
身近な人が亡くなったときの相続手続き完全ガイド
公開日: 2024.4.19 更新日: 2025.3.3
目次
相続人の確定と法定相続分の基本
相続人とは?法定相続人と推定相続人の違い
法定相続人の範囲
相続順位と割合
代襲相続とは?
養子や非嫡出子は相続できるのか?
相続人がいない場合の財産の行方
遺産の調査と財産の確定
遺産とは?相続対象となる財産とならない財産
現金・預貯金・証券の調査方法
不動産の相続(評価方法と相続登記の流れ)
借金や負債も相続?マイナス財産の調査
相続財産の目録を作成する方法
遺産分割の方法と注意点
遺言がある場合とない場合の相続手続きの違い
遺産分割協議の進め方
共有名義のリスクとトラブル回避策
遺留分とは?請求できる人とできない人
相続トラブルの事例と防止策
調停・裁判になった場合の流れ
相続放棄・限定承認とは?
相続放棄と単純承認・限定承認の違い
相続放棄する場合の手続きと期限(家庭裁判所への申請)
限定承認を利用するメリットとデメリット
すでに遺産を使ってしまったら?(相続放棄の適用外ケース)
相続税の計算と申告のポイント
相続税の基礎知識(税率と計算方法)
基礎控除額の計算方法と特例(3,000万円+600万円×法定相続人)
申告期限は10ヶ月以内!遅れるとどうなる?
相続税を抑える方法(小規模宅地の特例、生前贈与)
相続税の分割払い(延納・物納)の仕組み
不動産の相続登記と名義変更
2024年4月から義務化!相続登記の期限と罰則
相続した不動産の名義変更手続き
売却する場合と共有名義にする場合の違い
不動産の評価額はどう決まる?相続税への影響
住み続ける?売却する?選択肢と判断基準
生前対策で相続トラブルを防ぐ
「争族」にならないための相続対策とは?
遺言書の作成方法と注意点
家族信託とは?認知症対策としての活用
生前贈与のメリットとデメリット(贈与税との関係)
相続トラブルの回避策(専門家への相談の重要性)
まとめ
身近な人が亡くなると、深い悲しみに包まれると同時に、相続に関する多くの手続きを行わなければなりません。死亡届の提出や年金の停止、銀行口座の凍結など、時間制限のある手続きも多く、放置するとトラブルにつながることもあります。また、相続人の確定や財産の調査、遺産分割の進め方など、法律や税金の知識も求められるため、初めて相続を経験する方にとっては大きな負担となるでしょう。
本記事では、身近な人が亡くなった際に必要な相続手続きについて、わかりやすく解説します。
「まず何をすればいいのか?」「どんな手続きが必要なのか?」「相続税は発生するのか?」など、相続に関する疑問を一つずつ解決できるよう、ステップごとに詳しく説明していきます。
相続手続きは早めに着手することが重要です。本記事を参考に、スムーズに相続を進め、トラブルを未然に防ぎましょう。
相続人の確定と法定相続分の基本
相続手続きを進める上で、まず重要なのが「誰が相続人になるのか?」を確定することです。
相続人の範囲や優先順位、相続の割合は民法で定められており、誤った解釈をすると後々トラブルの原因となることもあります。ここでは、相続人の確定方法や法定相続分について詳しく解説します。
相続人とは?法定相続人と推定相続人の違い
相続人には「法定相続人」と「推定相続人」の2種類があります。
法定相続人とは?
民法で定められた、亡くなった人の財産を相続する権利を持つ人を指します。
相続順位や相続割合も法律で決まっており、相続人の状況によって相続の分け方が変わります。
推定相続人とは?
