樒(しきみ)とは?仏教儀礼での使い方、榊との違いを徹底解説

樒(しきみ)とは?仏教儀礼での使い方、榊との違いを徹底解説

公開日: 2024.10.23     更新日: 2024.12.3

樒(しきみ)」は仏教や神道の行事に欠かせない植物で、日本の宗教文化に深く根ざしています。しかし、その特徴や役割を正確に理解している人は少ないかもしれません。本記事では、樒の基本情報、榊との違い、宗派ごとの使用法、供える際の注意点、さらには購入方法や費用までを詳しく解説します。樒の知識を深めることで、仏事や神道行事により自信を持って参加できるようになるでしょう。

1. 樒の基本情報とその特徴

樒とは?

樒(しきみ)は、シキミ科に属する常緑樹で、日本や東アジアを原産とする植物です。学名は「イシノキ Illicium anisatum」で、高さ5〜10メートルほどに成長します。葉は革質で光沢があり、一年を通して緑を保つことから「四季に美しい」意味を持つ「樒」という名前がつけられたと言われています。

外見の特徴

・葉は光沢があり楕円形で、縁に鋸歯(ぎざぎざ)がなく滑らかです。

・春になると淡い黄色の花を咲かせますが、あまり目立ちません。

・果実は放射状に広がる星形をしており、美しい見た目ですが、強い毒性があるため注意が必要です。

2. 樒が使用される宗派とその背景

樒は主に仏教儀礼で使用される植物ですが、宗派や地域によってその使用方法や意義は異なります。ここでは宗派ごとの特徴を詳しく見ていきます。

浄土宗・浄土真宗

浄土宗や浄土真宗では、樒が仏壇や墓前への供花として欠かせない存在です。これらの宗派では、樒を供えることで故人や仏への敬意を示すと同時に、場を清らかに保つ目的があります。

樒の象徴的な役割

浄土宗・浄土真宗において、仏壇は阿弥陀仏が住む清浄な浄土の世界を象徴しています。そのため、仏壇の前に供えるものは「清らかであること」が求められます。樒の香りや毒性が場を浄化し、仏壇や墓前を清らかに保つことができるため、特に重用されています。

・香りの役割:樒の香りは邪気を払い、仏や故人が安らかで清らかな環境にいられるようにする象徴的な意味を持ちます。

・供花としての耐久性:樒は他の花と比べて枯れにくいため、長期間供え物として使用でき、法事や長期的な供養の際に非常に適しています。

日蓮宗・日蓮正宗

日蓮宗や日蓮正宗でも、樒は重要な供花として使用されています。これらの宗派では、特に仏壇の清浄さや場を浄化する役割が強調されており、樒が持つ象徴性が信仰の実践に深く結びついています。

樒の象徴的な役割

日蓮宗・日蓮正宗では、「法華経」を唱える場が清らかであることが重要とされています。樒の香りや毒性が邪気を払い、信仰の場を浄化する役割を果たします。特に仏壇に供えられる樒は、信者にとって仏と自分をつなぐ神聖な象徴としての意味合いを持ちます。

・魔除けとしての役割:樒の毒性が、悪しきものを遠ざける力があるとされ、信仰の場を守る役割を担います。

・勤行(ごんぎょう)との関連:日蓮宗・日蓮正宗では、勤行時に樒を供えることで、清浄な環境で仏法を実践する意味が強調されます。

・特別な法要:宗祖日蓮聖人の記念日や、大切な教義に基づく特別な行事において、樒を供えることで敬意を表します。

3.樒が仏教儀式と結びついた理由

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樒が仏教儀式に深く結びつくようになった背景には、香りと毒性という二つの特性が大きく影響しています。この植物がどのように宗教的な場面で重要視されるようになったのか、歴史を追って見ていきましょう。

香りの役割

樒の香りは、その実用性と象徴性の両面で古代から注目されていました。

1.腐敗臭を抑える効果

古代において、遺体の防腐技術は限られていました。土葬が主流だった時代、遺体の腐敗臭を抑えるために、樒の強い香りが利用されました。特に墓地周辺に樒を植えることで、腐敗臭を消すと同時に野犬や害獣が遺体を掘り返すのを防ぐ役割を果たしていたのです。

2.燃やすことで強まる香り

樒はそのままでも香りを放ちますが、燃やすとさらに香りが強くなる特性があります。この特性を活かし、死臭を抑えるためのお香や線香と共に樒が使用されてきました。この実用性が、やがて仏教儀式における象徴的な意味を強める結果となりました。今日でも樒は葬儀や法要での供花として欠かせない存在となっています。

