遺言書が見つかったらどうする?やってはいけないことと正しい手続きの進め方

2025.6.13

  • 相続

はじめに

故人の死後、荷物を整理していた際に「遺言書」が見つかることは、誰にでも起こり得る出来事です。その瞬間、多くの人が動揺し、「これは開封していいのか」「まず何をすべきなのか」「法律的なトラブルにならないか」といった不安に駆られます。遺言書は、相続手続きにおいて極めて重要な法的文書であり、その扱いを誤ると、相続人同士の争いに発展したり、遺言そのものが無効になるリスクもあるのです。 この記事では、「遺言書が見つかったらどうするか?」という切実な疑問に対して、まず何を確認し、どのような順序で手続きを進めるべきかを、専門的な知識に基づいてわかりやすく解説します。さらに、「やってはいけない行動」や「よくあるトラブル」についても紹介し、読者が自信を持って遺言書と向き合えるようにサポートします。

遺言書を見つけた直後にまず確認すべきこと

遺言書の種類を確認する

遺言書には主に3つの形式があり、それぞれ扱い方が異なります。 自筆証書遺言:被相続人(故人)が全文を手書きで作成し、署名押印したものです。自宅の金庫や引き出しから見つかるのはこの形式が多く、封筒に「遺言書」と書かれている場合もあります。 秘密証書遺言:内容を他人に知られないようにするための形式で、遺言の内容を書いた文書を封印し、公証人に存在を証明してもらうものです。見た目は封印された封筒に入っており、外見からは内容が分かりません。 公正証書遺言:公証役場で公証人が作成したもので、法的効力が強く、最も確実な形式です。オリジナルは公証役場に保管されており、手元にあるのは謄本です。 これらの形式によって、今後の手続きが大きく異なるため、まずは遺言書の外見や文書の構成を確認し、「どの種類に該当するか」を見極めることが最初のステップです。

封がされている遺言書は開封してはいけない

特に注意すべきなのは、「封印された遺言書を勝手に開封してはいけない」という点です。自筆証書遺言や秘密証書遺言が封筒に入れられている場合、そのまま開けてしまいたくなるかもしれませんが、これは大きな誤りです。 封印された遺言書は、家庭裁判所での検認手続き前に開封することが法律で禁じられています。これは民法1004条で明記されており、違反した場合には過料(罰金)を科されるだけでなく、その遺言の証拠力に疑問が生じる可能性があります。 検認とは、家庭裁判所が遺言書の存在と内容を確認し、偽造・変造されていないかをチェックする手続きです。遺言書の形式や内容の有効性を判定するものではありませんが、相続における重要な前提作業となります。 そのため、遺言書を見つけた場合は、すぐに封を開けるのではなく、家庭裁判所に持参して、正式な手続きを踏むことが必要です。この時点で法律専門家に相談しておくと、後のトラブルを未然に防ぐことができます。

自筆証書遺言・秘密証書遺言だった場合の検認手続き

検認が必要なケース/不要なケース

自筆証書遺言と秘密証書遺言は、家庭裁判所による「検認」が必須です。検認は、遺言書の形式的な確認と現状維持を目的とするもので、これを経ずに開封したり、相続手続きを開始したりすると、遺言の信頼性が損なわれる恐れがあります。 一方で、公正証書遺言の場合は、公証人によって作成・保管されているため、改ざんや偽造のリスクが非常に低く、検認の手続きは不要です。よって、見つかった遺言書が公正証書遺言であることが判明した場合は、そのまま相続手続きに進むことが可能です。

検認の申立て方法

検認の申立ては、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。申立人は原則として相続人のうちの一人でかまいません。 申立てに必要な主な書類は以下のとおりです。  ・検認申立書  ・遺言書の原本(未開封の状態で)  ・被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本  ・相続人全員の戸籍謄本  ・相続人全員の住民票などの住所を証明できる書類 これらを準備して提出すると、家庭裁判所から検認期日の通知が届きます。検認期日には、原則として申立人だけでなく、他の相続人にも出席の機会が与えられます。 当日は裁判官が遺言書を開封し、その場で遺言書の内容や状態を確認します。検認の結果は「検認調書」として記録され、相続手続きの際に必要となるため、大切に保管しておく必要があります。

