
はじめに
突然「葬儀の受付をお願いできないか」と頼まれたとき、多くの方が戸惑いと不安を感じます。普段経験することの少ない場面であり、遺族や参列者に失礼があってはいけないという緊張も伴うためです。特に「どのような挨拶をすればよいのか」「香典の受け取り方は正しいのか」「返礼品はどう渡すのか」といった細かな所作に悩む方は少なくありません。
本記事では、葬儀受付を初めて任された方でも安心して役割を果たせるよう、基本的な流れから挨拶の例文、香典や返礼品の扱い方、さらには立ち居振る舞いまでを詳しく解説します。これを読むことで、遺族にも参列者にも安心感を与える対応ができ、葬儀全体が滞りなく進むための一助となるはずです。
受付係の役割とは?
葬儀における受付係は、単に香典を受け取るだけの存在ではありません。参列者が会場に到着して最初に接する相手であるため、葬儀全体の印象を大きく左右する重要な役割を担っています。受付の対応が丁寧で落ち着いたものであれば、参列者は安心して故人への弔意を表すことができます。
遺族側受付と参列者側受付の違い
一般的に葬儀には、遺族側受付と参列者側受付の二つがあります。
- 遺族側受付
遺族の代表として参列者を迎える役割を担います。挨拶はより丁寧に行い、香典の受け取りや芳名帳への記帳案内をしっかりと行います。遺族の代理的な立場であるため、言葉遣いや所作には特に注意が必要です。 - 参列者側受付
親戚や親しい知人など、参列者の代表として立つことがあります。こちらも流れは基本的に同じですが、立場上、遺族ほどかしこまる必要はない場合もあります。ただし、全体の進行を妨げないよう、落ち着いた態度が求められます。
受付の基本的な流れ
受付で行う基本的な対応の流れは以下の通りです。

この一連の流れを理解しておくことで、初めてでも落ち着いて対応することができます。
受付前に準備しておきたいこと
葬儀の受付を円滑に行うためには、事前の準備が欠かせません。準備不足は対応の乱れにつながり、遺族や参列者に不快な印象を与える恐れがあります。ここでは、受付を担当する前に整えておきたいポイントを解説します。
服装のマナー
受付を担当する際は、一般参列者以上に服装に気を配る必要があります。
- 男性:黒のスーツ、白シャツ、黒ネクタイ、黒靴下、黒靴。
- 女性:黒のアンサンブルまたはワンピース、黒ストッキング、黒パンプス。
- 共通:派手な装飾や香水は避ける。髪型も落ち着いた清潔感のあるスタイルを心がける。
- 数珠:持参するのが望ましいが、受付業務中は使わないことが多い。
必要な持ち物
受付業務をスムーズに進めるためには、以下の持ち物を準備しておくと安心です。
- 芳名帳または芳名カード
- 筆記用具(黒または濃紺のペン)
- 記録用紙やメモ帳
- 釣り銭や金銭管理袋(必要に応じて)
- ティッシュやハンカチ
立ち位置や担当分担の確認
受付係は複数人で行うことが多いため、事前に立ち位置や役割分担を決めておきます。例えば、一人が挨拶と記帳案内を担当し、もう一人が香典の受領と返礼品の渡しを担当するなど、流れを明確にしておくことで混乱を防げます。
控室や会場案内との連携
参列者から「控室はどこか」「化粧室はどこか」などの質問を受けることがあります。そのため、会場全体のレイアウトを把握し、案内係と連携をとれる体制を作っておくことが重要です。
不在時の備え
受付が一時的に不在になる場合に備えて、交代要員をあらかじめ決めておきましょう。特に長時間の葬儀では休憩が必要になるため、無理のないシフトを組むことも大切です。
【挨拶マナー】受付での一言・言葉遣い
受付での挨拶は、参列者に安心感を与えると同時に、遺族の感謝の気持ちを伝える大切な所作です。普段のように笑顔で応じる必要はなく、沈痛な面持ちで落ち着いた口調を心がけることが基本となります。
表情と態度
- 笑顔は控えめに:明るすぎる表情は場にそぐわないため、落ち着いた表情を心がけます。
- 深い会釈を意識:挨拶の際には、背筋を伸ばして丁寧にお辞儀をします。
- 声のトーンは控えめに:大きすぎず小さすぎない声で、落ち着いた調子で話すと安心感を与えます。
基本の挨拶例文