水を清浄に保つ毒性の効果

樒の毒性も、仏教儀式に取り入れられる大きな要因の一つです。

1,水の殺菌作用

樒の実には毒性があり、その成分は殺菌力が高いとされています。このため、仏壇に供える水を清潔に保つ目的で樒が利用されるようになりました。樒をさした水が腐敗しにくいのは、この殺菌力によるものです。

2.仏壇の象徴としての役割

仏教において、浄土の世界は清らかな水で満たされているとされています。仏壇はこの浄土の世界を表現するジオラマのような役割を果たしており、その一部として清浄な水が欠かせません。このため、樒をさした水が仏壇に供えられることで、清浄さを象徴し、仏様への敬意を示すことができるのです。

樒が持つ宗教的な意味

樒は、その実用的な用途に加え、仏教儀式における宗教的な象徴性も持っています。

清浄な場を作る植物

樒の香りには邪気を払う力があるとされ、清らかな場を作るために使用されます。仏教では、儀式の場や供養の空間が清浄であることが重要とされており、樒の香りがその役割を果たしてきました。

毒性による魔除け

樒の実に含まれる毒性は、悪しきものを遠ざける力があると信じられてきました。そのため、樒は単なる供花としてだけでなく、魔除けの象徴としても仏壇や墓前で使用されてきたのです。

樒が仏教儀式で広く使われる理由

樒は、仏壇や墓前での供花として、さらには葬儀や法要でも広く使われています。その理由として、以下の点が挙げられます。

1.実用性と宗教的象徴性の両立

香りによる死臭の抑制や場の清浄化といった実用性に加え、清浄さや魔除けを象徴する宗教的な意味を持つ樒は、仏事において非常に重要な役割を果たします。

2.環境に適応した特性

樒は耐久性が高く、花が枯れにくいため、長期間供花として使うことができます。特に仏壇や墓前で供える際に重宝されています。

4. 樒と榊の違い

仏教儀式で使われる「樒(しきみ)」と神道儀式で使われる「榊(さかき)」は、外見が似ているため混同されることがありますが、実際にはまったく異なる植物です。それぞれの特徴や役割を比較しながら、詳しく解説します。

外見と植物学的な違い

特徴

樒(しきみ)

榊(さかき)

科名

シキミ科

ツバキ科

葉の特徴

光沢があり、縁が滑らかで丈夫。

波打つような形状で、縁に鋸歯があることもある。

毒性

実に毒性あり(強い毒性があるため食用不可)。

無毒

花の特徴

小さな淡黄色の花を咲かせる。

白く目立たない花を咲かせる。

実の特徴

星形の実を付ける。毒性が非常に強い。

実を付けることが少ない。

使用される宗教と用途の違い

特徴

樒(しきみ)

榊(さかき)

使用される宗教

仏教儀式(供花、葬儀、墓参り)

神道儀式(神棚)

象徴する意味

清浄、魔除け

神聖な場を作り、神を迎える象徴。

使われる場面

仏壇、墓前、祭壇

象徴する意味の違い

樒は仏教儀式において、清浄さや魔除けを象徴します。その香りが場を清浄に保ち、毒性による魔除けの効果が宗教的な意味を持っています。一方で、榊は神道において、神を迎える神聖な植物としての役割を担い、神棚や神社の祭壇に供えられます。このように、樒と榊はそれぞれ異なる宗教の教えに基づいて重要視されている植物です。

4. 樒を飾る場所と供え方

葬儀や法事では、樒はさまざまな場所に飾られます。ここでは、主な飾る場所と供える際の注意点を詳しく解説します。

飾る場所

1.祭壇

・遺影の周囲や位牌の横に樒を飾るのが一般的です。

・白や落ち着いた色の花と組み合わせることが多いです。

2.仏壇

・仏壇に供える際は、通常、花立てに1〜2束の樒を飾ります。

・花がすぐに枯れることがないため、長期間供えられるのがメリットです。

3.墓前

・地域によっては墓筒(花筒)に樒を挿す習慣もあります。特に愛媛県では、墓筒に樒を供える独自の風習が根付いており、これは浄土真宗の正式な作法ではなく地域独自のものです。

・季節を問わず使用できるため、年中行事で重宝されます。

樒の伝統的な使用例

葬儀では、樒は単に供花として飾られるだけでなく、さまざまな場面で独自の使われ方をしてきました。

末期の水(まつごのみず)

臨終に立ち会った際に行う「末期の水」の儀式では、故人の口に水を含ませるために筆やガーゼを使用します。一部の地域では、この際に樒の葉が用いられることがあります。

枕飾り

ご遺体を安置する際に設ける仮の祭壇(枕飾り)の花立てに、花の代わりとして樒を挿すことがあります。

納棺

かつては、ご遺体の腐敗臭を和らげるために棺の中に樒を敷き詰める習慣がありました。現在では保存技術が進歩したため、この習慣はほとんど見られなくなっています。

関西地方の独特な樒の使用例

関東出身の方が京都や大阪などの関西地方の葬儀に参列した際、樒の使用方法に驚くことがあります。関西地方では、以下のような独特の風習が見られます。

1.門樒(かどしきみ)と二天樒(にてんしきみ)