相続が発生する前の段階で、「仮に今相続が発生した場合に相続人となる人」のことです。
例えば、親が存命中の子どもは「推定相続人」となります。
ただし、生前に遺言書を作成した場合や養子縁組をした場合などで、推定相続人の範囲が変わることもあります。
法定相続人の範囲
法定相続人は、配偶者は常に相続人となり、その他の相続人は順位によって決まるという原則があります。
順位 | 相続人 | 該当する人 |
---|---|---|
第1順位 | 子 | 実子(嫡出子・非嫡出子)・養子 |
第2順位 | 親(直系尊属) | 亡くなった人の父母・祖父母 |
第3順位 | 兄弟姉妹 | 亡くなった人の兄弟姉妹 |
配偶者は常に相続人ですが、その他の相続人は順位によって決まり、上位の相続人がいる場合、下位の相続人には相続権が発生しません。
相続順位と割合
相続の割合(法定相続分)は、相続人の組み合わせによって異なります。
以下に代表的なケースを図解で示します。
① 配偶者と子が相続人の場合
配偶者:1/2
子(複数いる場合は均等に分ける):1/2
【例】
夫が亡くなり、妻と2人の子どもが相続人の場合
妻:1/2(50%)
子A:1/4(25%)
子B:1/4(25%)
② 配偶者と親が相続人の場合(子がいない)
配偶者:2/3
親(両親):1/3(両親で均等に分ける)
【例】
妻:2/3(66.7%)
父:1/6(16.7%)
母:1/6(16.7%)
③ 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合(子も親もいない)
配偶者:3/4
兄弟姉妹(複数いる場合は均等に分ける):1/4
【例】
妻:3/4(75%)
兄:1/8(12.5%)
妹:1/8(12.5%)
代襲相続とは?
代襲相続とは、本来の相続人が相続開始前に死亡した場合や、相続欠格、相続廃除に該当する場合に、その相続人の子が代わりに相続人となる制度です。
主な特徴は以下の通りです。
直系卑属の代襲相続
・子が亡くなっている場合、孫が代わりに相続します。
・これは民法第887条に規定されています。
・直系卑属(子・孫)の代襲相続は、制限なく何代でも続けることができます。これを「再代襲相続」と呼びます。
兄弟姉妹の代襲相続
・兄弟姉妹が亡くなっている場合、その子(甥姪)が代わりに相続します。
・これは民法第889条に規定されています。
・代襲相続できるのは、兄弟姉妹の子(甥・姪)までの1代限りです。甥・姪の子には相続権がありません。
相続放棄の場合
・相続人が相続放棄をした場合、その子は代襲相続できません。
相続順位
・直系卑属が存在する場合、兄弟姉妹の代襲相続は行われません。
養子や非嫡出子は相続できるのか?
養子は実子と同じ相続権を持つ
・法律上の養子は、実子と同じ権利を持つため、法定相続人になれる。
・ただし、普通養子縁組と特別養子縁組では影響が異なる。
普通養子:実親・養親両方の相続権を持つ
特別養子:養親のみの相続権を持つ
非嫡出子(婚外子)は相続できるか?
・婚姻関係のない男女の間に生まれた子(非嫡出子)も、実子として相続権を持つ。
・以前は嫡出子よりも相続分が少なかったが、現在は嫡出子と同等の相続権を持つ(民法改正により平等化)。
相続人がいない場合の財産の行方
法定相続人がいない場合、財産は国庫に帰属します。
しかし、一定の手続きを踏めば、「特別縁故者」として財産を取得できる可能性があります。
特別縁故者とは?
