地評価の適用 貸家が建っている土地は「貸家建付地」として評価され、自用地(自己使用の土地)よりも低い評価額が適用されます。これは、借家が建っていることで土地の自由利用に制限があると見なされるためです。 ・借家権割合の控除 建物については、賃貸している場合に「借家権割合」が控除されます。例えば、借家権割合が30%とされる地域では、建物評価額の30%分が控除対象となるため、相続財産の評価額を圧縮できます。

サブリースで評価額が下がる根拠と制度背景

不動産が第三者に貸されていることで、オーナーがその不動産を自由に使用・処分する権利が制限されると国税庁は認識しており、これを反映して「評価額の減額」が制度化されています。サブリース契約も例外ではなく、形式的には「借家」と同様に扱われるため、借家権割合や貸家建付地の評価減が適用される対象となり得るのです。 ただし、税務上は「実質的に第三者への貸付が行われていること」が重要視されます。たとえば、サブリース会社が単に建物を空き家のままにしていたり、契約条項上に転貸を制限する記載がある場合、節税の適用対象から外れるリスクもあるため注意が必要です。 以上から、サブリース契約は「第三者への賃貸実態があること」「契約内容が転貸可能であること」が節税適用の前提条件であることがわかります。制度の趣旨と形式の両方を満たすことが、確実な相続税対策への第一歩となります。

相続税が軽減される仕組み

サブリース契約を通じた不動産活用が相続税対策になる理由は、評価減の仕組みによって「相続財産の課税評価額」が下がる点にあります。この章では、具体的な計算事例を交えながら、どのように税額が軽減されるのかを掘り下げていきます。

自用地 vs 貸家建付地の相続税評価比較

まず理解すべきは、同じ土地であっても利用状況によって評価額が異なるという点です。自用地とは所有者が自ら利用している土地のことで、相続時には路線価×地積で評価されます。一方で、建物を貸している状態にある土地は「貸家建付地」とされ、以下の式で評価されます 貸家建付地の評価額 = 自用地評価額 ×(1 – 借地権割合 × 借家権割合) 例えば、以下のケースを見てみましょう。

項目自用地評価貸家建付地評価(例)
路線価30万円/㎡30万円/㎡
地積100㎡100㎡
借地権割合60%60%
借家権割合30%30%
自用地評価額3,000万円-
評価減率-1 - (0.6×0.3) = 0.82
貸家建付地評価額-3,000万円 × 0.82 = 2,460万円

→ このケースでは、540万円の評価減が得られます。

建物評価減(借家権)、土地評価減(貸家建付地)

建物についても同様に、貸家状態であれば借家権分が控除されます。 貸家の建物評価額 = 建物評価額 ×(1 – 借家権割合) たとえば、建物の固定資産税評価額が2,000万円、借家権割合が30%であれば、評価額は2,000万円×0.7=1,400万円となり、600万円の評価減です。 土地と建物の両方で評価額を下げられるため、合計で1,000万円以上の評価減となることも珍しくありません。

小規模宅地等の特例との併用例

相続税対策において特に強力なのが「小規模宅地等の特例」です。これは被相続人の事業用または賃貸用として利用されていた宅地について、一定の要件を満たせば80%の評価減が適用される制度です。 サブリース物件が「貸付事業用宅地等」に該当すれば、330㎡までの土地について最大80%の評価減が可能です。ただし、以下のような要件があります。 ・相続開始前3年以内に貸付事業を開始したものは対象外(例外あり) ・相続人が一定期間、賃貸経営を継続する必要がある ・不動産管理を他人任せにしすぎると「事業性」が認められない場合も 適用の可否には専門家の判断が欠かせません。

相続トラブルを防ぐためにサブリースが有効なケース

相続は、単なる資産の移転だけではなく、人間関係の問題として深刻なトラブルを引き起こすことがあります。いわゆる「争族(そうぞく)」問題は、相続人間の不公平感、情報不足、事前準備の欠如によって発生します。サブリース契約を活用することによって、これらのトラブルを未然に防ぐケースも多く見られます。

現金 vs 不動産の相続で「争族」リスクが高まる

相続財産の中で現金が多ければ、相続人間で比較的スムーズに分配できます。しかし、不動産は現物での分割が難しいため、「誰が不動産を相続するのか」「他の相続人とのバランスはどうするのか」という問題が生じやすくなります。 たとえば、相続財産のほとんどが不動産で構成されており、他の相続人に渡すだけの現金が不足している場合、不満が募りトラブルへと発展しがちです。このようなケースでは、不動産を収益資産にしておくことが、重要な解決策となります。

