
目次
御霊供膳とは?
仏教における食の意味
精進料理の特徴
御霊供膳の器と仏具
お膳の献立と避けたい食材
基本は五菜一汁
1. ご飯(主食)
2. 汁物
3. 主菜(メイン)
4. 副菜(1品目)
5. 副菜(2品目)
6. 香の物(漬物など)
避けるべき食材:五葷とは?
季節感を取り入れた工夫
実際の一例:精進料理のお膳(春)
宗派ごとに異なるお膳の配置と作法
仏具構成と基本配置
真言宗・天台宗・日蓮宗
配置の例(仏壇に正対して)
特徴
曹洞宗・臨済宗
配置の例(仏壇に正対して)
特徴
浄土真宗
特徴
宗派が不明な場合の無難な供え方
無難な配置(仏壇に正対して)
お膳を下げるタイミングと注意点
御霊供膳はいつ下げるのが正解?
一般的なタイミング
「おさがり」は食べても大丈夫?
食べてよい理由
おさがりを食べない場合の処理方法
処理の仕方
お膳を毎日供える場合は?
法事や命日など特別な日の取り扱い
まとめ
仏壇に手を合わせるとき、心を込めてお供えされたお膳が置かれている光景は、私たちが故人やご先祖様を思い出し、感謝の気持ちを表す大切なひとときです。そのお膳は「御霊供膳(ごりょうくぜん)」と呼ばれ、仏壇にお供えする精進料理で構成される仏事の一環です。しかし、実際に御霊供膳を準備しようとすると、「どんな料理をお供えすればいいの?」「配置に決まりはあるの?」「宗派によって違うの?」と、さまざまな疑問が浮かびます。
御霊供膳には、仏教の教えに基づいた意味や決まりごとがあり、それぞれの宗派や地域によって細かな作法が異なる場合もあります。また、「供えた後のお膳はどうするのか」「毎日供える必要があるのか」といった日常的な実践についても、知っておきたいポイントが数多くあります。
本記事では、御霊供膳の基本的な意味から、具体的な献立例、宗派ごとの並べ方、避けるべき食材、さらには下げるタイミングや「おさがり」の扱い方まで、実用的かつ網羅的に解説します。仏壇に向き合うときの所作をより深く理解するための手引きとして、ぜひ最後までご一読ください。
御霊供膳とは?
御霊供膳(ごりょうくぜん)とは、仏壇に供える精進料理のお膳のことで、仏教の供養の一環として行われます。「御霊(ごりょう)」とは亡くなった方の魂、「供膳(くぜん)」は食事を供えることを意味し、直訳すれば「亡き人の魂に捧げる食事」となります。主に命日や月命日、彼岸、お盆、法要の際に用意されることが多いですが、信仰心の篤い家庭では毎日お供えする場合もあります。
仏教における食の意味
仏教では「食」は単なる栄養補給ではなく、命あるものに対する感謝と、執着心を断つための修行の一環とされています。御霊供膳には、故人や先祖がこの世で生きていた頃と同じように「日々の食事を楽しみ、家族の一員であった」ことを偲び、現世にいる家族がその気持ちを引き継ぐ意味合いが込められています。
また、供養とは「喜ばせること」とも言われます。亡き人を想い、心を込めて用意した食事を供えることで、仏様や故人の魂が安らかに過ごせると考えられています。
精進料理の特徴
御霊供膳は、一般的に動物性食材を使用しない「精進料理」で構成されます。肉や魚、卵などを使わず、旬の野菜、豆腐、海藻類、穀類などを中心に調理されます。また、仏教では「五葷(ごくん)」と呼ばれる強い香りや刺激を持つ野菜(にんにく、ねぎ、らっきょう、ニラ、玉ねぎ)も避けるべきとされています。これは、これらの食材が心を乱し、煩悩を引き起こすと考えられているためです。
御霊供膳の器と仏具