特別縁故者とは、被相続人と深い関係を持つ以下のような人を指します。
被相続人の内縁の配偶者
例:30年以上にわたり事実上の夫婦として内縁関係を結び生活を共にしていた人
事実上の監護関係にあった者(事実上の養子など)
例:被相続人を幼時は実父と信じ、成長後は養父として慕い、30年以上共同生活をしてきた人
長年介護をしていた人
例:被相続人の療養看護に努めた人
その他特別な関係があった者
例:被相続人の父親代わりの役目を果たし、相続財産の主要部分をなす不動産の購入について多大な尽力をした人
例:50年以上、師弟として交流し、よき相談相手・生活上の助言者として関わりを持った人
特別縁故者が財産を受け取る流れ
・家庭裁判所に「特別縁故者」として申立てをする
・裁判所が審査し、財産の一部または全部を取得できるか判断
・認められれば、国庫帰属を免れる
遺産の調査と財産の確定
相続人が確定したら、次に行うべきことは故人が残した財産の調査です。
遺産の内容を明確にしなければ、遺産分割の協議や相続税の申告が進められません。
財産には、プラスの財産(現金・不動産など)とマイナスの財産(借金・ローンなど)があるため、しっかりと調査を行い、適切な相続の選択をすることが大切です。
遺産とは?相続対象となる財産とならない財産
財産には、大きく分けて以下の3つの種類があります。

プラスの財産(相続できる財産)
現金・預貯金(銀行口座・タンス預金)
不動産(土地・建物・借地権)
株式・投資信託・債券(証券会社の口座)
生命保険の解約返戻金(被相続人が契約者の場合)
自動車・貴金属・美術品(価値があるもの)
ゴルフ会員権・特許権(一定の資産価値を持つ権利)
マイナスの財産(相続しなければならない負債)
借金・ローン(住宅ローン・消費者金融の借入れ)
未払金(医療費・税金・家賃・クレジットカードの残債)
保証債務(故人が連帯保証人になっている場合)
相続の対象とならない財産
死亡保険金(受取人が指定されている場合)
祭祀財産(仏壇・墓地・位牌)
年金(遺族年金は遺族が受け取るため相続財産には含まれない)
※生命保険の受取人が故人自身だった場合は相続財産に含まれるため注意が必要。
現金・預貯金・証券の調査方法
銀行預金の確認方法
故人が口座を持っていた銀行を特定するために、以下を確認します。
・通帳・キャッシュカード
・ネットバンキングの記録
・給与振込口座(会社からの支払い履歴)
・年金の受取口座
銀行に連絡すると、相続手続きのために必要な書類を案内されます。
・故人の死亡届(死亡診断書のコピー)
・相続人の戸籍謄本
・遺産分割協議書(必要な場合)
証券口座の調査
株式や投資信託などの金融資産があるかどうかを確認する方法は以下の通りです。
・証券会社からの郵送物(取引明細・配当通知)
・マイナンバー制度で証券口座が紐づけられているため、税務署に照会する方法もある
証券口座の凍結を解除するには、銀行と同様の手続きが必要になります。
不動産の相続(評価方法と相続登記の流れ)
不動産の調査方法
故人が不動産を所有していたかどうかを確認するためには、以下の書類を探しましょう。
・権利証(登記済証)または登記識別情報通知
・固定資産税の納税通知書(所有不動産が記載されている)
・市町村役場の「名寄帳」(不動産の所有状況を確認できる)
不動産の評価方法
不動産の評価額を決める方法として、以下の3つがあります。
・固定資産税評価額(自治体が算定する価格)
・路線価評価(国税庁の基準に基づく)
・不動産鑑定評価(専門家が算定する市場価格)
不動産の相続登記の流れ(2024年4月から義務化!)
・相続人全員で遺産分割を決定
・必要書類(戸籍謄本・遺産分割協議書)を準備
・法務局で相続登記を申請
登記をしないと、将来的に売却や担保設定ができなくなるため、必ず登記を行いましょう。
借金や負債も相続?マイナス財産の調査
相続では、借金や未払金などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。
調査を怠ると、知らないうちに大きな負債を背負うリスクがあるため、慎重に進めましょう。
借金の調査方法
・クレジットカードの明細(未払い分がないか確認)
・消費者金融・銀行の借入れ記録(契約書・督促状)
・税金・公共料金の未納通知
故人が連帯保証人だった場合
故人が誰かの借金の連帯保証人になっていた場合、相続人にその責任が引き継がれる可能性があります。
このようなケースでは、相続放棄を検討する必要があります。
相続財産の目録を作成する方法
財産の調査が終わったら、「相続財産目録」を作成しましょう。
相続財産目録とは、故人の財産の全容を明確にするための一覧表です。
【記載例】
財産の種類 | 内容 | 評価額 |
---|---|---|
現金・預貯金 | ○○銀行 普通預金 12345678 | 500万円 |
不動産 | 東京都〇〇区〇〇町1-2-3 | 3,000万円 |
株式 | △△証券 100株 | 200万円 |
借金 | □□銀行 カードローン | -100万円 |
