遺贈とは?包括遺贈と特定遺贈の違いと選び方を詳しく解説

2025.6.4

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人生の終末期や、財産の行く末について考えるタイミングは、人それぞれ異なります。しかし近年、自分の意思で財産の一部またはすべてを譲る「遺贈(いぞう)」という制度が注目を集めています。遺贈は、自分が築き上げた財産を、家族だけでなく、友人や支援したい団体、公益法人などにも託すことができる柔軟な制度です。 一方で、遺贈は「相続」と混同されがちですが、法的な手続きや成立条件、関係者の対応など、重要な違いがあります。また、遺贈にまつわるトラブルや課税関係、放棄の方法など、事前に知っておくべき注意点も数多く存在します。 この記事では、まず「遺贈とは何か?」という基本から出発し、「相続との違い」や「遺贈のメリットとデメリット」、「遺贈の種類」、さらには「遺贈にかかる税金」、「遺贈を放棄する方法」、「遺贈の注意点」まで、包括的に解説していきます。将来、自分の財産をどのように誰に託すかを検討している方にとって、また遺贈を受ける立場になる可能性がある方にとっても、有益な情報となるはずです。 遺贈を正しく理解することは、円満な財産承継を実現する第一歩です。ではまず、「遺贈とは?」という基本的な定義から詳しく見ていきましょう。

遺贈とは?

「遺贈(いぞう)」とは、亡くなった人(被相続人)が遺言によって、自分の財産を特定の個人や団体に譲り渡す行為を指します。遺贈の成立には、必ず遺言書の存在が必要です。遺言がなければ、たとえ本人が生前に望んでいたとしても法的には遺贈とは認められません。 遺贈は、相続のように法定相続人に限らず、誰に対しても行うことができます。たとえば、友人、介護をしてくれた知人、ボランティア団体、母校、NPO法人など、被相続人が望む相手に財産を譲ることが可能です。これにより、法定相続の枠組みではカバーできない、本人の真の意志を反映する柔軟な財産承継が実現できます。 遺贈の対象となる財産は非常に幅広く、現金・預貯金・不動産・有価証券・貴金属・著作権など、原則としてすべての「プラスの財産」が含まれます。ただし、借金などの「マイナスの財産」は遺贈の対象とはなりません。 また、遺贈の内容を実現するためには、「遺言執行者」の存在も重要です。遺言執行者は、遺言書の内容に従って財産を配分し、遺贈を確実に行う責任を担います。法的な拘束力を持つ遺言を実行するためには、法律的・実務的なサポートが不可欠であり、司法書士や弁護士といった専門家への相談が強く推奨されます。

「遺贈」と「相続」の違い

遺贈と相続の違い

「遺贈」と「相続」はどちらも財産の承継方法ですが、制度的な性質、対象者、手続きなど、重要な違いがあります。

比較項目相続遺贈
成立条件法律により自動的に発生遺言書による意思表示が必要
対象者法定相続人に限られる誰でも指定可能(第三者・団体など)
財産の範囲プラスとマイナスの両方プラスの財産のみ
放棄手続き家庭裁判所への申述が必要受遺者の意思表示だけで可
紛争のリスク遺産分割協議が必要な場合あり遺留分の侵害による訴訟リスクあり

つまり、相続は法律に基づく自動的な財産承継であり、遺贈は被相続人の「自由意思」による個別の指定行為です。両者の違いを理解しないまま遺言を書くと、法定相続人との間で遺留分を巡る争いが起こる可能性があるため、実務上の注意が必要です。

遺贈のメリット・デメリット

遺贈は非常に自由度の高い制度ですが、その反面、使い方を誤るとトラブルを引き起こす原因にもなり得ます。ここでは、遺贈の主なメリットとデメリットを整理します。 メリット 1.自由な財産配分が可能 法定相続人以外の人や団体に、自由に財産を譲渡できる点は遺贈の最大の特徴です。たとえば、生前に世話になった友人や介護施設、社会貢献を目指すNPO法人などへの寄付が可能です。 2.相続トラブルの回避 遺言書を通じて財産分配の意向を明確にしておけば、相続人間の争いや遺産分割協議を回避することができます。 3.社会的意義を持つ使い方ができる 公益財団や教育機関への遺贈により、故人の名前を冠した奨学金制度の設立や、社会的に意義のある事業への貢献も可能になります。 4.遺産全体の有効活用 法定相続分に縛られず、財産の性質や価値に応じた分配ができるため、不動産や事業資産などの活用効率も高まります。 デメリット 1.遺留分の侵害リスク 遺言による自由な分配とはいえ、配偶者や子などの相続人には「遺留分」が法律で保障されています。この遺留分を侵害した場合、遺留分侵害額請求の対象となり、トラブルに発展する可能性があります。 2.税務上の不利な扱い 法定相続人以外の受遺者が遺贈を受ける場合、相続税の基礎控除や税率が不利になることがあります。特に第三者に遺贈する場合は注意が必要です。 3.遺贈放棄による手続きの複雑化 受遺者が遺贈を拒否する場合、放棄の意思表示が必要となります。包括遺贈の場合は相続放棄と同様の手続きが必要になることもあります。 4.実行に専門的な知識が求められる 有効な遺言書の作成、遺言執行者の選任、税務処理など、多くの専門知識と手続きが関係するため、司法書士や税理士など専門家の協力が不可欠です。