御霊供膳を用意する際は、専用の仏具セットが使用されることが一般的です。一般的な構成としては、ご飯、汁物、おかず3種を盛り付ける五つの小さな器が一つの御膳の上に並べられます。これらは仏具店やオンラインで購入できる専用の「御霊供膳セット」に含まれていることが多く、宗派や地域によって微妙に違いがあります。
供える時間は朝が一般的ですが、昼や夕方でも問題はありません。重要なのは「故人や仏様への感謝を込めて、心を込めて供える」ことです。
お膳の献立と避けたい食材
御霊供膳を供える際、最も悩むのが「何をお供えするか」という献立の内容です。宗派や地域、家庭によって多少の差はありますが、基本は「精進料理」を原則とし、動物性の食品を使わないメニューで構成されます。ここでは、一般的な御霊供膳の献立と、それぞれの料理の意味や注意点について詳しく解説します。
基本は五菜一汁
伝統的な御霊供膳の形式は「五菜一汁」。これは「ご飯」「汁物」「主菜」「副菜2品」「香の物」から構成される一汁三菜の拡張版で、バランスの取れた食事を仏様や故人に捧げる意味合いがあります。
以下はよくある構成例です

1. ご飯(主食)
お膳の中心となるのはご飯です。供養では、白米が最も一般的ですが、季節や体調に合わせて玄米やお粥にする家庭もあります。
- 例①:白米(炊き立て)
→ 香りが立ち、最も供養にふさわしい定番。山盛りにせず、器に自然に盛るのがマナー。 - 例②:筍ご飯(春)
→ 季節を感じる供養として好まれる。筍と薄揚げを炊き込むことで、春らしい香りと食感を演出。
2. 汁物
汁物には、動物性の出汁を使わない昆布だしや干し椎茸だしのものが基本です。味付けはあくまで優しく、過度に濃くならないよう注意します。
- 例①:豆腐とわかめの味噌汁
→ 精進料理の定番。出汁は昆布のみで、味噌も白味噌や合わせ味噌でまろやかに。 - 例②:かぼちゃのすまし汁
→ 秋の季節感が出る。薄口醤油と昆布出汁で仕上げ、かぼちゃの自然な甘みが際立つ。
3. 主菜(メイン)
主菜には、高野豆腐やがんもどきなど、肉の代わりとなるたんぱく源が用いられます。調理方法は煮物が中心で、素材の旨味を活かした味付けが好まれます。
- 例①:高野豆腐の含め煮
→ 戻した高野豆腐を、椎茸・人参・昆布と一緒に甘辛く煮る。見た目も味も供養にぴったり。 - 例②:がんもどきの炊き合わせ
→ 里芋やこんにゃく、いんげんなどと煮合わせて、栄養バランスと彩りを両立。
4. 副菜(1品目)
副菜には、緑黄色野菜の和え物がよく使われます。色味が加わるだけでなく、ビタミンや食物繊維が豊富で、体にも優しい献立になります。
- 例①:ほうれん草のごま和え
→ 茹でたほうれん草をすりごまと醤油で和える。手軽だが風味が豊か。 - 例②:小松菜と油揚げのおひたし
→ 出汁をしっかり吸わせたおひたしで、しっとりした食感が仏膳に調和する。
5. 副菜(2品目)
2品目の副菜は、乾物系の煮物や常備菜的な料理が選ばれやすいです。家庭によっては「作り置き可能なもの」を加えることで、日々の供養が負担になりません。
- 例①:ひじきの煮物
→ にんじん、油揚げ、大豆を加えて彩りよく。少量でも存在感のある一品。 - 例②:切り干し大根の煮物
→ 干し大根の甘味と食感が特徴。薄味に仕上げて他の料理と調和をとる。
6. 香の物(漬物など)
香の物は、全体の味を引き締める役割を担います。刺激の少ないシンプルな漬物を選ぶのが基本で、保存が効くのも魅力です。
- 例①:梅干し(種あり)
→ 浄化と防腐の象徴として供養に好まれる。器の中央に一粒添えるだけで十分。 - 例②:たくあん(薄切り)
→ 鮮やかな黄色がアクセントに。塩分が強すぎないものを選ぶと◎。
避けるべき食材:五葷とは?