検認をせずに開封・相続手続きを進めた場合のリスク

遺言書の検認を経ずに勝手に開封し、そのまま相続手続きを始めてしまった場合には、以下のようなリスクが生じます。  ・遺言書が改ざんされたと疑われ、相続人間のトラブルに発展する  ・家庭裁判所から過料(5万円以下)の処罰を受ける  ・遺言の法的効力が一部否定される可能性がある  ・銀行や法務局での名義変更が拒否される このような事態は、相続人同士の信頼関係を損ない、最終的には遺産分割協議が難航する要因となります。したがって、遺言書を見つけた際には「勝手に開けず、必ず検認を受ける」ことが基本中の基本となります。法的なトラブルを避けるためにも、検認の流れは丁寧に踏むよう心がけましょう。

検認後に進める相続手続きの流れ

遺言書の内容と財産を確認する

家庭裁判所で検認が完了すると、遺言書の内容に従って実際の相続手続きに入ります。まず行うべきは、遺言書の内容を丁寧に読み解くことです。遺言書には、財産の分配方法や特定の人への遺贈、相続人の指定、遺言執行者の指定などが記載されていることがあります。 遺言書に記載された財産が現存しているかどうか、具体的にどのような種類の財産なのか(例:不動産、預貯金、有価証券、貴金属など)を洗い出す作業が必要です。これにより、相続手続きに必要な資料や手続きを明確にすることができます。 また、遺言書にはすべての財産が網羅されているとは限らず、見落とされた財産が後から見つかることもあるため、抜け漏れのないように調査を行うことが大切です。

遺言執行者の確認

遺言書に「遺言執行者」が指定されているかを確認します。遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことで、法律上の責任と権限が与えられます。 遺言執行者が指定されている場合は、その人が中心となって以下の手続きを進めます:  ・相続財産の調査と確定  ・名義変更や債務整理  ・相続税の申告手続き 一方、遺言執行者が指定されていない場合は、相続人全員の協議によって一人を選任するか、家庭裁判所に選任を申し立てる必要があります。 遺言執行者がいることで、相続手続きが円滑に進みやすくなるだけでなく、相続人間の利害関係が直接ぶつかることを防ぐ効果もあります。

財産目録の作成

相続財産が把握できたら、「財産目録」を作成します。これは、すべての相続財産を一覧化したもので、以下のような情報を含むことが一般的です:  ・不動産の所在地、面積、評価額  ・預貯金の金融機関名、口座番号、残高  ・株式や投資信託の銘柄、保有数、時価  ・借金や未払い金の明細 財産目録は、相続手続きを円滑に進めるために必要不可欠な資料であり、相続税申告にも使用されます。相続人全員が共有できるように、可能であれば専門家(司法書士や税理士)のサポートを受けながら、正確かつ網羅的に作成することが推奨されます。

相続手続きを進める

財産目録が完成したら、具体的な相続手続きに進みます。遺言書の内容に従い、相続財産の名義変更や移転登記、金融機関での口座解約・名義変更などを行います。 たとえば、不動産が遺贈されている場合は、法務局での登記変更が必要です。金融資産の場合は、各金融機関に必要書類を提出し、名義変更や払い戻しを行います。 また、相続税の申告が必要な場合は、相続開始から10か月以内に税務署に申告・納税を行う必要があります。これには、財産評価や遺産分割協議書の写しなどが必要であり、相続税の専門知識が求められる場面も多いため、税理士への相談が有効です。 このように、検認後の相続手続きは多岐にわたり、正確さと慎重さが求められます。少しでも不明点がある場合は、早めに専門家のサポートを受けることが安心かつ確実です。