遺贈の種類

遺贈には主に2つの種類があります。それが「包括遺贈」と「特定遺贈」です。この2つは遺言の書き方や、受遺者(遺贈を受ける人)の権利・義務に大きな違いをもたらします。遺贈を適切に実行し、トラブルを防ぐためには、それぞれの特徴を正しく理解しておく必要があります。

包括遺贈とは?

包括遺贈とは、被相続人が自分の財産全体、またはその一定の割合(例:3分の1)を遺贈することを言います。例えば、「私の全財産の半分をAに遺贈する」といった表現がこれにあたります。包括遺贈を受けた受遺者は、原則として相続人とほぼ同等の立場になります。 包括遺贈の特徴:  ・遺産の特定が不要で、割合のみ指定されている  ・遺贈された財産の内容が広範で多岐にわたる  ・財産だけでなく、債務(借金等)も同時に承継する  ・遺産分割協議に参加する権利がある  ・相続放棄に準じた放棄手続きが必要(家庭裁判所への申述) 包括遺贈が向いている人:  ・遺産全体を大まかな割合で一括して譲りたいと考える人  ・相続人以外の人を、実質的に相続人と同じ立場に据えたい人  ・財産や負債の詳細把握が難しい場合でも、自分の意思を示したい人  ・遺産管理の負担や責任も含めて、信頼できる人に任せたい人 このように、包括遺贈は相続に非常に近い性格を持つため、専門家の助言を受けつつ手続きを進めることが望まれます。

特定遺贈とは?

特定遺贈は、被相続人が明確に特定した財産を受遺者に遺贈するものです。例えば、「東京都〇〇区の不動産をBに遺贈する」や「〇〇銀行の預金100万円をCに遺贈する」といった内容がこれに該当します。 特定遺贈の特徴:  ・財産が明確に指定されている  ・指定された財産だけが遺贈の対象となる  ・債務の承継義務は原則なし  ・放棄の際も簡易で、意思表示だけで足りる  ・相続人とは異なる立場となり、分割協議には基本的に関与しない 特定遺贈が向いている人:  ・特別な思い入れのある財産を、明確に譲りたいと考える人  ・法定相続人以外の人や団体に、特定の支援・恩返しをしたい人  ・財産と負債を切り離して遺贈したい人  ・複数の財産を、それぞれ異なる人に明示的に分けて渡したい人 特定遺贈は、意思の実現が非常に明確である反面、対象財産の所在や評価に不備があると、執行に困難が生じる可能性があります。たとえば、遺贈する予定の不動産が売却されていたり、預金口座が凍結されていた場合などは、遺贈の効力が失われる場合もあります。

両者の違いと選び方

項目包括遺贈特定遺贈
対象の記載割合で指定特定の財産を指定
債務の承継ありなし(原則)
相続人との関係相続人に準じる独立した立場
放棄の手続き家庭裁判所で申述意思表示のみ
遺言執行者の必要性高い財産次第では不要な場合も

包括遺贈は、全体的な資産バランスを見て財産を譲りたい場合に適しており、特定遺贈は、明確な対象にピンポイントで遺贈を行いたい場合に向いています。どちらを選ぶにしても、遺言の内容を誤解なく伝えるためには、具体的かつ法的に有効な文言で遺言書を作成することが重要です。

遺贈でかかる税金とは?