仏教で避けるべきとされる「五葷(ごくん)」とは、以下の5つの強い香りや辛味を持つ野菜です
- にんにく
- ねぎ
- 玉ねぎ
- ニラ
- らっきょう
これらは、仏道修行において「心を乱し、瞑想や精神集中を妨げる」とされるため、御霊供膳には不適切です。
また、肉類、魚介類、卵、乳製品などの動物性食品も基本的に使用しません。
季節感を取り入れた工夫
旬の食材を使うことも、御霊供膳の重要なポイントです。たとえば
- 春:筍、菜の花、ふき
- 夏:なす、オクラ、とうもろこし
- 秋:里芋、かぼちゃ、きのこ
- 冬:大根、白菜、ゆず
これにより「今の季節も一緒に感じてほしい」という気持ちが伝わります。また、料理の盛り付けにも配慮し、色どり豊かで美しく整えることで、故人に対する敬意を表すことができます。
実際の一例:精進料理のお膳(春)
料理名 | 材料 | 特徴 |
筍ご飯 | 筍、油揚げ、白米 | 春の香りと旬の味覚を表現 |
味噌汁 | 豆腐、わかめ、昆布だし | 優しい味わいで心を落ち着ける |
高野豆腐の煮物 | 高野豆腐、人参、椎茸 | メインとなるたんぱく質源 |
小松菜の胡麻和え | 小松菜、すりごま | 栄養バランスと彩りを意識 |
梅干し | 梅、塩 | 香の物として酸味と保存性 |
このように、食材の組み合わせと調理法に気を配りながら、栄養や見た目にも配慮することが、仏様や故人への思いやりとなります。
宗派ごとに異なるお膳の配置と作法
御霊供膳の並べ方や向きは、宗派ごとに異なる作法が定められており、それぞれの教義や供養観が反映されています。以下では代表的な宗派ごとの基本的な供え方を紹介します。
仏具構成と基本配置
御霊供膳は、主に以下の5つの器と箸で構成されます
器の名称 | 内容 | 備考 |
親椀(しんわん) | ご飯 | 蓋付きの主食用椀 |
汁椀(つゆわん) | 汁物 | 昆布出汁が基本 |
平椀(ひらわん) | 煮物 | 平たい器 |
壺椀(つぼわん) | 和え物など | 深さがある小鉢 |
高杯(たかつき) | 香の物(漬物など) | 高台のある器 |
箸 | 仏前に向けて横置き | 器の手前に置くのが基本 |
真言宗・天台宗・日蓮宗
これらの宗派では、御霊供膳の並べ方に共通の形式があります。
配置の例(仏壇に正対して)
- 左奥:平椀(煮物)
- 右奥:壺椀(和え物)
- 中央奥:高杯(香の物)
- 中央手前:親椀(ご飯)
- 右手前:汁椀(汁物)
特徴
- 食器の蓋は外して供える。
- 箸は仏前に向け、器の手前に横向きで置く。
- 故人への供養とともに仏様への感謝を表す作法。
曹洞宗・臨済宗
禅宗に分類される曹洞宗・臨済宗では、並べ方が異なります。
配置の例(仏壇に正対して)
- 左奥:平椀(煮物)
- 中央奥:壺椀(和え物)
- 右奥:高杯(香の物)
- 中央手前:親椀(ご飯)
- 左手前:汁椀(汁物)
特徴
- 実用性と調和を重視する禅の思想が表れている。
- 整然とした配置と、心を込めた供え方が重視される。
浄土真宗
浄土真宗では、「亡くなった方は阿弥陀如来によりすぐに極楽浄土へ導かれる」とされるため、故人に対しての食事の供え(御霊供膳)は基本的に行いません。代わりに「仏飯器(ぶっぱんき)」というご飯を盛る小さな器を毎朝供えるのが一般的です。
特徴
- 仏様に感謝の気持ちを表すための供物という位置づけ。
- 仏飯器は中央に1つ供えるのが通例。
- 精進料理としての御霊供膳を供える習慣は基本的にありません。
宗派が不明な場合の無難な供え方
宗派が不明な場合は、以下のように配置するのが一般的で、どの宗派でも失礼に当たることは少ないとされています。
無難な配置(仏壇に正対して)
- 左奥:平椀(煮物)
- 右奥:壺椀(和え物)
- 中央奥:高杯(香の物)
- 中央手前:親椀(ご飯)
- 右手前:汁椀(汁物)
- 箸は仏前に向けて手前に横向きで配置
お膳を下げるタイミングと注意点
御霊供膳を仏壇に供えたあと、「どのタイミングで下げるべきか?」「お膳を下げた後、それを食べてもよいのか?」という疑問を持つ方は少なくありません。供養においては形式だけでなく、気持ちや所作も大切です。このセクションでは、御霊供膳を下げる適切なタイミングと「おさがり」の扱いについて、宗教的な観点と現代的な実践を交えて詳しく解説します。
御霊供膳はいつ下げるのが正解?