関西では、葬儀会場の入口や寺院の門前に「門樒」を飾る習慣があります。門樒は「大樒(おおしきみ)」や「樒塔(しきみとう)」とも呼ばれ、葬儀会場の中に結界を張り、邪気から亡くなった方を守る役割があります。

また、祭壇の左右後ろには「二天樒」が飾られます。これは会場全体を樒で囲むことで、故人の安らかな旅立ちを守る意味が込められています。

2.供花や花輪の代わりとしての門樒

関西地方では、門樒が供花や花輪よりも丁寧なお供え物とされています。参列者から贈られる門樒は葬儀会場の内外に飾られ、故人への敬意を示します。

最近では葬儀の小規模化が進み、門樒を飾るスペースが確保できない場合が増えています。このため、樒の代わりに「紙樒」や「板樒」が主流になりつつあります。これらは参列者の名前を記載した紙や板を掲示する方法で、門樒を飾る意味を簡略化したものです。

3.紙樒・板樒の管理とマナー

紙樒や板樒は葬儀会場で申し込み、その場で決まった金額を支払う仕組みです。多くの場合、町内会や自治会によって管理されています。ただし、紙樒・板樒の習慣がない地域や会場もあるため、参列前に確認することが重要です。

埋葬や供花としての使用

埋葬時の使用

土葬が一般的だった時代には、動物にご遺体が掘り起こされるのを防ぐため、香りや毒性の強い樒が埋葬時に用いられていました。また、墓地周囲に樒を植えることで、場を清める役割を果たしました。

墓前供花としての使用

現在でも、埋葬時に樒を使用した名残や清浄さを象徴する意味から、墓前に樒を供える地域や宗派があります。

仏壇へのお供え

浄土真宗や日蓮正宗などの宗派では、仏壇への供花として樒が使用されることが多く、日常的な礼拝や法事でも重要な役割を果たしています。

5. 樒の入手方法と費用

入手方法

樒を入手する方法は主に以下の3つです。

1. 仏具店や花屋での購入

樒は仏具店や花屋で購入できます。価格は地域や店舗によって異なりますが、一般的には1本あたり500円〜1,500円程度が目安です。大きさや鮮度によっても価格が異なるため、購入時には事前に確認すると良いでしょう。

2. ネット通販での購入

ネット通販でも、樒を購入することができます。オンラインショップでは、1本単位で購入する場合や、複数本セットになった商品が販売されています。価格は送料を含めて1本あたり1,000円〜2,000円程度です。法要やお盆の時期には予約や早めの注文が推奨されます。

3. 自宅での栽培

樒は庭木としても育てられます。自宅で樒を栽培する場合、購入費用はかかりませんが、適切な環境と手入れが必要です。毒性のある果実部分に注意し、子どもやペットがいる家庭では特に管理を徹底しましょう。

保存方法

樒を長持ちさせるためには、適切な保存が必要です。以下の方法で保存すると、新鮮な状態を保つことができます。

1.直射日光を避ける

樒は直射日光や高温多湿に弱いため、涼しい場所で保存してください。

2.水切りをする

枝の切り口を斜めに切り、水を吸いやすくしてから花立てに挿します。

3.水替えをこまめに行う

仏壇や花立てに供えた樒の水は毎日替えることで、長期間美しい状態を保てます。

樒を扱う上での注意点

樒は毒性を持つ植物であり、取り扱いにはいくつかの注意が必要です。以下に、樒を安全かつ適切に扱うためのポイントを挙げます。

1. 毒性に注意する

樒の実や葉には強い毒性が含まれています。誤って口にすると嘔吐やめまい、痙攣を引き起こす恐れがあります。小さなお子様やペットがいる場合は、樒に触れさせないようにしてください。

2. 肌荒れへの対策

樒を手で触ると、敏感肌の方はかぶれや炎症を起こす場合があります。樒を扱う際には手袋を着用するのがおすすめです。

3. 廃棄方法に注意

使用後の樒はそのまま廃棄せず、地域の廃棄物処理ルールに従って処分してください。可能であれば仏事に詳しい人に相談し、適切な処理方法を確認することが望ましいです。

まとめ

樒は仏教儀式や葬儀において重要な役割を果たす植物です。その特徴や使用方法を正しく理解することで、仏事に対する理解が深まり、適切な対応ができるようになります。樒の購入や供え方について事前に把握しておくことで、宗教行事をより円滑に進めることが可能です。

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