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夏の風物詩ともいえる「お盆」。日本に古くから伝わるこの年中行事は、単なる連休ではなく、ご先祖様の霊を家族で迎え入れ、供養するという大切な意味を持っています。とりわけ「迎え盆」と「送り盆」は、お盆の中でも中心的な行いであり、多くの家庭で丁寧に実践されてきました。これらの風習には、祖先への感謝や敬意を表す心が込められており、日本人の精神文化の原点ともいえる存在です。
しかし、現代社会では都市化や生活様式の多様化に伴い、「迎え盆って何をするの?」「送り盆はいつやるの?」「うちの地域の風習と違うかも…」と、戸惑いや疑問を感じる人も少なくありません。さらに、宗派や地域ごとに異なるしきたりがあるため、一概に「これが正解」と言い切るのが難しいのも事実です。
本コラムでは、そんな「迎え盆」と「送り盆」について、そもそもの意味や歴史、いつ行うべきか、具体的な行動、そして現代の暮らしに合った実践方法まで、できる限り詳しく解説します。お盆の本質を理解し、自分らしい供養の形を見つける手助けとなれば幸いです。
迎え盆と送り盆、それぞれの意味
迎え盆と送り盆は、日本のお盆行事において非常に重要な意味を持つ要素です。どちらも、ご先祖様との精神的なつながりを感じるための行動であり、家族や地域の中で大切に守られてきた習わしです。
迎え盆の意味
迎え盆は、ご先祖様の霊を自宅に迎えるための行いです。古くから日本では、亡くなった人の霊は一定の時期に家族のもとへ戻ってくると信じられてきました。その際、霊が迷わずに帰ってこられるように目印として火を灯したり、玄関先を清めて迎える準備を整えたりするのが慣わしです。
また、霊が快適に過ごせるよう、仏壇の前に精霊棚を設けて、野菜や果物、故人の好物などを供えるのも特徴です。これにより、亡き人への感謝の気持ちと敬意を形にし、家族の中でその存在を再確認する機会となります。
送り盆の意味
一方の送り盆は、滞在していたご先祖様の霊を再び送り出すための行動です。家族が見守る中で、静かに霊をお送りするこの風習には、再会の約束と感謝の思いが込められています。送りの火を灯したり、手を合わせたりすることで、「また来年もお越しください」という願いとともに、平穏な帰路を祈る意味合いが込められます。
このように、迎え盆と送り盆は単なる年中行事ではなく、日本人が長年培ってきた霊を敬う心、そして家族を思う気持ちの象徴ともいえるでしょう。
お盆とはどんな行いか
お盆とは、日本における祖先供養の中でも最も重要な年中行事のひとつです。その正式名称は「盂蘭盆会(うらぼんえ)」といい、仏教に由来する伝統的な供養の考え方を背景にしています。現代においては宗派を問わず広く行われており、宗教的というよりも文化的な慣習として、生活に深く根付いています。
仏教的な起源と日本での定着
お盆の起源は、仏教経典『盂蘭盆経(うらぼんきょう)』に記されています。お釈迦様の十大弟子の一人である目連尊者(もくれんそんじゃ)は、亡き母が餓鬼道で苦しんでいることを知り、お釈迦様の教えに従って多くの僧侶に供養を行い、母を救ったとされています。この故事が「盂蘭盆会」の原型となり、祖先を供養する習慣として東アジア全体に広がりました。
日本にこの教えが伝わったのは飛鳥時代とされ、初期は宮中行事や寺院での法要として行われていました。やがて、もともと日本にあった祖霊信仰——死者の霊は一定の時期にこの世に戻ってくるという考え方——と融合し、民間の中で広く受け入れられるようになりました。
家族が霊を迎え入れ、共に過ごすという行いは、時代を超えて現在まで続いています。墓参りや仏壇への供物、お迎え・お見送りの習慣なども、この融合の中で自然に形成されてきました。
現代におけるお盆の役割
現代では、核家族化や都市化が進んだことで、昔ながらの形式にこだわるのが難しくなっている家庭も少なくありません。しかし、供養の心そのものは今も日本人の中に深く息づいています。仏壇がない家庭では写真や遺品の前で静かに手を合わせたり、オンラインで故人を偲んだりと、形は変わっても大切な精神性は保たれています。
また、地域によっては盆踊りや灯籠流しといった行事が行われることもあり、お盆は家族や地域、そして現在と過去をつなぐ貴重な時間とされています。特に帰省や家族団らんの機会として、お盆は現代においても重要な意味を持ち続けています。
2025年のお盆はいつ?
