
はじめに
筆で書かれた年賀状を受け取り、年始の喜ばしい気持ちと共に、送った相手との関係を再確認する習慣は、多くの家庭にとって一年の始まりに欠かせない行事のひとつでした。その一方で、現代では少子高齢化やライフスタイルの多様化、さらにはデジタルによるコミュニケーション手段の発達に伴い、年賀状を送り続けることへの負担や疑問の声が増えています。
年賀状にまつわる作業には、準備や印刷、手書きメッセージ、宛名整理、投函までが含まれ、気づけば年末の大切な時間を多くその準備に費やすことになります。高齢になればなるほど、用意や投函作業が体力的に負担となり、精神的にも「続けられないかもしれない」「無理をするのは本意ではない」と考える方も出てきます。
ここへきて、「年賀状じまい」、すなわち「年賀状を終えること」の選択肢を選ぶ人が増えてきました。この記事はそのためのガイドとして、年賀状じまいの意味や目的、適切なタイミング、その伝え方、マナーに即した文例など、できる限り深く掘り下げて解説します。
年賀状じまいとは?
年賀状じまいとは、これまで続けてきた年賀状のやり取りを、一定の節目で終了することを意味します。ただ出さなくなるのではなく、相手に感謝の気持ちを伝えつつ「今年で最後にします」と丁寧に知らせるのが特徴です。
大切なのは、突然やめるのではなく、相手への配慮と感謝を込めて、きちんと意思を伝えること。そうすることで、これまでの良好な関係を保ちつつ、無理のない交流スタイルへと移行できます。
年賀状じまいを考える理由
年賀状じまいを検討する背景には、さまざまな変化や価値観の見直しがあります。ここでは、代表的な理由を4つの視点から整理して解説します。
1. 年齢や体力の変化による負担
年を重ねるにつれて、年賀状の準備が身体的に大きな負担となるケースが増えています。
- 視力の低下や手の震えにより、手書きが困難になる
- 長時間の作業が体力的にきつくなる
- 郵便局や印刷店への外出が難しくなる
このような状況では、「無理せずにやめたい」と考えるのはごく自然なことです。
2. 人間関係や交流範囲の変化
退職、引越し、配偶者の死去などをきっかけに、年賀状のやり取りが形式的になっていると感じる人もいます。
- 関係が薄くなった人へのやり取りが惰性になっている
- ほとんど会わない相手との挨拶に意味を感じにくい
- 親しい人とは別の手段で交流する機会が増えた
年賀状じまいは、こうした人間関係を見直すきっかけにもなります。
3. デジタル化による連絡手段の多様化
スマートフォンやSNSの普及により、年賀状に代わるコミュニケーション手段が広がっています。
- LINEやメールで気軽に新年の挨拶ができる
- 写真や動画で近況をシェアする文化が一般化している
- 若い世代との交流には、デジタルの方が自然な場合もある
こうした変化に伴い、紙の年賀状にこだわる必要性が薄れてきています。
4. 義務感やプレッシャーから解放されたい
年賀状が「やらなければならない」作業になってしまい、年末の大きなストレスになっている人も少なくありません。
- 「元日までに出さないと失礼」といったプレッシャー
- 毎年の住所録の更新や宛名印刷の手間
- 一言コメントを何十枚も書く精神的負担
年賀状じまいは、このような義務的な習慣から自分を解放し、心に余裕を持った年末年始を過ごすための選択でもあります。
ただ「面倒だからやめる」のではなく、「自分の生き方や関係性を見つめ直す一歩」として捉えることが大切です。
年賀状じまいのベストなタイミング
年賀状じまいを行う際、「いつ伝えるか」は非常に重要なポイントです。タイミングを誤ると、相手に不快感や誤解を与えてしまう可能性がありますが、適切な時期に丁寧な言葉を添えれば、円満に受け入れてもらいやすくなります。
まず一つの目安となるのが、還暦や古希といった節目の年齢を迎えたときです。60歳や70歳という人生の区切りは、社会的にも自然な転機と見なされるため、「この機会に年賀状を卒業します」と伝えれば、相手も納得しやすくなります。
また、退職や引越しなどの生活の変化があったときも、年賀状をやめるタイミングとしてふさわしいです。たとえば、「退職を機に、長年のご厚情に感謝しつつ、年賀状のご挨拶を控えさせていただきます」と伝えることで、無理なく区切りをつけられます。新住所のお知らせと合わせて年賀状じまいを伝えるのも自然な流れです。
さらに、健康や体力の事情から年賀状の準備が難しくなったときも、無理せずやめる判断が求められます。「近年、体調を崩しがちで年賀状の作成が難しくなってまいりました」などの一文を添えると、相手も理解しやすくなります。