財産目録の作成手順
1. 現金・預貯金・有価証券・不動産などをリストアップ
2. 負債(借金・未払金など)も含める
3. 不動産の登記簿や銀行の残高証明書などの証拠を揃える
4. 相続人全員に共有し、遺産分割協議の資料として活用する
遺産分割の方法と注意点
遺産の調査が完了し、財産の全体像が明らかになったら、次のステップは「遺産分割」です。
遺産分割は、相続人同士で財産をどのように分けるかを話し合う重要なプロセスであり、トラブルの原因になりやすいポイントでもあります。
ここでは、遺産分割の基本的な方法と、スムーズに進めるための注意点について詳しく解説します。
遺言がある場合とない場合の相続手続きの違い
遺産分割の進め方は、「遺言書があるかどうか」で大きく異なります。
遺言がある場合
・遺言書の内容が最優先される
・遺言執行者(指定されている場合)が手続きを進める
・相続人全員の同意が不要(遺留分侵害がない限り)
・「自筆証書遺言」の場合、家庭裁判所で検認手続きが必要
ポイント
・公正証書遺言なら即時執行可能
・遺言執行者がいる場合は、その指示に従って手続きを進める
遺言がない場合
・相続人全員で「遺産分割協議」を行う必要がある
・法定相続分に基づく分割が基本(ただし、全員の合意があれば自由に分割可能)
・話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所で「調停」や「審判」に進む
ポイント
・遺言がないとトラブルになりやすいため、慎重に協議を進める
・遺産分割協議書を作成し、全員の署名・押印を行うことが重要
遺産分割協議の進め方
遺産分割協議とは、相続人全員が参加し、遺産の分け方を決める話し合いです。
遺産分割協議を円滑に進めるためには、次のステップを踏むことが重要です。
1. 相続人全員で協議を行う
すべての相続人が参加しなければ、協議は無効となる
2. 遺産の一覧を確認する
財産目録をもとに、相続財産の内容を全員で共有
3. 分割方法を決める
遺産の分割方法には3つの方法がある(後述)
4. 遺産分割協議書を作成する
協議内容を文書化し、相続人全員が署名・押印する
この書類は、銀行の相続手続きや不動産の名義変更に必要
共有名義のリスクとトラブル回避策
遺産分割の方法として「共有名義」という選択肢もありますが、長期的に見るとトラブルの原因になりやすいため、慎重に考える必要があります。
共有名義のリスク
売却や活用の自由が制限される
共有者全員の同意がないと、不動産の売却ができない
固定資産税の負担が不明確になる
誰がどの割合で負担するのか、事前に決めておかないとトラブルのもとに
次の世代で相続が複雑化する
共有者が亡くなると、さらに多くの相続人が関わることになり、分割が難しくなる
トラブル回避策
・可能な限り単独名義にする(共有名義を避ける)
・共有名義にする場合は、事前に利用ルールを明確に決めておく
・「換価分割」(売却して現金で分ける)を検討する
遺留分とは?請求できる人とできない人
遺留分とは?
法定相続人には、最低限の取り分が保証されている場合があります。
これを「遺留分」といい、一定の相続人は遺言で相続権を奪われた場合でも、遺留分を請求することが可能です。
遺留分を請求できる人
・配偶者
・子(代襲相続する孫を含む)
・直系尊属(親)
※ 兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言で相続ゼロにされても異議を申し立てることはできません。
遺留分の割合
直系尊属のみが相続人の場合 → 遺産の1/3
配偶者・子が相続人の場合 → 遺産の1/2
遺留分侵害額請求の手続き
・遺言で不公平な分配をされた場合、遺留分を請求できる
・相続開始を知ってから1年以内に請求しないと無効
相続トラブルの事例と防止策
相続は、家族間の感情が絡むため、トラブルが起きやすい分野です。
実際に発生したトラブルの事例から、予防策を考えましょう。
【事例1】長男が財産を独り占めしようとした
・両親の面倒を見ていた長男が、「自分がすべて相続する」と主張
・他の兄弟は納得できず、家庭裁判所で調停に発展
防止策
・生前に遺言書を作成し、公正証書遺言にしておく
・介護の貢献度を考慮し、寄与分の制度を活用する
【事例2】遺言があったが、兄が「遺留分侵害額請求」をした
・父の遺言で、長男にすべての財産を相続させると記載
・弟が「遺留分侵害額請求」を行い、相続人間で争いに
防止策
・遺言書を書く際に、遺留分を考慮して分配を決める
・事前に家族と話し合い、トラブルを防ぐ
調停・裁判になった場合の流れ
相続トラブルが解決しない場合、家庭裁判所での調停・裁判に進むことになります。
遺産分割調停
・家庭裁判所の調停委員が間に入り、公平な話し合いを促す
・調停が成立すれば、調停調書が作成される(法的効力あり)
遺産分割審判
・調停が不成立の場合、裁判官が遺産の分け方を決定する
・どちらかが不服の場合、高等裁判所に控訴可能
相続放棄・限定承認とは?