御霊供膳を下げる明確な時間の決まりはありませんが、一般的には次のようなタイミングが推奨されています
一般的なタイミング
- 朝のお勤め・お参りが終わった後
- 食事の時間(朝・昼・夕)を過ぎた頃
- 半日ほど経った後(目安:2~6時間)
宗派によっても若干異なりますが、「供えてから時間を置きすぎない」ことが重要です。特に夏場などは食材が傷むこともあり、衛生面にも配慮する必要があります。
また、長時間放置すると「粗末にしている」と解釈される可能性があるため、時間を見て丁寧に下げるように心がけましょう。
「おさがり」は食べても大丈夫?
仏壇にお供えした食事を下げた後のものは「おさがり」と呼ばれます。これは仏様やご先祖様に一度供えたあと、家族がいただくものです。実はこの「おさがり」をいただくこと自体が「供養の一環」とされており、決して無駄にしてはいけないという考え方が根付いています。
食べてよい理由
- 仏様と食事を共にする感覚を持つ
- 供養の心を実践する手段
- 「いただく」こと自体が感謝の行為
ただし、食べる際は「仏様に先に召し上がっていただいたもの」であるという意識を持ち、丁寧に扱うことが大切です。
おさがりを食べない場合の処理方法
現代では食中毒や保存の問題、調理法の都合などで「食べきれない」「食べるのが難しい」というケースも少なくありません。そのような場合でも、以下のように慎重に処理することが望まれます。
処理の仕方
- 「南無阿弥陀仏」や「いただきます」と唱えてから片付ける
- 新聞紙などで丁寧に包み、生ゴミとして処理
- 生ゴミの場合でも、他のゴミと混ぜず別にするなどの配慮をする
地域によっては、地面に埋める風習や、川に流す(現代では環境的に不適)などの民間習慣もありますが、現在では家庭のゴミとして出すのが現実的です。ただし、供えた食事を無駄にしないよう「少量を丁寧に」という姿勢が大切です。
お膳を毎日供える場合は?
仏壇への供物として御霊供膳を毎日供える家庭もありますが、その場合でも必ず「供えたら下げる」ことが基本です。供えっぱなしにしてカビが生える、虫がわくといった状態は不敬に当たります。以下の点に気をつけましょう
- 供える量は少量で十分(特に高齢家庭や一人暮らしの場合)
- 下げる時間を日課として決めておくとよい(例:朝9時に供え、昼12時に下げる)
- 残った食事は感謝を込めて「いただきます」
法事や命日など特別な日の取り扱い
法事や命日など特別な日には、普段より豪華なお膳を用意することがあります。このような場合でも、原則として「お参りが終わったら下げる」のが基本です。特に来客がある場合は、供えたあとで下げ、おさがりとして客人と分かち合うことも一つの供養の形とされています。
まとめ
御霊供膳は、仏壇に供える精進料理の膳であり、故人や仏様への感謝と敬意を形にする大切な供養の一つです。精進料理とは、動物性食品や五葷(にんにく・ねぎ・玉ねぎ・ニラ・らっきょう)を使わず、旬の野菜や豆製品、海藻などを用いた料理で構成されます。献立は一般的に「五菜一汁」が基本で、ご飯、汁物、煮物、和え物、香の物などを丁寧に用意します。
宗派によって御霊供膳の配置方法には違いがあります。真言宗や日蓮宗などでは、仏壇に正対してご飯を手前中央に置き、左右に副菜を配する形式が一般的です。禅宗系の曹洞宗などでは壺椀と高杯の位置が異なり、より実用的な配置がされます。一方、浄土真宗では基本的に御霊供膳を供える習慣はなく、ご飯のみを仏飯器で供えるのが一般的です。
供えた御霊供膳は、お参りが終わった後や数時間経過した後に下げるのがマナーとされており、下げたあとの食事(おさがり)は、故人と心を通わせる行為として家族でいただくことが推奨されます。御霊供膳は、ただの儀礼ではなく、家族が故人に寄り添い、日々の暮らしの中で供養の心を育む行為なのです。宗派の作法を理解し、感謝の気持ちを込めて丁寧に供えることで、心豊かな供養の時間が生まれます。
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