家賃分配型なら相続人全員に公平性が保てる

サブリース契約によって不動産が安定的な賃貸収入を生み出していれば、その収益を複数の相続人に分配する仕組みをつくることができます。特に法人や家族信託と組み合わせることで、「遺産としての一物多価値化」が実現し、不動産を共有しても公平に利益を得られる仕組みが構築可能です。 これにより、「兄が家を相続して得をした」「自分には何も残らなかった」というような不満が軽減されます。現物分割が困難な不動産を「収益分配型資産」に変えることは、争族防止において極めて有効です。

法人名義・家族信託との組み合わせによる安定運用

不動産を法人名義にする、あるいは家族信託で運用権限を信託するという手法も、トラブルを避ける上で有効です。 ・法人名義化の利点:相続時に「法人株式」として評価されるため、不動産そのものの評価額よりも圧縮が期待できる場合がある。また、配当によって家族に収益を分配できる。 ・家族信託の利点:資産の所有権を信託財産として切り離し、指定された受益者に収益を分配できる。相続の際の所有権移転がスムーズで、紛争リスクを回避しやすい。 これらを組み合わせれば、資産の管理と分配を「計画的」「公平に」「透明に」行うことができ、相続人間の納得感も高まりやすくなります。

サブリース契約を相続対策に活かすメリット・デメリット

サブリース契約は、相続税対策だけでなく、相続後の不動産管理や家族間の資産分配といった複雑な問題にも一定の解決策を提供する手段です。しかし、すべてのケースで一律に有効とは限らず、契約内容や相続人の状況によっては不利に働くこともあります。ここでは、相続対策としてサブリース契約を結ぶ際に押さえておくべき代表的なメリットとデメリットを整理していきます。

メリット

節税効果 サブリース契約を通じて賃貸用物件として運用することで、「貸家建付地評価」や「借家権割合」の適用が可能となり、土地・建物それぞれの相続税評価額を引き下げることができます。加えて、小規模宅地等の特例が使えるケースでは、最大80%の評価減も期待できます。これにより、相続税の総額を数百万円単位で削減することも可能です。 管理不要 サブリース契約では、物件管理や入居者対応をすべて不動産会社が代行してくれるため、相続人や高齢のオーナーが日常的な管理に煩わされることがありません。特に相続人が遠方に住んでいる場合や、不動産の専門知識がない場合において、非常に大きな安心材料となります。 安定収入 家賃保証付きのサブリース契約であれば、空室リスクを抑えつつ一定の収入を継続的に得ることが可能です。相続人にとっても、毎月の安定したキャッシュフローを得る資産として、相続後の生活設計や資産運用の計画を立てやすくなります。 家族への公平分配に活かせる サブリースによる家賃収入は、法人名義や家族信託を活用することで複数人に分配する設計が可能です。これにより、「不動産は一人だけが相続した」といった不満を回避し、兄弟姉妹間の公平感を確保することができます。特に現物分割が困難な不動産資産を、現金収入化して配分する点で非常に有効です。

デメリット

評価額が期待通り下がらない可能性 サブリース契約を締結していても、税務署がその契約を「実質的に貸付行為と認めない」と判断した場合、評価減の適用が否認されることがあります。転貸実績がなかったり、借家権の行使が実質的に困難な条件であれば、評価減のメリットは享受できない可能性があります。 契約内容によっては相続後の自由が制限される サブリース契約には、一般的に「中途解約不可」「長期契約」「家賃改定の制限」といった条項が含まれていることが多く、相続人が自由に物件を売却・再活用しにくいケースもあります。契約内容によっては、相続後の資産活用の柔軟性が著しく低下してしまうおそれがあります。 業者の倒産や契約解除リスク サブリース業者が経営不振に陥った場合、家賃保証が途絶える可能性があります。また、業者とのトラブルによって契約解除となった場合、空室対応や管理業務が一気に相続人に降りかかるリスクもあります。信頼性と実績のある業者選定が極めて重要です。 契約期間と相続時期のズレ問題 契約が長期にわたる場合、相続が発生したタイミングで契約条件が相続人の希望と合致しないこともあります。たとえば、サブリース契約が残っていることで売却や別用途への転用ができないなど、資産の機動性を損なう可能性がある点には注意が必要です。