相続では、亡くなった人の財産だけでなく、借金や負債などのマイナス財産も引き継ぐことになります。
「財産よりも借金のほうが多い」「不要な不動産を相続したくない」などの場合、相続放棄や限定承認という選択肢を検討することが重要です。
ここでは、それぞれの制度の違いや、具体的な手続きについて詳しく解説します。
相続放棄と単純承認・限定承認の違い
相続には、次の3つの選択肢があります。
相続の方法 | 内容 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
単純承認 | すべての財産・負債を引き継ぐ | プラスの財産をそのまま相続できる | 借金もすべて相続する |
相続放棄 | 一切の財産・負債を放棄する | 借金を相続しなくて済む | プラスの財産も相続できなくなる |
限定承認 | プラスの財産の範囲内で負債を相続する | 借金が財産を超えない場合、負債を相続しなくて済む | 手続きが複雑で相続人全員の同意が必要 |
ポイント
・単純承認を選択すると、すべての財産・負債を引き継ぐため、慎重に判断する必要がある。
・相続放棄をすると、借金を相続しなくて済むが、財産も一切受け取れない。
・限定承認は、「借金があるが、プラスの財産もある」場合に有効な手段。
相続放棄する場合の手続きと期限(家庭裁判所への申請)
相続放棄とは?
相続放棄とは、亡くなった人の財産や負債を一切引き継がない手続きです。
これにより、借金やローンを負担せずに済みます。
相続放棄の手続きの流れ
1. 相続の開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申請する
2. 必要書類を準備
・被相続人の戸籍謄本
・相続放棄申述書
・自分の戸籍謄本
3. 家庭裁判所で審査が行われる
4. 相続放棄申述受理通知書を受け取る
相続放棄の注意点
・一度放棄すると撤回できない
・相続放棄をした場合、次の順位の相続人が相続することになる(放棄が連鎖する可能性あり)
・相続放棄をしても、故人の財産を勝手に使うと単純承認とみなされる
例:相続放棄が認められないケース
・銀行口座からお金を引き出してしまった
・故人の不動産を勝手に売却した
限定承認を利用するメリットとデメリット
限定承認とは?
限定承認とは、「相続した財産の範囲内で負債を支払う」という相続方法です。
メリット
・借金の額が財産を超えていた場合、超えた分は支払わなくてよい
・プラスの財産がある場合、相続することができる
・相続税の負担を軽減できる可能性がある
デメリット
・相続人全員の同意が必要
・家庭裁判所に申請が必要で手続きが複雑
・相続財産の管理が厳格に求められるため、専門家のサポートが必要になることが多い
限定承認の手続きの流れ
1. 相続の開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申請する
2. 必要書類を準備
・限定承認申述書
・相続人全員の戸籍謄本
・被相続人の戸籍謄本
3. 家庭裁判所で審査が行われる
4. 相続財産の管理人が選定され、負債の清算が行われる
すでに遺産を使ってしまったら?(相続放棄の適用外ケース)
相続放棄を検討している場合でも、故人の財産を勝手に使ってしまうと「単純承認」とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。
相続放棄できなくなるケース
・故人の口座から預金を引き出した
・故人の車や不動産を売却した
・故人の財産で生活費を補った
このような行為をすると、家庭裁判所は「相続を承認したと判断し、相続放棄を認めない」場合があります。
そのため、相続放棄を考えている場合は、一切の財産に手をつけずに手続きを進めることが重要です。
例外として認められるケース
・葬儀費用を故人の預金から支払った
・相続財産の管理のために必要な行為をした(例:家の鍵を保管する)
これらは「やむを得ない範囲」として認められる可能性があるため、家庭裁判所に事前に相談しましょう。
相続税の計算と申告のポイント
相続税は、亡くなった人(被相続人)から財産を相続した際に発生する税金です。
すべての相続に税金がかかるわけではなく、基礎控除額を超えた財産に対して課税されます。