そしてもっとも一般的なのは、その年の最後の年賀状の中で伝える方法です。「本年をもちまして、年始のご挨拶は控えさせていただきます」といった一文を添えることで、改まって通知を送る必要がなく、自然な形で年賀状じまいを知らせることができます。
このように、年賀状じまいは人生の節目や生活の変化に合わせて伝えることで、相手にも無理なく受け入れてもらいやすくなります。適切なタイミングを選び、丁寧な表現で感謝を伝えることが大切です。
まとめると、年賀状じまいに最適なタイミングは以下のような状況が挙げられます。
タイミング | 理由と伝えやすさのポイント |
還暦・古希などの節目 | 人生の区切りとして自然に受け入れられる |
退職・転居 | 社会的な環境変化に伴う整理として妥当 |
体調不良・高齢 | 無理をしない選択として理解されやすい |
年末の年賀状時 | 年始の挨拶の中でスムーズに伝えられる |
これらのタイミングを逃さず、自分の意思を丁寧に伝えることで、相手への配慮と自分自身の負担軽減の両立が可能になります。年賀状じまいは「終わり」ではなく、新たな関係性への一歩と捉えることで、前向きな選択となるのです。
年賀状じまいの伝え方
年賀状じまいをする際には、ただ「やめます」と言うだけではなく、相手に失礼にならないよう、伝え方に十分な配慮が必要です。タイミングや手段、文面の工夫次第で、円満に年賀状を卒業することができます。ここでは、代表的な4つの伝え方を紹介します。
1. 最後の年賀状で伝える
もっとも一般的で自然な方法が、最後に出す年賀状の中で「今回をもって終了します」と伝えるやり方です。
- 毎年の挨拶の流れに自然に組み込める
- 別途連絡をする手間が省ける
- 相手も年賀状を見ながらすぐに理解できる
たとえば「本年をもちまして年始のご挨拶状は控えさせていただきます」といった一文を添えるだけで、丁寧かつスマートに意図を伝えることができます。
2. 寒中見舞いで伝える
年賀状を出さなかった場合、1月7日以降に寒中見舞いで年賀状じまいをお知らせするのも一つの方法です。
- 年賀状を送らなかったことへのお詫びを含められる
- 相手から年賀状が届いた場合の丁寧な返答になる
- 特に礼儀を重視したい関係性におすすめ
例:「本年より年賀状によるご挨拶は控えさせていただくことにいたしました。これまでのご厚情に深く感謝申し上げます。」
3. 手紙や口頭で直接伝える
親しい関係や、年賀状以外でも日常的に連絡を取り合っている相手には、手紙や口頭で直接伝えるのも有効です。
- フォーマルすぎず、自然な形で話せる
- 気持ちを込めて、誤解なく伝えられる
- 相手の反応を見ながら柔軟に説明できる
「今年で年賀状は一区切りにしようと思っているんだ」「無理せずに、別の形でご挨拶できたら」など、普段の会話の中で伝えると気軽で親しみやすくなります。
4. メール・LINE・SNSで伝える
デジタルでの交流が普段から多い相手には、メールやメッセージアプリ、SNSを活用した伝え方もおすすめです。
- コストや時間をかけずに一斉に伝えられる
- デジタル移行をスムーズに進めやすい
- 若い世代やオンライン中心の関係性に適している
メッセージ例:「今後は年賀状の代わりに、LINEやメールでご挨拶させていただけたらと思っています。これまでの温かいやり取りに感謝いたします。」
相手との関係性や自分の生活スタイルに合った伝え方を選ぶことが、年賀状じまいを成功させるポイントです。どの手段でも共通して大切なのは、「これまでのお礼」と「今後の関係性への配慮」をしっかり伝えること。それができれば、失礼にならず、円満な形で年賀状の習慣を卒業することができます。
年賀状じまいの注意点
不用意な言葉や曖昧な表現は、誤解や不快感を招く原因にもなりかねません。ここでは、年賀状じまいを伝える際に押さえておきたい4つの注意点を整理して解説します。
1. 明確に「年賀状をやめる」と伝える
遠回しな表現やあいまいな言い回しは、相手に意図が正しく伝わらないことがあります。
- 「控えさせていただく」「終了いたします」など、はっきりした言葉を使う
- 「しばらくお休みします」といった曖昧な表現は避ける
例えば、「本年をもちまして、年始のご挨拶は失礼させていただきます」と明確に伝えることで、相手にもはっきりと理解してもらえます。
2. 感謝の言葉を必ず添える
一方的に「やめます」とだけ伝えると、相手によっては冷たく感じられることがあります。これまでのやり取りに対する感謝の気持ちを添えることが、円滑な関係継続につながります。
- 「長年のご厚情に心より感謝申し上げます」