検認後の相続手続き

公正証書遺言が見つかった場合の進め方

公正証書遺言は、遺言者が公証役場で公証人と証人2名の立ち会いのもとに作成した遺言書であり、その信頼性と法的効力は非常に高いのが特徴です。通常、遺言者本人が亡くなった際、相続人の手元には「遺言公正証書謄本」が残されており、原本は公証役場に保管されています。 この形式の遺言書が見つかった場合、検認の手続きは一切不要です。すでに公証人によって作成時に確認が行われており、原本が保管されていることから、改ざんや偽造のリスクが非常に低いためです。 手続きの流れとしては、以下のようになります。  ・公正証書遺言の写し(謄本)を確認  ・記載されている遺言執行者がいるかを確認  ・財産目録を作成  ・相続財産の名義変更や引き継ぎ手続きを開始 また、公正証書遺言には、遺言執行者の指定がされているケースが多く、遺言執行者が中心となって手続きを進めるため、相続人間での協議が不要な場合もあります。これは、感情的な対立を回避し、スムーズな相続を実現する上で大きな利点です。 ただし、遺言書の内容に不備がある、あるいは相続人の一部が納得していないという状況では、公正証書遺言であっても紛争に発展することがあります。例えば、法定相続人の「遺留分」を侵害している場合、その相続人から遺留分侵害額請求が行われることも考えられます。 そのため、公正証書遺言が見つかったとしても、すべてが自動的に解決するわけではなく、内容の精査と相続人全体への説明責任は依然として重要です。スムーズな進行のためにも、遺言執行者や相続人は必要に応じて弁護士・税理士などの専門家に相談しながら手続きを行うべきでしょう。

よくあるトラブルと注意点

遺言書を見つけた際、または相続手続きを進める中で、思わぬトラブルや行き違いが発生することは珍しくありません。ここでは、特に頻度の高い3つのケースとその対処法について解説します。

遺言書に記載のない財産がある場合

遺言書に記されている財産は、遺言の内容に従って処理されますが、すべての財産が記載されているとは限りません。特に、最近取得した預貯金口座や不動産、デジタル資産(仮想通貨や電子マネーなど)は記載漏れとなっていることが多くあります。 このような財産については、遺言書に基づく相続とは別に、相続人全員による「遺産分割協議」が必要です。分割協議では、記載されていない財産を誰がどのように相続するかを話し合い、合意を文書化した「遺産分割協議書」を作成します。 遺言書があっても、それだけですべての財産の処理が完了するわけではないという点は、相続人全員が理解しておくべき重要なポイントです。

遺言内容に納得できない場合

遺言書の内容に対して、「法的には有効だが、心理的に納得できない」と感じる相続人がいるケースもあります。特に問題となるのは、法定相続人の「遺留分」を侵害している場合です。 遺留分とは、配偶者や子、父母など一定の相続人に認められる「最低限の取り分」であり、これを無視して財産が分配されていると、相続人は「遺留分侵害額請求」を行うことができます。 この請求には期限(相続開始および遺留分侵害を知ってから1年以内)があり、期限を過ぎると請求権が消滅します。したがって、遺言書の内容に疑問や不満がある場合は、早めに専門家に相談し、自分の権利を適切に主張することが重要です。

遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合

すでに相続人間で遺産分割協議を済ませ、各自が相続財産を受け取った後に遺言書が見つかることもあります。この場合、遺言書が法的に有効であれば、遺言の内容に従って再度手続きをやり直す必要がある可能性があります。 ただし、すでに財産が処分されていたり、再分配が現実的でない場合には、「遺言の実現が困難」とされることもあります。このような複雑な状況では、民法や判例に基づく判断が必要となるため、弁護士など専門家の意見を仰ぐべきです。 このリスクを避けるためにも、遺産分割協議を始める前に、「故人の遺言書が存在するかどうか」を十分に確認し、可能であれば公証役場への照会や家族内での情報共有を徹底しておくことが望まれます。

最低限守っておきたいポイント

遺言書が見つかった際に慌てて行動してしまうと、法的な問題や相続人間のトラブルに発展する恐れがあります。以下のような「最低限守るべきルール」を押さえておくことで、不要な混乱を避け、円満かつ適正な相続を実現することができます。