遺贈を受けると、多くの場合において税金が発生します。特に相続税が中心となりますが、受遺者の属性や遺贈の内容によって課税の方法や負担額が大きく異なります。ここでは、遺贈にかかる主な税金とその注意点について詳しく解説します。

相続税の基本

遺贈によって財産を取得した場合、その財産は「相続税」の課税対象となります。相続税は、財産を受け取った人(受遺者)が支払うことになります。なお、相続税には「基礎控除」があり、一定額までは非課税です。 基礎控除の計算式: 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数) 遺贈を受けた人が法定相続人に該当しない場合、この基礎控除の人数にはカウントされません。また、相続人でない受遺者には、法定相続人に認められている税額控除や優遇措置(例:生命保険の非課税枠など)も適用されません。

法定相続人とそれ以外で異なる税率

相続税は、取得した財産額に応じて課税されますが、税率は10%〜55%と累進課税です。受遺者が法定相続人であるか否かで、「税率区分」が異なるのも重要なポイントです。  ・法定相続人:親子・配偶者など → 一般税率(控除や非課税枠が多い)  ・法定相続人以外:第三者、友人、法人など → 税率区分が2割加算されるケースあり たとえば、親族でない人に1,000万円相当の遺贈をした場合、相続税が通常より20%重くなる可能性があります。これを「相続税の2割加算」といいます。

遺贈を受けた法人は「法人税」の対象

遺贈の相手が個人ではなく法人(例:学校法人、NPO法人、宗教法人など)の場合、相続税ではなく「法人税」が課される可能性があります。法人への遺贈が営利活動とみなされれば、通常の収益と同様に法人税の課税対象になります。 ただし、公益法人など特定の条件を満たす場合は、非課税措置が認められることもあります。たとえば、特定公益増進法人への遺贈であれば、法人税非課税とされるケースがあります。

不動産遺贈と登録免許税・不動産取得税

遺贈の対象に不動産が含まれている場合、相続税以外にも以下のような税金が発生します:    ・登録免許税:不動産登記の際に必要。相続人であれば「固定資産税評価額×0.4%」ですが、受遺者(相続人以外)の場合は「固定資産税評価額×2.0%」と5倍の負担になります。  ・不動産取得税:通常は課されませんが、特定の要件下では例外あり。 このため、不動産の遺贈は相続人にするのか第三者にするのかで、税負担が大きく変わってきます。

遺贈寄付と税務上の優遇

近年注目されている「遺贈寄付」では、一定の公益法人や認定NPO法人、学校法人などへの遺贈によって、課税が免除されることがあります。具体的には以下のような団体が対象です:  ・特定公益増進法人  ・認定NPO法人  ・国・地方公共団体  ・学校法人・医療法人(要件あり) これらの団体に遺贈を行うことで、相続税や法人税が非課税または軽減される可能性があり、社会貢献と節税を両立する方法として注目されています。 なお、遺贈によって社会貢献を実現する手段として注目されている「遺贈寄付」については、制度の仕組みや対象団体、税制優遇の具体例まで詳しく解説した別記事をご用意しています。ぜひ、こちらをご覧ください。

https://www.syukatsu-souzoku.jp/columns/783

遺贈の放棄を正しく行うための方法と注意点

遺贈は基本的に、受遺者の意思に基づいて財産を受け取る制度ですが、必ずしも受け取りが義務づけられているわけではありません。受遺者は遺贈を拒否=放棄することができます。この章では、遺贈を放棄する場合の手続きや注意点について解説します。

遺贈の放棄は「自由」

遺贈は、贈与と同様に「単独行為による利益の承継」です。そのため、受遺者は財産を受け取るかどうかを自らの判断で決めることができます。受け取る義務はなく、希望しなければ自由に放棄できます。

放棄の意思表示のタイミングと方法

遺贈の放棄は、相続と異なり、原則として家庭裁判所での手続きは不要です。以下のような方法で放棄の意思を示すことができます:  ・相続人や遺言執行者への口頭または書面での明確な意思表示  ・遺贈された財産の使用や処分を行わないこと(黙示の放棄) ただし、放棄の意思表示が不明確だったり、財産を一部でも使用した場合は「受け取った」とみなされる可能性があるため注意が必要です。書面で明確に拒否することが望ましいです。

包括遺贈の放棄は相続放棄と同じ扱い

包括遺贈の場合は注意が必要です。これは法的に「相続人と同じ扱い」とされるため、相続と同様に家庭裁判所に「相続放棄の申述」を行う必要があります。この申述は、遺贈を受けたことを知ってから3か月以内に行わなければならず、期限を過ぎると放棄が認められなくなる恐れがあります。