- 「これまでの温かいご挨拶、誠にありがとうございました」
感謝の言葉は、文面の最初か最後に入れるのが効果的です。
3. 「関係を断ちたい」という誤解を避ける
年賀状をやめることが、「疎遠にしたい」「距離を置きたい」と受け取られることがあります。そうした誤解を防ぐためには、今後もつながりを大切にしたいという意図をしっかり伝えることが大切です。
- 「年賀状は終了しますが、変わらぬお付き合いをお願いいたします」
- 「これからもお電話やメールなどでご挨拶できれば幸いです」
相手が安心できるような一文を加えることで、前向きな印象を与えることができます。
4. 今後の交流手段を伝えておく
年賀状じまい後も関係を続けたい場合は、代替となる連絡手段を提示すると親切です。
- 「今後はLINEやメールなどでご挨拶させていただきます」
- 「近況はお電話でお話しできれば嬉しいです」
特に高齢の方には、デジタルツールに不慣れな方も多いため、無理のない手段を選ぶ配慮が求められます。
伝える内容だけでなく、どのように伝えるかが、その後の人間関係に大きく影響します。誠意ある表現を心がけることで、年賀状を卒業した後も、温かいつながりを維持することができるのです。
年賀状じまいの文例集
年賀状じまいをスムーズに、かつ失礼なく行うには、伝え方だけでなく、その内容も重要です。多くの人が悩むのが「どんな文面で伝えればよいか」という点でしょう。ここでは、さまざまな状況に応じた年賀状じまいの文例を紹介します。実際の年賀状や寒中見舞い、手紙などに使えるよう、文面を丁寧に整えています。ご自身の状況に合わせてアレンジして活用してください。
一般的な文例
誰に対しても使える、最もオーソドックスで丁寧な文例です。形式を重んじる方や、幅広い関係性において無難で安心できる表現となっています。
「本年をもちまして年始のご挨拶状は失礼させていただきます。これまで長きにわたり温かいご厚情を賜り、心より御礼申し上げます。今後も変わらぬご交誼を賜りますようお願い申し上げます。」
このように感謝の気持ちを明確に述べると同時に、今後の関係維持を願う表現を添えることで、丁寧かつ誠実な印象を与えることができます。
60代・高齢の方がやめる場合
年齢や健康状態の変化により年賀状の準備が難しくなることを理由にした文例です。高齢者自身の立場や気持ちに寄り添った、自然な流れの文面になります。
「誠に勝手ながら、健康上の理由により、来年より年始のご挨拶状を控えさせていただきたく存じます。これまでの温かいお心遣いに感謝申し上げますとともに、今後とも変わらぬお付き合いを賜れましたら幸いに存じます。」
このように理由を明確にしながらも、柔らかな表現で伝えることがポイントです。受け取る側も納得しやすく、気遣いを感じられる内容となります。
40〜50代・時代の変化を理由にする場合
まだ現役世代でありながら、ライフスタイルや価値観の変化によって年賀状をやめる選択をする方に適した文例です。特にデジタル移行を検討している場合に活用できます。
「このたび、時代の流れや生活スタイルの変化に伴い、年賀状での新年のご挨拶を本年限りとさせていただくことにいたしました。今後はメールやLINE等を通じて、変わらずご挨拶できればと存じます。これまでのご厚情に心より御礼申し上げます。」
この表現では、デジタルな手段への移行を前向きに伝えつつ、これまでの関係への感謝も丁寧に盛り込まれています。
退職を機にやめる場合
職場関係の方々に年賀状を送っていた方が、退職を機にやり取りを終えるケースに適した文例です。社会的背景を前面に出し、丁寧な締めくくりを意識します。
「このたび退職をいたしましたのを機に、年始のご挨拶状を本年限りとさせていただくことにいたしました。長年にわたり、格別のご厚情を賜りましたこと、心より御礼申し上げます。今後とも皆様のご健勝とご活躍をお祈り申し上げます。」
社会的な節目である退職を理由にすることで、極めて自然な形で年賀状じまいを伝えることができます。ビジネス関係にも通用する丁寧で礼儀正しい表現です。
これらの文例は、あくまでベースとなるものであり、ご自身の言葉で気持ちを乗せて書くことが何よりも大切です。たとえば、「お孫さんの世話で忙しい」や「趣味の活動に集中したい」など、少し私的な理由を添えることで、より親しみのある挨拶となります。
年賀状じまいは、これまでの関係性を断つ行為ではなく、「感謝を持って節目を迎える」という意味を持ちます。文面を通じてその気持ちを丁寧に表現することが、円満な人間関係の継続につながるのです。
年賀状じまいのメリット