ここでは、相続税の計算方法や、申告・納付の流れ、節税対策について詳しく解説します。
相続税の基礎知識(税率と計算方法)
相続税がかかるケースとかからないケース
相続税は、すべての相続で支払う必要があるわけではありません。
相続税がかかるかどうかは、「基礎控除額」を超えているかどうかで決まります。
計算式 | 基礎控除額 |
---|---|
3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数) | 相続財産がこれを超える場合、相続税が発生 |
例
法定相続人が2人(配偶者と子1人)の場合
3,000万円 + (600万円 × 2人) = 4,200万円
相続財産が4,200万円以下なら、相続税はかからないということになります。
相続税の税率(速算表)
相続財産が基礎控除額を超えた場合、以下の税率が適用されます。
課税対象の相続財産額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
例
相続財産が5,000万円の場合
5,000万円 × 20% - 200万円 = 800万円(相続税額)
基礎控除額の計算方法と特例(3,000万円+600万円×法定相続人)
基礎控除とは?
相続財産のうち、基礎控除額を超えた部分にのみ相続税がかかる仕組みになっています。
基礎控除額は、法定相続人の人数に応じて変動します。
計算式
3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
法定相続人の数 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
基礎控除額以下の財産しかない場合は、相続税の申告は不要です。
申告期限は10ヶ月以内!遅れるとどうなる?
相続税の申告・納付には、期限が厳しく定められています。
相続開始(被相続人が亡くなった日)を知った翌日から10ヶ月以内に申告・納付を行う必要があります。
申告期限を過ぎるとどうなる?
無申告加算税
・税務署から指摘される前に自主的に申告した場合 → 5%の加算税
・税務署から指摘された場合 → 10%~15%の加算税
延滞税
納税が遅れると、遅れた期間に応じて年2.4%~最大14.6%の延滞税が課される
重加算税
故意に財産を隠したり、不正な申告をした場合は、税額の35%~40%が加算される
ポイント
相続税が発生しそうな場合は、早めに税理士に相談し、申告漏れを防ぐことが重要
相続税を抑える方法(小規模宅地の特例、生前贈与)
相続税をできるだけ少なくするために、活用できる特例があります。
小規模宅地等の特例
亡くなった人が住んでいた自宅の土地を相続する場合、評価額が最大80%減額される
条件
・配偶者または同居していた親族が相続する
・10ヶ月以内に申請する
生前贈与(年間110万円まで非課税)
・毎年110万円までの贈与は贈与税がかからない(基礎控除を利用)
・例えば、10年間にわたって毎年110万円を子に贈与すれば、合計1,100万円を非課税で渡せる
生命保険の非課税枠
500万円 × 法定相続人の数まで、相続税がかからない
例:法定相続人が3人の場合 → 500万円 × 3人 = 1,500万円まで非課税
相続税の分割払い(延納・物納)の仕組み
相続税の納付は、原則「現金一括払い」ですが、一括で支払えない場合は分割払いも可能です。
延納(分割払い)
・最大20年間の分割払いが可能
・ただし、分割払いの期間に応じて利息が発生する
物納(不動産などで納付)
・現金で納めるのが困難な場合、不動産や株式などで納税が可能
・ただし、税務署の審査があり、一定の条件を満たす必要がある
ポイント
相続税が発生しそうな場合、事前に納税資金を準備しておくことが重要
不動産の相続登記と名義変更
相続した不動産を売却したり、活用したりするためには「相続登記(名義変更)」が必要です。
2024年4月からは相続登記が義務化され、期限内に手続きをしないと罰則が科される可能性があるため、早めの対応が求められます。
ここでは、相続登記の流れや手続き方法、注意点について詳しく解説します。
