孫への生前贈与で損しないために:制度・節税・注意点を徹底解説

孫への生前贈与で損しないために:制度・節税・注意点を徹底解説

公開日: 2024.10.8

「可愛い孫の将来に、少しでも役立つ資産を残してあげたい」と考える祖父母は多く、近年では「孫への生前贈与」が注目を集めています。特に相続税の対策として、子どもではなく孫に贈与を行うケースが増えつつあります。しかし、生前贈与には制度上の制限や税制上のリスクも存在し、安易に進めると贈与税の負担や将来の相続トラブルにつながることもあります。

また、贈与税や非課税制度に関する法律は頻繁に改正されており、最新の情報に基づいた適切な判断が求められます。たとえば、2024年の税制改正により「教育資金の一括贈与制度」など一部制度に見直しの動きがあり、生前贈与を行うタイミングや方法によっては、想定していた効果が得られないこともあるのです。

本記事では、「孫への贈与に贈与税はかかるか?」という基本的な疑問から始まり、「生前贈与のメリット」「具体的なやり方」「節税の方法」「注意点」まで、幅広く丁寧に解説します。贈与を検討する上で欠かせないポイントを網羅し、読者が安心して贈与を進められるよう、実務的な観点も交えながらご紹介していきます。

孫への贈与に贈与税はかかるのか?

孫に財産を贈る際、多くの人がまず気になるのは「贈与税がかかるのかどうか」です。結論から言えば、贈与税は原則としてかかります。しかし、特定の非課税制度をうまく活用すれば、税負担を軽減することも可能です。ここではまず、贈与税の基本的な仕組みと、孫への贈与に特有の注意点について解説します。

贈与税の基本

日本の贈与税は、個人が1年間(1月1日〜12月31日)に他人から受け取った財産の合計額が110万円を超える場合、その超過部分に対して課税されます。これを「暦年課税」と呼びます。

たとえば、祖父母が孫に年間150万円を贈与した場合、110万円を超えた40万円に対して贈与税が課税される仕組みです。この110万円の基礎控除は、誰に贈与しても共通ですが、孫への贈与には独特のリスクもあるため注意が必要です。

孫への贈与に特有の税務的リスク

孫は法定相続人ではないため、通常、相続開始前3年以内に行われた贈与は「相続財産への加算対象外」とされます。これは一見有利なように思えますが、税務署にとっては「飛び越し贈与(世代跳ばし)」として注目されやすいポイントでもあります。

仮に、祖父母が相続税対策の一環として、相続人である子を飛ばして孫に財産を集中して贈与すると、「実質的に相続税を回避している」と判断され、税務調査の対象になることもあります。そのため、贈与の意図や経緯、贈与契約書などの書類をしっかりと整備しておくことが重要です。

非課税制度の存在と概要

なお、教育資金や住宅取得、結婚・子育て費用など、一定の目的に対しては非課税で贈与ができる制度も用意されています。これらの制度を活用すれば、贈与税を支払うことなく高額な財産移転が可能になりますが、制度の適用条件や期限、申告方法には注意が必要です。

これらの非課税制度の活用法と節税戦略については、後の章「孫への生前贈与で節税する方法」で詳しく解説します。

孫に贈与することで得られる3つのメリット

生前贈与は、単に財産を渡す行為にとどまらず、資産をより効果的に活用し、次世代へスムーズに承継するための重要な手段です。特に「孫への生前贈与」には、子どもへの贈与にはない独自のメリットがいくつも存在します。ここでは、その代表的な3つの利点を詳しく掘り下げていきます。

1. 相続税の節税効果が大きい

最大のメリットは、相続税の節税効果です。相続が発生した際に課される相続税は、財産が大きいほど税率も高くなります。しかし、生前に資産を贈与しておけば、相続財産の総額を減らすことができるため、結果的に相続税の課税対象を圧縮できます。

特に孫への贈与は、「相続開始前3年以内の贈与加算」の対象外となる点で、子どもへの贈与よりも節税効果が高くなる場合があります。これは、孫が原則として相続人に該当しないためであり、世代を飛び越した資産移転を実現できる点が大きな利点です。

2. 孫の人生設計に貢献できる

孫への生前贈与は、単なる節税対策ではなく、孫の人生の転機に寄り添える支援手段でもあります。たとえば以下のような場面で贈与が大きな力となります。

・高等教育や留学の学費支援

・就職後の転居費用や通勤用の車購入費

・結婚や出産にかかる費用

・マイホーム購入時の頭金支援

こうした形で資金援助を行えば、孫の経済的自立を後押しし、家庭全体の安定にも寄与します。単なる金銭の移転ではなく、「未来への投資」としての意味を持つのが、孫への贈与の大きな魅力です。