2025年のお盆期間は、以下の通りです
・月遅れ盆(8月盆)
全国的に一般的な形式で、2025年は8月13日(水)〜16日(土)が主な期間です。
・旧盆(7月盆)
東京・静岡・沖縄などでは旧暦に基づき、7月13日(日)〜16日(水)に行う家庭もあります。
また、初めてお盆を迎える方にとっては、「新盆(にいぼん・しんぼん)」という概念も重要です。これは、故人が亡くなってから初めて迎えるお盆のことで、通常よりも丁寧な準備や供養を行う傾向があります。親戚や知人が訪れる機会も増え、地域によっては白提灯を使うなどの特徴的な習わしが見られます。
新盆を迎える年の家庭では、特に準備や日程の確認を早めに行うことが大切です。地域の風習や宗派の方針も確認しながら、心を込めた供養を心がけましょう。
迎え盆・送り盆の時期と違い
迎え盆と送り盆の行いは、毎年夏に決まった時期に実施されますが、日付は地域や家庭の慣習、宗派によって多少異なります。この章では、2025年のカレンダーに基づきながら、迎え盆・送り盆の具体的な時期とその背景を解説します。
一般的な全国のスケジュール
現在、もっとも一般的とされるのが「月遅れ盆(8月盆)」と呼ばれるスタイルです。
迎え盆:8月13日(水)夕方〜
夕刻に「迎え火」を灯してご先祖様をお迎えします。
送り盆:8月15日(金)または16日(土)夕方〜
帰る霊を見送る「送り火」を灯し、供養の締めくくりとします。
多くの家庭では13日の夕方から精霊棚の飾りつけや供物の準備が始まり、15日または16日に送り火を焚いてご先祖様を見送ります。
地域による違い
旧盆(7月盆)を行う地域
東京都の一部や静岡、沖縄などでは、旧暦に近い日程でお盆を行う風習があります。
・迎え盆:7月13日(日)夕方〜
・送り盆:7月15日(火)または16日(水)夕方〜
これは明治時代の改暦以前の習慣を引き継いでいるためで、都市部や仏教寺院が多い地域に多く見られます。
地域の差と風習
・北海道や東北の一部では、15日夕方に送り火を焚く家庭が多く見られます。
・関西では16日まで続くことが多く、大文字焼きなどの送り火行事とリンクしている地域もあります。
・沖縄では「旧盆」がより強く根づいており、「ウークイ(送り)」と呼ばれる独自の行いがあります。
宗派による違い
浄土真宗では、霊がこの世に戻ってくるという考えをとらないため、迎え火や送り火の行動は行わないことが一般的です。その代わりに、お盆の期間中に報恩講(ほうおんこう)や仏教法話、念仏などを通じて先祖への感謝を示します。
宗派や家系の考え方に沿って行うことが重要で、親族や菩提寺への確認を行うとよいでしょう。
迎え盆・送り盆の実施時間帯
・迎え火・送り火はいずれも夕方〜夜に行うのが基本です。
霊は「夕暮れに訪れ、夜に宿り、夕暮れに帰る」と信じられてきたため、夕方が目安となります。
・一部地域では、送り盆の後に近隣の寺院で合同供養が行われるケースもあります。
実際のスケジュール例(2025年:月遅れ盆)
日付 | 内容 |
---|---|
8月13日(水) | 迎え盆(迎え火)開始、仏壇の飾りつけ、精霊棚の準備 |
8月14日(木) | 家族での供養・法要、墓参り |
8月15日(金) | 送り盆、送り火を焚く家庭も多数 |
8月16日(土) | 地域によっては送り火や灯籠流しあり |
このように、日程そのものは共通していても、行いの中身やタイミングには地域ごとの色合いがあるため、自分の家庭や地域の習わしを尊重することが何よりも大切です。
迎え盆・送り盆の準備と流れ
迎え盆と送り盆は、単なる日付の区切りではなく、それぞれに具体的な行いと意味があります。この章では、迎え盆と送り盆で一般的に行われる内容と、地域によって異なる点について詳しく解説します。
迎え盆で行うこと

迎え盆は、ご先祖様の霊を家に迎えるための行動です。以下のような準備や行いが一般的です。
1. 精霊棚(しょうりょうだな)の設置
仏壇の前や部屋の一角に、精霊棚を用意します。これは、ご先祖様が滞在する場所であり、以下のようなものを供えるのが一般的です
・季節の野菜や果物(ナス、キュウリ、桃など)
・故人の好物(団子、お菓子、酒など)
・お線香、ろうそく、灯明
・白い提灯(迎え火の代用として玄関先に吊るす場合も)
精霊馬(しょうりょううま)と呼ばれるナスやキュウリに割り箸を刺して作る馬や牛もよく供えられます。これは「馬に乗って早く帰ってきてもらい、牛に乗ってゆっくり帰ってもらう」という願いが込められています。
2. 迎え火を焚く
迎え盆の夕方、自宅の玄関先や門口で「迎え火」を焚きます。これは霊が迷わず家に帰ってこられるよう、目印となるものです。一般的にはオガラ(麻の茎)を焚きますが、最近では防火上の理由からLEDライトやロウソクで代用する家庭も増えています。
3. 墓参り
多くの家庭では、迎え盆の日またはその前後にお墓を訪れて掃除をし、花や線香を供えます。霊を自宅に迎える前に、まず墓所に出向き、丁寧に整えることで、供養の心をあらわします。
送り盆で行うこと

送り盆は、滞在していたご先祖様を再びあの世へお見送りする日です。感謝を伝え、無事に帰れるように見送ることが大切です。