2024年4月から義務化!相続登記の期限と罰則
2024年4月1日から、不動産の相続登記が法律で義務化されました。
これにより、相続で取得した不動産は、相続発生を知った日から3年以内に登記を行わないと罰則の対象となる可能性があります。
義務化のポイント
・相続発生を知った日から3年以内に登記する必要がある
・正当な理由なく登記を怠ると、10万円以下の過料(罰則)が科される
・2024年4月以前に発生した相続も対象となるため、過去の未登記不動産も登記が必要
例:2024年5月に父が亡くなり、不動産を相続した場合
→ 2027年5月までに相続登記を完了させる必要がある
相続した不動産の名義変更手続き
相続した不動産の名義変更(相続登記)は、法務局で行います。
登記をしないと、売却や担保設定ができないため、早めの手続きが重要です。
相続登記の手続きの流れ
1. 相続人の確定(戸籍謄本を取得)
2. 遺言書の有無を確認(ある場合は遺言内容に従う)
3. 遺産分割協議の実施(協議が必要な場合のみ)
4. 必要書類の準備
5. 法務局に相続登記を申請
必要書類
・被相続人(亡くなった人)の戸籍謄本(出生から死亡までのもの)
・相続人全員の戸籍謄本
・不動産の固定資産税評価証明書(不動産の価値を示す書類)
・遺産分割協議書(相続人全員の署名・押印が必要)
・相続登記申請書(法務局指定の様式)
売却する場合と共有名義にする場合の違い
相続した不動産を売却するか、共有名義にするかで相続登記の手続きやリスクが異なります。
売却する場合
・相続登記を完了させた後に、不動産を売却できる
・売却代金を相続人で分けることが可能
・維持管理の手間がかからず、相続トラブルを回避できる
ポイント
・売却する場合は、「換価分割」の方法を選択するとスムーズ
・不動産の評価額を知るために、不動産業者の査定を受ける
共有名義にする場合
・相続人全員で不動産を共有することになる
・単独で売却ができず、将来的なトラブルの原因になりやすい
・不動産の管理・修繕費用をどう負担するか明確にする必要がある
ポイント
・共有名義は避けたほうがよい(特に、相続人が複数いる場合)
・どうしても共有名義にする場合は、「管理ルールを決めた合意書」を作成しておく
不動産の評価額はどう決まる?相続税への影響
不動産の評価額は、相続税の計算にも影響するため、正確な評価が必要です。
評価方法には、以下の3つがあります。
評価方法 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|
固定資産税評価額 | 市町村が算定する評価額 | 相続登記の際に使用 |
路線価評価 | 国税庁が定めた価格(路線価×面積) | 相続税の計算に使用 |
実勢価格 | 実際の市場価値(売買価格) | 売却時の価格設定 |
ポイント
・相続税の計算には「路線価評価」が適用される
・売却を検討している場合は、「実勢価格(市場価格)」を確認するのが重要
住み続ける?売却する?選択肢と判断基準
相続した不動産をどうするか、状況に応じた選択が必要です。
住み続ける場合
メリット
・住み慣れた家を継続して利用できる
・固定資産税の負担のみで済む(住宅ローンがない場合)
デメリット
・維持管理や修繕費がかかる
・他の相続人とトラブルになる可能性がある
売却する場合
メリット
・売却代金を現金化でき、相続人で公平に分配できる
・維持費や税金の負担がなくなる
デメリット
・売却手続きが必要で、時間がかかる場合がある
・不動産市場の状況によって価格が変動する
賃貸にする場合
メリット
・家賃収入が得られる
・資産として維持できる
デメリット
・管理の手間がかかる
・借主とのトラブルのリスクがある
ポイント
・不動産の維持管理や税金を考慮し、最適な選択をする
・相続人同士でトラブルを避けるために、早めに方向性を決めることが重要
生前対策で相続トラブルを防ぐ
相続トラブルは、生前に適切な対策を行うことで未然に防ぐことが可能です。
特に、遺産分割でもめやすいケース(不動産が中心の相続、兄弟仲が悪い、相続人が多いなど)では、しっかりとした対策が重要です。
ここでは、相続トラブルを防ぐための具体的な生前対策について解説します。
「争族」にならないための相続対策とは?