3. 家族間の絆が強まる

もう一つ見逃せないメリットは、家族関係の良好化です。生前贈与には、「相続で揉める前に自分の意思で資産を分配できる」という効果があります。特に孫への贈与は、感謝や信頼を直接伝える手段にもなり、贈与された側もその期待に応えようという意識が生まれやすいのです。

また、教育資金の贈与などは、贈与者である祖父母と受贈者である孫とのコミュニケーションのきっかけにもなり、世代を超えたつながりを築く手段としても有効です。

孫への生前贈与を正しく行うための方法

孫に生前贈与をするには、単にお金を渡すだけでは不十分です。法的にも税務的にも適切な手続きが必要で、方法を誤ると贈与が無効になったり、意図せぬ税金が発生する可能性があります。この章では、実際に孫へ生前贈与を行う際の基本的な流れと、代表的な贈与手法について詳しく解説します。

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ステップ1:贈与の目的と金額を明確にする

まずは、何のために贈与するのか(目的)と、いくら贈与するのか(金額)を明確にしましょう。目的によっては非課税制度の活用が可能になるため、これを踏まえた計画が重要です。たとえば、教育資金や住宅購入資金など、特定目的の贈与であれば大きな節税効果が期待できます。

ステップ2:贈与契約書の作成

贈与は基本的に「契約行為」であるため、贈与契約書を必ず作成することが重要です。特に現金贈与では、証拠が残りにくいため、後の税務調査でも有効な証拠として、書面の契約書が必要不可欠です。贈与契約書には以下の内容を明記しましょう

・贈与者と受贈者の氏名・住所

・贈与する金額または財産の内容

・贈与の目的(教育資金、住宅取得費用など)

・贈与日と契約日

・両者の署名・押印

ステップ3:実際の贈与(財産の移転)

契約書を交わしたうえで、実際に財産を移転することが必要です。これには、現金であれば銀行振込、不動産であれば名義変更と登記、株式であれば名義変更手続きなど、資産の種類に応じた手続きを行います。

なお、孫が未成年の場合、預金口座の開設が制限されることがあるため、贈与の受取方法についても事前確認が重要です。

ステップ4:必要に応じて贈与税の申告を行う

贈与金額が年間110万円を超える場合、翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告が必要です。非課税制度を活用する場合でも、金融機関などを通じた申請が求められます。

贈与税の計算方法

贈与税は、以下のように計算されます。

贈与税額 =(贈与額 − 基礎控除110万円)× 税率 − 控除額

税率と控除額は、受贈者の「課税価格」に応じて段階的に設定されています。

課税価格(贈与額−110万円)

一般贈与の税率

控除額

200万円以下

10%

0円

300万円以下

15%

10万円

400万円以下

20%

25万円

600万円以下

30%

65万円

1,000万円以下

40%

125万円

1,500万円以下

45%

175万円

3,000万円以下

50%

250万円

3,000万円超

55%

400万円

※孫など、直系尊属以外からの贈与は「一般贈与」が適用されます。

こうした税率を把握しておくことで、贈与計画の立案や節税対策がしやすくなります。

孫への贈与で節税するための6つのポイント

孫への生前贈与は、単に財産を渡すだけでなく、制度を活用することで節税効果を最大化できます。ここでは、贈与税の負担を軽減するための具体的な方法や戦略を紹介します。これらを適切に活用することで、孫への資産移転をスムーズかつ効果的に実現できます。

1. 暦年課税制度を長期的に活用する

基本的な節税法として、暦年課税の基礎控除(年間110万円)を毎年活用する方法があります。毎年110万円以下の金額を贈与すれば、贈与税の申告も不要で税金もかかりません。贈与契約書の作成や銀行振込などの形式を整えることで、税務上の信頼性も高まります。

ただし、「定期贈与(連年贈与)」とみなされると、非課税が認められないケースもあるため、毎年個別の契約書を交わすなどの注意が必要です。

2. 教育資金の一括贈与非課税制度

この制度では、祖父母が孫に対して最大1,500万円(学校以外の教育費は500万円まで)を非課税で一括贈与できます。

・対象:授業料、入学金、通学費、塾代、留学費用など

・条件:金融機関にて専用口座の開設、支出内容の証明が必要

・終了期限:2026年3月31日まで

ただし、贈与者が死亡した時点で使い切れていない残高は相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。

3. 結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度

こちらは、孫に対して最大1,000万円(結婚関連費用は300万円まで)を非課税で贈与できる制度です。

・対象:結婚式、引越し、出産、育児、不妊治療、保育料など

・条件:信託契約の締結、支出ごとに領収書の提出が必要

・終了期限:2027年3月31日まで

現在は時限措置として制度が継続されており、将来的な改正・終了の可能性に注意が必要です。

4. 住宅取得資金の非課税措置

孫が住宅を購入する際に、資金援助を行う場合に利用できる制度です。以下の非課税枠が適用されます:

・最大1,000万円(省エネ等住宅)、500万円(一般住宅)

・贈与の翌年3月15日までに住宅取得・入居が必要

・対象:住宅の新築、取得、増改築等に要する資金

・終了期限:2026年12月31日まで

制度の適用には住宅性能の証明や登記事項証明書など、提出書類が多数あるため、事前準備が肝心です。

5. 相続時精算課税制度の活用

60歳以上の祖父母が18歳以上の孫に対して贈与する場合、最大2,500万円まで贈与税がかからない「相続時精算課税制度」も利用できます。

・利用には税務署への届け出が必要

・一度選択すると、以後の贈与がすべてこの制度の対象になる

・将来相続時に、贈与された財産の価値が相続財産に合算され、相続税が再計算される

短期的な贈与税回避だけでなく、中長期の相続戦略の一環として活用する価値がある制度です。

6. 家族単位での分散贈与戦略

贈与者が祖父母の両名である場合、それぞれから贈与することで非課税枠を倍にすることが可能です。孫一人に対し、祖父と祖母がそれぞれ110万円ずつ贈与すれば、220万円まで非課税になります。

また、贈与を分散することで、各人の課税所得を圧縮し、相続税の課税対象も効果的に減らせる利点があります。

孫に贈与する際の注意点

孫への生前贈与は、多くのメリットや節税効果をもたらす一方で、制度を正しく理解していなければ、思わぬリスクやトラブルを招くことがあります。この章では、実務上よくある失敗例や注意すべき法的・税務的ポイントについて、具体的に解説します。

1. 贈与契約の形式不備による否認リスク

贈与契約が成立したと認められるには、贈与者と受贈者の合意と実際の履行が必要です。特に現金の手渡しや口頭での約束だけでは、税務上「贈与の事実」として認定されない恐れがあります。

・書面による贈与契約書の作成

・銀行口座への振込記録(履歴の保存)

・贈与を受けた側の自由な使用確認(未成年者の場合は特に注意)

これらを備えておかないと、贈与自体が否認され、贈与税が追徴課税されるリスクがあります。

2. 形式的な連年贈与は危険

暦年課税制度を利用して毎年同額の贈与を継続する場合、あらかじめ総額と年数が決まっている贈与だと「連年贈与」と判断され、一括で贈与されたとみなされることがあります。

その結果、非課税枠(110万円)を超える部分にまとめて贈与税が課されてしまうことに。防ぐためには、

・毎年内容の異なる贈与契約書を作成する

・贈与額を年度ごとに変える

・贈与の都度、実際に贈与行為が行われた証拠を残す

などの工夫が必要です。

3. 相続人間の公平性に配慮する必要あり

孫への贈与が他の相続人とのバランスを欠く場合、相続発生時にトラブルの火種になる可能性があります。特に、生前贈与が高額だった場合、他の家族から「特別受益」として遺留分侵害額請求がされることもあります。

公平性を保つためには

・他の相続人にも贈与する

・家族に事前に伝え合意を得る

・遺言書で贈与の意図を明示しておく

などの対策が推奨されます。

4. 非課税制度の期限と改正リスク

教育資金や結婚・子育て資金、住宅取得資金の非課税制度は、いずれも時限措置であり、期限や制度内容が変更される可能性があります。

・教育資金贈与:2026年3月末まで

・結婚・子育て資金:2027年3月末まで

・住宅取得資金:2026年12月末まで

また、政府の税制改正により、制度の廃止や適用条件の厳格化が予告なく行われることもあるため、常に最新の制度情報を確認することが重要です。

5. 公的支援・社会保険制度への影響

贈与によって孫の名義に財産が移ると、公的支援(奨学金、住民税非課税、生活保護等)の支給要件に影響する場合があります。たとえば、孫の預貯金が増えることで、支援対象外とされることもあります。

このような制度との整合性も考慮しながら、贈与のタイミングや金額を設計する必要があります。

まとめ

孫への生前贈与は、節税効果だけでなく、次世代への想いを形にする大切な手段です。年間110万円以内の暦年贈与や、教育・住宅・結婚・子育てといった目的別の非課税制度を上手に活用することで、贈与税の負担を軽減しながら、大切な資産を有効に移転できます。

一方で、贈与契約書の作成、税務署への申告、家族間の調整など、実務的な配慮が求められる場面も多く存在します。形式的な贈与や制度の誤用は、かえって税負担や相続トラブルを引き起こすリスクもあるため、制度の正確な理解と慎重な設計が不可欠です。

贈与税や相続税制度は、社会状況の変化に応じて見直される可能性が高いため、最新情報を定期的に確認し、必要に応じて税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。

孫の未来を支える贈与を、正しく・賢く実行することで、家族全体の安心と信頼を築いていきましょう。

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