遺言書は勝手に開封しない

封印された遺言書(特に自筆証書遺言や秘密証書遺言)を発見した場合、「中身を早く知りたい」という気持ちが先走ることは少なくありません。しかし、家庭裁判所での検認を経ずに開封する行為は法律で禁じられており、過料の対象となります。 また、開封により物理的に損傷を与えてしまうと、遺言書の有効性そのものが疑われることもあります。慎重を期し、未開封のまま家庭裁判所に提出することが、信頼性を保つための第一歩です。

検認が必要か必ず確認する

遺言書の形式によって検認の必要性は異なります。自筆証書遺言や秘密証書遺言であれば検認が必要、公正証書遺言であれば不要です。形式の判断がつかない場合は、弁護士や司法書士、公証人などの専門家に見せて確認を取りましょう。 検認が必要な遺言書で検認を怠ると、後の相続手続きが法的に無効とされたり、相続人間の信頼関係に亀裂が入ることがあります。

相続手続きを開始する前に遺言書の有無を確認する

遺産分割協議や財産の名義変更などを開始する前に、遺言書の有無を必ず確認することが重要です。相続手続き後に遺言書が見つかった場合、既に行った手続きが無効となる可能性や、再分配を巡る紛争が生じるリスクがあります。 家の中だけでなく、貸金庫、公証役場、遺品整理業者なども確認対象です。特に高齢者の一人暮らしや終活を行っていた方の場合、公正証書遺言を作成している可能性もあります。

遺産分割後に遺言書が出てきた場合の対応

すでに遺産分割が完了していた後に遺言書が出てきた場合、相続人間での再調整が必要になります。内容によっては遺産を返還しなければならない場合もあり、既に財産を処分してしまっていた場合はその代償を巡って争いが起きることもあります。 こうしたケースでは、民法や裁判例に基づいた法的判断が必要となるため、すぐに弁護士に相談するのが最善です。

手続きは「正しい順番」で進める

相続に関わる手続きは、以下のような順序で進めるのが一般的です。  1.死亡届の提出・火葬許可取得  2.遺言書の有無を確認  3.検認(必要な場合)  4.財産調査・相続人調査  5.相続放棄や限定承認の判断(3ヶ月以内)  6.相続税の確認と申告(10ヶ月以内)  7.財産の名義変更や引き継ぎ 順番を間違えると、法的リスクを負うことになるだけでなく、相続人間の対立が深刻化する恐れもあります。時間に余裕をもって、落ち着いて一つひとつの手続きを踏んでいきましょう。

まとめ

遺言書が見つかったときの対応は、その後の相続手続きの方向性を決定づける重要な起点です。故人が遺した遺言には、法的な効力だけでなく、相続人への思いや財産の分配に関する明確な意図が込められています。そうした意志を最大限尊重しつつ、適正な手続きを踏むことが、円滑で円満な相続を実現するカギとなります。 特に重要なのは、「遺言書の種類を見極めること」「検認の要否を確認すること」「相続手続きは順序を守って行うこと」です。これらを怠ると、たとえ遺言書が法的に有効であっても、相続人間での争いやトラブルに発展する可能性があります。 また、遺言書の中には記載されていない財産があったり、遺留分を侵害している場合もあり、その際には追加の協議や請求手続きが必要になることもあります。そうした複雑な事案に直面した場合、自己判断せずに早期に専門家(弁護士・司法書士・税理士など)に相談することが重要です。 特に相続は、財産の分配だけでなく、家族の関係や感情も関わるデリケートな問題です。法律的な正しさと同時に、円満な人間関係の維持も考慮に入れた対応が求められます。 最後に、遺言書が見つかった際の行動指針をまとめます:  ・封がされている遺言書は絶対に開封しない  ・遺言書の種類を見極め、検認が必要か確認する  ・遺言の内容を読み解き、財産の全体像を把握する  ・正しい順序で相続手続きを進める  ・トラブルが生じた場合は早めに専門家に相談する これらのポイントを押さえることで、遺言書を正しく扱い、故人の意志を尊重した相続を行うことができるでしょう。どのような状況であっても、「冷静さ」と「法的知識」を持って対応することが、トラブルを回避し、円滑な手続きへとつながります。 遺言書が見つかったときには、まず深呼吸をして冷静に。この記事がその第一歩となれば幸いです。

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