相続は、家族間のトラブルが発生しやすいため、「争族(そうぞく)」と揶揄されることもあります。
トラブルの原因として多いものは以下の通りです。
主な相続トラブルの原因 | 対策方法 |
---|---|
遺産の分け方で意見が合わない | 遺言書を作成する |
介護した人としなかった人で不満が出る | 生前贈与や寄与分を考慮する |
不動産の分け方が難しい | 売却・共有・現金化などを検討する |
兄弟姉妹の関係が悪化する | 事前に話し合いをする |
「争族」を防ぐためには、生前に明確な方針を決めておくことが重要です。
遺言書の作成方法と注意点
遺言書を作成しておくことで、相続人同士のトラブルを未然に防ぐことができます。
遺言書の種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
自筆証書遺言 | 自分で書く | 費用がかからない | 検認が必要・紛失リスク |
公正証書遺言 | 公証役場で作成 | 法的に確実・検認不要 | 費用がかかる |
秘密証書遺言 | 内容を秘密にできる | 遺言の存在を確保 | 検認が必要 |
ポイント
・「誰に」「何を」「どのように」分けるかを明確に記載する
・日付と署名・押印を必ず記載する(形式を間違えると無効になる)
・公正証書遺言なら検認不要なので、確実に実行される
・遺留分を考慮した内容にする(不公平な遺言はトラブルの元)
家族信託とは?認知症対策としての活用
「家族信託」とは、財産の管理・運用を家族に任せる制度です。
特に、認知症対策として注目されている方法です。
家族信託の仕組み
役割 | 説明 |
---|---|
委託者 | 財産を預ける人(親など) |
受託者 | 財産を管理・運用する人(子どもなど) |
受益者 | 財産の利益を受け取る人(親など) |
例
・親(委託者)が自宅を信託し、子(受託者)が管理
・親が認知症になっても、子が自宅を売却・賃貸できる
家族信託のメリット
・認知症になっても財産の管理がスムーズ(成年後見制度より自由度が高い)
・相続トラブルを防ぐための対策になる
・遺言書と異なり、生前から財産管理ができる
生前贈与のメリットとデメリット(贈与税との関係)
「生前贈与」は、相続が発生する前に財産を移すことで、相続税対策として有効な手段です。
暦年贈与(年間110万円まで非課税)
・1人あたり毎年110万円までの贈与は非課税(基礎控除の活用)
・長期間かけて財産を分けることで、相続税を軽減できる
相続時精算課税制度
・贈与時に2,500万円まで非課税(累計)
・相続発生時に、相続財産として合算される
生前贈与のメリット | 生前贈与のデメリット |
---|---|
相続税対策になる | 贈与税が発生する可能性がある |
相続人同士の争いを防げる | 不動産贈与の場合は登記変更が必要 |
計画的に財産を分けられる | 一度贈与すると撤回できない |
相続トラブルの回避策(専門家への相談の重要性)
相続対策には法律・税金・不動産の知識が必要なため、専門家のサポートが不可欠です。
相談すべき専門家
専門家 | 役割 |
---|---|
弁護士 | 遺産分割のトラブル解決 |
税理士 | 相続税の計算・申告 |
司法書士 | 相続登記(不動産の名義変更) |
行政書士 | 遺言書の作成サポート |
ポイント
・相続のトラブルは専門家に相談することで早期解決が可能
・複数の専門家と連携し、最適な相続対策を実施する
まとめ
相続は、誰にでも起こる大切な手続きですが、その流れやルールを理解していないと、トラブルや不要な税負担が発生する可能性があります。
本記事では、相続の基本から手続き、トラブル回避策まで詳しく解説しました。
相続手続きや税金対策は、専門的な知識が必要な場面が多く、一人で解決しようとすると大きな負担になります。
相続に関する悩みがある場合は、弁護士・税理士・司法書士などの専門家に相談することで、最適な解決策を見つけることができます。
「相続は準備がすべて!」
早めの対策を行うことで、家族の負担を減らし、スムーズな相続を実現しましょう。
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