- 「本日はご会葬いただき、誠にありがとうございます。」
- 「お忙しい中、ご会葬いただきまして心より御礼申し上げます。」
- 「本日は足元の悪い中、ご会葬くださいましてありがとうございます。」
天候に触れるなど、さりげない気遣いを加えるとさらに丁寧な印象を与えることができます。
避けたい忌み言葉
葬儀では不幸を重ねることを連想させる言葉は避けるべきとされています。代表的な例は以下の通りです。
忌み言葉 | 理由 |
重ね重ね | 不幸が重なることを連想させるため |
とんでもない | 「冥土へ行く」という意味を連想させるため |
四、九 | 「死」「苦」に通じる不吉な数字 |
再び、またまた | 不幸が繰り返されることを連想させるため |
普段何気なく使ってしまう表現が、不適切とされる場合もあるため、事前に確認しておくと安心です。
【香典の受け取り方】袋の扱い・記帳の促し方
香典を受け取る所作は受付業務の中でも特に重要です。香典は遺族にとって弔意の象徴であり、金銭的な支えにもなります。そのため、丁寧かつ失礼のない対応が求められます。
香典の受け取り方
- 両手で受け取る:右手を下、左手を上に添えるようにして受け取ります。
- 深い会釈を添える:「お預かりいたします」と一言添えて受領します。
- 封筒の向きを変えない:参列者が差し出した向きのまま受け取るのが礼儀です。
芳名帳の記帳を促す流れ
- 参列者が到着したら挨拶をする
- 「恐れ入りますが、こちらにご記帳をお願いいたします」と案内
- 記帳後に香典を受け取り、一言添えて会釈
- 返礼品をお渡しする
記帳を忘れそうな参列者がいた場合でも、慌てずに声をかけ、自然に案内することが大切です。
香典の管理方法
香典は受付後、会計係に確実に引き継ぐ必要があります。以下の点に注意しましょう。
- 受け取った香典は一か所にまとめ、受付係だけが扱う
- 芳名帳の記入と香典袋を突き合わせて確認
- 適切なタイミングで会計係へ引き継ぐ
- 万が一の紛失や誤りを避けるため、香典の金額をその場で開封確認することはしない
香典管理は非常にデリケートな部分であり、慎重な対応が求められます。
【返礼品の渡し方】流れと一言例
香典を受け取った後に返礼品をお渡しするのも受付係の大切な役割です。返礼品は遺族からの感謝の気持ちを表すものであり、間違いや粗雑な対応は避けなければなりません。
渡す際の基本的な流れ
- 香典を両手で受け取り、会釈
- 「こちらをお受け取りください」と返礼品を渡す
- 相手が受け取ったのを確認してから手を離す
- 深くお辞儀をして次の参列者へ対応
一言添える例文
- 「ご会葬いただき、誠にありがとうございます。こちらをお受け取りください。」
- 「本日はご多用のところ、ご参列いただきましてありがとうございます。」
注意点
- 品物が複数ある場合は、中身や数量を事前に確認する
- 相手が「辞退します」と言った場合は、無理に渡さず「かしこまりました」と丁寧に対応する
- 万が一、返礼品が不足した場合は責任者にすぐ報告する
返礼品はただの形式的な品物ではなく、遺族からの心遣いの証です。そのことを意識しながら、丁寧に手渡すことが大切です。
所作・表情・立ち居振る舞いで気をつけたいこと
葬儀受付においては、言葉だけでなく所作や表情、立ち居振る舞いも大きな意味を持ちます。些細な動作や態度が参列者の印象を左右し、遺族への敬意を示すことにつながるため、一つひとつを丁寧に行うことが重要です。
表情のポイント
- 沈痛な表情を心がける:笑顔は控え、落ち着いた表情を意識します。
- 真剣さを保つ:気を抜いた様子や雑談は避け、厳粛な雰囲気を崩さないようにする。
姿勢と動作
- 背筋を伸ばす:猫背や腕組みは不遜に見えるため避ける。
- 動作はゆっくりと:急ぎ足や雑な動きは慌ただしい印象を与えるため、落ち着いた所作を意識。
- 立ち位置に注意:参列者が通りやすいように少し下がり、動線を妨げない位置で対応する。
会釈とお辞儀の使い分け
- 軽い会釈:記帳を案内するときや返礼品を渡すとき。
- 深いお辞儀:香典を受け取るときや参列者への感謝を伝えるとき。