放棄の理由として多いもの

遺贈放棄には様々な理由があります。代表的なものは以下のとおりです:  ・遺贈によって人間関係がこじれる恐れがある  ・遺贈される財産に価値がない、または管理が困難  ・相続税や不動産取得に伴う費用負担が重い  ・遺贈を受けることで公的扶助(生活保護など)に影響が出る これらの事情を考慮し、あらかじめ受遺者と意思疎通をしておくことで、不要なトラブルを未然に防ぐことができます。

放棄に関する実務的な注意点

遺贈放棄は撤回できない:いったん放棄の意思を表明した後に翻意しても、原則として無効です。 ・税務上の影響:遺贈放棄によって相続人に財産が戻る場合、課税関係の見直しが必要になることもあります。 ・放棄しても申告が必要なケースあり:たとえば遺贈を放棄しても相続税の申告義務が発生するケースもあるため、税理士等に相談が必要です。

遺留分を侵害しないために知るべき実務と対策

遺贈は被相続人の意思を反映して財産を分配する柔軟な手段ですが、自由度が高いがゆえに、法定相続人の「遺留分」を侵害してしまうリスクがあります。遺留分の侵害は、法的なトラブルに直結するため、遺贈を行う際には十分な注意が必要です。

遺留分とは?

遺留分とは、法律によって保護されている相続人の最低限の取り分を指します。配偶者・子ども・直系尊属(親など)には、それぞれ一定の割合で遺産を受け取る権利が保障されています。 たとえば、被相続人に配偶者と子どもがいる場合、それぞれに法定相続分の1/2が遺留分として認められています。この遺留分を侵害するような遺贈(例:全財産を第三者に譲るなど)を行うと、法定相続人から法的措置を取られる可能性があります。

侵害した場合はどうなる?

遺留分を侵害された相続人は、「遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)」という法的手段を通じて、取り分を取り戻すことができます。請求が認められれば、受遺者は遺贈された財産の一部または全部を返還・支払いする義務を負うことになります。 この請求権には時効があります。侵害を知った日から1年以内、または被相続人の死亡から10年以内に行使しなければなりません。

実務上の注意点

遺贈を行う際に遺留分を侵害しないためには、以下のような対策が有効です: ・事前に相続人の人数と遺留分割合を把握しておく  特に複数の相続人がいる場合、遺贈の影響がどこに及ぶかをシミュレーションする必要があります。  ・専門家による遺言書のチェックを受ける  司法書士や弁護士などの専門家に相談することで、遺留分への配慮が行き届いた遺言書の作成が可能になります。  ・相続人とのコミュニケーションを大切にする  あらかじめ遺贈の意図を伝えて理解を得ておくことで、後のトラブルを未然に防ぐことができます。 ・必要に応じて遺留分放棄の手続きを検討する  相続開始前に家庭裁判所を通じて「遺留分の放棄」を行えば、遺贈によって自由に財産を分配することができます(ただし、裁判所の許可が必要)。 遺贈は非常に強力な制度ですが、遺留分の存在を無視すると、かえってその意思が無効化される恐れがあります。遺贈と遺留分のバランスを丁寧に設計することが、トラブルを防ぎ、意志を最大限尊重するための鍵となります。

まとめ

遺贈は、自らの財産を望む相手に譲り渡すことができる、非常に柔軟で意義深い制度です。相続人に限らず、友人や介護者、慈善団体、法人など、誰に対しても財産を遺すことが可能であり、被相続人の人生観や価値観を反映させた財産の承継が実現できます。その一方で、遺贈には相応の法的理解と慎重な準備が求められます。 本記事では、遺贈の基本的な定義から、相続との違い、遺贈の種類とその向き不向き、税金の取り扱い、放棄の方法、そして遺留分に対する配慮まで、遺贈にまつわる重要なポイントを一通り整理しました。これらの知識は、遺贈を通じて自分の意思を正確に伝えるために必要不可欠なものです。 遺贈を計画する際には、まずどのような財産を、誰に、どのように遺したいのかを明確にすることが出発点となります。そして、それが法定相続人の権利を侵害しないかを確認し、法的に有効な遺言書を用意しなければなりません。さらに、税務上の負担や実務的な執行の可否についても事前に見通しを立てておくことが、遺贈を成功に導く鍵となります。 遺贈は一度行えば後戻りのできない行為です。だからこそ、専門家と相談しながら計画的に進めることが大切です。残された人々に感謝や想いを伝えるための手段として、遺贈を正しく活用することで、より良い財産承継と心の継承が実現するはずです。

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