年賀状じまいは「やめること」に焦点が当たりがちですが、実際には多くのポジティブなメリットが得られます。年賀状という形式にこだわらず、自分に合ったスタイルで人付き合いを続けていくことで、心にも生活にもゆとりが生まれます。
1. 年末年始の負担やストレスが軽減される
年賀状の準備には、住所録の整理、デザインの選定、印刷や手書き、投函といった多くの工程が含まれます。これらを年末の忙しい時期に行うのは、想像以上に体力と気力を必要とします。
- 年末の家事や仕事と重なることで時間に追われる
- 手作業による疲労や焦りから精神的に余裕がなくなる
- 毎年の「出さなきゃ」というプレッシャーが積み重なる
年賀状じまいをすることで、年末年始をより穏やかに、心身にゆとりを持って迎えることができるようになります。
2. 印刷・郵送にかかるコストの削減
年賀状の作成には、意外と多くの費用がかかります。
- インク代や用紙代、郵送料などの実費
- 外部の印刷業者を使う場合の依頼費用
- オプション(宛名印刷、写真加工など)による追加費用
特に出す枚数が多い人にとっては、毎年数千円〜1万円近い出費となることもあります。年賀状じまいによって、これらのコストを見直し、別の用途に回すことが可能になります。
3. 人間関係の整理につながる
年賀状だけが唯一の接点となっている相手とのやり取りに、疑問を感じている人も少なくありません。
- 長年会っていない人と惰性で続けている関係
- 仕事関係で形式的に送り合っているだけの相手
- 気を遣いすぎて年賀状が負担になっている
年賀状じまいは、そうした関係を見直し、「本当に大切にしたい相手」との交流に絞る良い機会になります。人間関係をシンプルにすることで、気持ちも軽くなります。
4. より柔軟な交流スタイルへ移行できる
年賀状じまいをすることで、紙の年賀状という一つの形式にとらわれず、より自由なコミュニケーションスタイルへと移行できます。
- LINEやメール、SNSなどでの挨拶に切り替える
- 誕生日や季節の変わり目などに個別にメッセージを送る
- 電話や対面など、より直接的な交流を大切にする
こうしたスタイルのほうが、自分のタイミングで気軽に連絡を取れたり、相手の近況に合わせた柔軟な対応ができたりと、より「実のある交流」につながります。
このように、年賀状じまいは単なる削減や断捨離ではなく、暮らしや人間関係を見直すチャンスでもあります。「やめる」ことが、「ラクになる」「心地よくなる」ことにつながるならば、それは前向きな選択です。習慣に縛られず、自分の価値観に合った形で人とのつながりを保っていくことこそが、これからの時代にふさわしいスタイルなのです。
まとめ
年賀状じまいは、単なる「年賀状を出さなくなる」という行為にとどまりません。それは、長年続けてきた人間関係や挨拶の習慣に対して、一つの区切りをつけるという意味を持っています。高齢や健康状態の変化、ライフスタイルの変化、そしてデジタルコミュニケーションの普及といった背景を踏まえ、多くの人が年賀状じまいを「前向きな終わり」として選ぶようになっています。
年賀状じまいを円滑に進めるためには、タイミングの選定、丁寧な伝え方、そして適切な文例の活用が欠かせません。特に感謝の気持ちを忘れずに伝えること、今後の交流方法に触れて安心感を与えることが、相手との関係を良好に保つ鍵となります。「もう付き合いたくない」という意思表示ではなく、「今後も変わらぬ関係を望んでいるが、年賀状という形だけを卒業する」というスタンスを明確にすることが大切です。
また、年賀状じまいには多くのメリットがあります。年末の作業負担が減り、経済的なコストも抑えられるほか、無理のない形で人間関係を整理することができます。そして、形式に縛られないより自然な交流へと移行することで、人とのつながりがより深く、柔軟なものになる可能性も広がります。
完全にやめなくても、自分のペースで送る相手を選ぶ、デジタルに切り替えるといった方法もあり、年賀状との付き合い方は多様化しています。それぞれのライフスタイルや価値観に合った形を選ぶことが、何よりも大切です。
年賀状じまいは、決して寂しいことではありません。むしろ、それは人生の一つの転機として、過去への感謝と未来への希望を込めた前向きな選択です。年賀状という習慣の終わりを、新しい人間関係の始まりとして受け入れ、自分らしいスタイルでつながりを築いていきましょう。丁寧に思いを伝えるそのプロセスこそが、あなたと相手の関係をより深く、温かいものにしてくれるはずです。
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