日常生活では意識しない細やかな動作でも、葬儀の場では大きな意味を持つため、慎重さを忘れないようにしましょう。
よくあるトラブルとその対処法
葬儀受付では、思いがけないトラブルや想定外の状況が起こることがあります。事前に対応を知っておくことで、慌てずに冷静な対処が可能となります。
芳名帳を記入しないまま通ろうとする人への対応
参列者の中には急いでいたり、記帳の必要性を理解していなかったりする方もいます。その場合は、やわらかい口調で促すことが大切です。
- 「恐れ入りますが、こちらにご記帳をお願いいたします。」
- 「ご芳名を頂戴できますでしょうか。」
強制的な言い方ではなく、協力をお願いする表現を使うと円滑に進みます。
香典辞退の葬儀で香典を差し出された場合
最近は「香典辞退」とする葬儀も増えています。しかし、参列者が用意してきてしまう場合もあります。
- 「お気持ちだけありがたく頂戴いたします。本日はどうぞそのままお持ち帰りくださいませ。」
- 「ご厚意をありがとうございます。ご遺族の意向により香典は辞退しておりますので、ご理解いただければ幸いです。」
遺族の意向を尊重しつつ、参列者の気持ちを否定しない言葉選びが求められます。
参列者に会場場所を尋ねられた時の案内方法
会場内で「控室はどこか」「式場はどちらか」と聞かれることも多くあります。
- 事前に会場の配置を確認:控室、化粧室、喫煙所などの場所を把握しておく。
- 具体的な言葉で案内:「こちらをまっすぐ進んで右手が控室でございます。」
分からない場合は曖昧にせず、「確認してまいります」と対応する方が誠実です。
葬儀を滞りなく進めるために、受付係としてできる配慮
受付は単に参列者を迎えるだけでなく、葬儀全体を円滑に進めるための重要な役割を果たします。小さな気配りや準備が、大きな安心感につながります。
参列者の動線を意識する
受付の位置や立ち方によって参列者の流れがスムーズかどうかが決まります。通路を塞がないよう配慮し、混雑が予想される場合は記帳や返礼品の受け取り場所を分けるなど工夫が必要です。
他の係との連携
- 案内係と合図を決めておき、参列者の流れを調整する。
- 会計係との情報共有を行い、香典の受け渡しを確実にする。
- 弔問客が急増した場合に備え、臨機応変に担当を入れ替える準備をする。
弔電が届いた場合の対応
受付に弔電が届くこともあります。
- 弔電はその場で遺族に渡さず、責任者に速やかに伝える。
- 遺族が会場入りする前に、弔電が読まれるか確認する。
このような細やかな対応が、葬儀を円滑に進める上で欠かせません。
まとめ
葬儀の受付は、単なる事務的な作業ではなく、参列者を迎える最初の窓口として、葬儀全体の印象を左右する重要な役割です。受付での対応が丁寧で落ち着いたものであれば、参列者も安心して故人への弔意を表すことができ、遺族にとっても心強い支えとなります。
受付係として意識したいポイントは以下の通りです。
- 葬儀受付の役割を理解する:遺族側・参列者側それぞれの立場を把握し、参列者を円滑に迎える。
- 事前準備を整える:服装や持ち物、立ち位置、交代要員の確認をしておく。
- 適切な挨拶と言葉遣いを心がける:基本の例文を使い、忌み言葉を避ける。
- 香典・返礼品の扱いを丁寧に行う:両手で受け取り、深く会釈し、感謝の言葉を添える。
- 所作や立ち居振る舞いを意識する:沈痛で落ち着いた表情を保ち、背筋を伸ばし、動作をゆっくりと。
- トラブル時も冷静に対応する:芳名帳未記入、香典辞退、会場案内などに柔軟に対応する。
- 全体を滞りなく進めるための配慮をする:動線や他の係との連携、弔電の取り扱いなどを徹底する。
受付業務に完璧さを求める必要はありません。大切なのは、遺族や参列者に敬意を払い、一つひとつの対応を誠実に行うことです。本記事で紹介したポイントを意識すれば、初めての受付でも安心して役割を果たせるでしょう。
葬儀は故人を偲び、遺族を支える大切な儀式です。受付を任された方は、その一翼を担う存在として、落ち着いて丁寧に役目を果たしていただければと思います。
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