相続対策目的でサブリース契約を結ぶ際の実務ポイント

サブリース契約は相続税対策として有効な選択肢である一方、契約内容や実務的な設計次第で、期待していた節税効果が得られなかったり、逆に相続後の資産運用が困難になるリスクも伴います。ここでは、相続対策としてサブリース契約を活用する際に、必ず押さえておきたい5つの実務的なポイントについて解説します。

1. 契約内容の精査

サブリース契約を締結する際は、形式的な内容だけでなく、契約条項の中身まで慎重に確認する必要があります。特に以下の点が重要です。 ・契約期間:長すぎると相続人の運用に支障が出る可能性あり ・中途解約条項:相続人の意志で解約できる内容になっているか ・家賃保証の継続性:保証期間や条件の明示、見直し条項の有無 ・修繕義務の所在:原状回復や維持管理の責任範囲 契約書の条項によっては、評価減の適用要件を満たさない場合や、実務上の柔軟性が著しく損なわれることもあります。

2. 評価減を意識した契約条項設計

サブリース契約が相続税の評価減を認められるためには、「実質的に第三者への賃貸が行われている」ことを明確に示す必要があります。評価減が適用されるための主なポイントは以下のとおりです。 ・転貸可の条項が明示されている ・実際に第三者が入居している実績がある ・借家権の内容が明確である これらの要素を契約書にしっかりと記載し、評価上の疑義を避けることで、税務署による否認リスクを低減できます。

3. 相続人への情報共有と準備

サブリース契約に関する情報は、将来的にその不動産を相続する可能性がある相続人にもあらかじめ共有しておくことが大切です。特に以下の内容について、事前の話し合いや書面での記録があるとスムーズです。 ・契約の存在と主な条件 ・相続後の収益分配や管理方針 ・契約解消や再契約の可能性 突然、相続人が「こんな契約があるとは知らなかった」となると、不信感や対立が生じる原因となります。家族間で情報共有の姿勢を持つことが、争族防止にもつながります。

4. 契約と同時に遺言・信託も検討

サブリース契約は単体で活用するよりも、遺言書や家族信託などと組み合わせて活用することで、より高い相続対策効果が期待できます。 ・遺言書:誰がその不動産を相続するか、収益分配はどうするかを明記 ・家族信託:信託設定で財産の運用権限を特定の家族に委ね、収益の分配ルールも決められる これらを活用することで、「誰が管理するのか」「誰が収益を得るのか」が明確になり、トラブルを大幅に回避できます。

5. 不動産税務に精通した専門家との連携

サブリース契約を相続税対策として設計するには、不動産・税務・法律の各分野に精通した専門家の支援が不可欠です。具体的には ・税理士(特に資産税専門) ・不動産鑑定士 ・相続専門の司法書士・弁護士 ・不動産管理会社の法務担当 複数の専門家と連携し、現状分析から最適な契約設計、評価額の検討、節税シミュレーションまで一貫した体制を整えることが、成功の鍵です。

まとめ

サブリース契約は、相続税対策として近年注目を集めている不動産活用手法の一つです。その背景には、高齢化の進行と相続税課税強化があり、多くの人が自宅や保有不動産の相続を現実の課題として捉え始めていることがあります。 本コラムを通じて見てきたように、サブリース契約を活用することで、貸家建付地評価や借家権割合を通じた不動産の評価額の圧縮が可能になります。また、小規模宅地等の特例との併用により、さらに大きな節税効果を得ることもできます。さらに、収益物件として不動産を整備しておくことで、相続後の家族間トラブルの防止や、公平な財産分配にも役立つという点で、非常に多角的なメリットを持ち合わせています。 ただし、その効果を十分に引き出すためには、「契約内容の適正性」や「相続人への事前共有」「専門家との連携」など、多くの実務的配慮が求められます。評価減の適用を税務署に否認されてしまうリスクや、契約条項によって相続人の権限が制限される可能性も踏まえ、慎重な設計が不可欠です。 これから相続対策として不動産のサブリース活用を検討する方は、まずは現状の資産構成や家族構成を把握し、専門家の意見を交えながら長期的な視点で計画を立てることが重要です。将来の「相続」を単なるリスクと考えるのではなく、「資産の再設計と家族の安定を両立する機会」として前向きに捉えることで、より良い結果が得られるはずです。

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