1. 送り火を焚く
送り盆の夕方に「送り火」を焚き、霊を見送ります。これも玄関先や門口で行われることが多く、迎え火と同じくオガラを使うのが伝統的です。最近では、環境や安全に配慮してLEDライトや提灯で代用する家庭もあります。
2. 供物の整理・お焚き上げ
精霊棚に供えた食べ物や飾り物は、地域によって「お焚き上げ」や「川に流す」などして処理します。現在では環境保護の観点から、お寺や地域の集会場に持参し、まとめて供養してもらうことが推奨されている地域もあります。
3. 再度の墓参り
送り盆のタイミングで再び墓参りをする家庭もあります。これは「無事にお戻りください」という願いを込めて、最後の見送りを丁寧に行うという意味合いがあります。
地域や家庭による違い
・一部地域では「灯籠流し」や「大文字焼き」など、地域一帯で霊を見送る行事を行うことがあります。
・迎え火・送り火の代わりに、白提灯や仏壇の灯明だけで代用する家庭も増えています。
・家の事情やライフスタイルによっては、精霊棚の規模を簡略化したり、墓参りを別日に行うなど、柔軟な対応がされることも一般的です。
迎え盆・送り盆で気をつけたいこと
迎え盆と送り盆は、どちらもご先祖様を敬う大切な行いですが、安全面や文化的背景を考慮し、いくつかの注意点を押さえておくことが重要です。特に現代の生活環境においては、昔ながらのやり方をそのまま再現することが難しい場合もあります。ここでは、無理なく、そして丁寧に供養を行うためのポイントを整理します。
1. 火の取り扱いには十分注意する
迎え火・送り火では、オガラ(麻の茎)や新聞紙を燃やすケースがありますが、現代の住宅事情では非常に注意が必要です。
・集合住宅では火気厳禁の場所が多いため、実際に火を焚くことができないケースがほとんどです。
・風が強い日や乾燥した日には、火の粉が飛んで火災のリスクが高まるため中止も検討するべきです。
・小さな子どもがいる家庭では、やけどや火の取り扱いに特に気をつけましょう。
そのため、最近ではLEDキャンドルや電池式の迎え灯・送り灯を代用する家庭が増えています。これにより、安全性を確保しつつ、気持ちを込めた供養が可能となります。
2. 宗派や家系の方針に従う
仏教の宗派によっては、迎え火や送り火そのものを行わない場合があります。
・浄土真宗では、霊が戻ってくるという考え方を取らないため、火を焚く代わりに念仏や法話、仏壇での供養に重点を置きます。
・日蓮宗や禅宗では、火を使った行いを簡素化することもあります。
また、家ごとの慣習も重要です。親族や年長者に尋ねると、長年続けられてきた方法や考え方を確認することができ、トラブルや誤解を避けられます。
3. 環境に配慮する
送り盆では灯籠流しや供物の川流しを行う地域もありますが、近年は環境保護の観点から制限されているケースもあります。
・ゴミの不法投棄と誤解されることもあるため、自己判断で川や海に物を流すのは避けましょう。
・地域の寺院や自治体が用意する「お焚き上げ」や「合同供養」に参加するのが無難です。
紙製の灯籠であっても、自治体の許可や後片付けの有無が重要なポイントになります。
4. 無理のない範囲で行う
高齢者や小さな子ども、病気や障がいのある家族がいる場合、すべての工程を昔ながらの方法で行うことが難しいこともあります。
・精霊棚の設置や墓参りを簡素に済ませる家庭も増えています。
・遠方の墓参りが難しい場合は、自宅での黙祷や供養だけでも充分です。
・デジタル供養やオンライン法要を利用するという方法もあります。
重要なのは「形式」よりも「心」です。完璧を目指すのではなく、できる範囲で敬意と感謝を込めて行うことが、お盆本来の意味にかなう姿勢といえるでしょう。
まとめ
お盆は、日本人にとって祖先とのつながりを再確認し、感謝の気持ちを表す大切な行いです。なかでも「迎え盆」と「送り盆」は、ご先祖様を心から迎え、丁寧に見送るという、精神性の高い伝統として今なお大切にされています。
本稿では、まずお盆そのものの成り立ちや仏教的背景、そして民間信仰との融合について説明し、迎え盆・送り盆の意味、具体的な準備や進め方、地域差や宗派の違い、さらには2025年の実際のスケジュールについても詳しく触れてきました。迎え火・送り火といった伝統的な行いには、それぞれ深い意味が込められており、家族の絆や命のつながりを感じる貴重な時間として受け継がれてきました。
また、現代社会では火の取り扱いや生活環境の変化により、伝統的な方法が難しい家庭も増えていますが、それは決して供養の気持ちが薄れることを意味するわけではありません。LEDの迎え灯や、オンライン法要、遠方の墓へのリモート供養など、新しいかたちでも心を込めて実践することができる時代です。
お盆とは、形式にこだわることではなく、今ある自分を育んでくれた存在への敬意と感謝を、自分なりの方法で表現することに本質があります。地域や家庭の慣習を大切にしながらも、無理のない方法で、自分らしい供養のかたちを見つけていくことこそが、これからの時代にふさわしいお盆の姿といえるでしょう。
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