
相続財産調査とは?生前・死後で異なる手順と相続方針の考え方をわかりやすく解説
公開日: 2024.7.16 更新日: 2025.5.13
目次
はじめに|相続財産調査は「相続の出発点」
生前と死後で異なる財産調査の進め方
生前の調査|親の協力を得て行う「準備型」
死後の調査|手がかりをもとに行う「探索型」
相続財産調査の目的と重要性
なぜ相続財産の調査が必要なのか
いつまでに調査すべきか
相続財産に含まれるものとは?
【実践編】自分で相続財産を調査する方法
預貯金の調査
借金・負債の調査
不動産の調査
有価証券・その他の資産
その他の資産
財産調査を漏れなく進めるためのポイント
自分でするか、専門家に依頼するかの判断基準
専門家の選び方と依頼先
税理士:相続税申告、節税対策、二次相続まで考慮した提案
弁護士:相続人間の争いや調停・訴訟への備え
司法書士:不動産の名義変更、相続登記の手続き
行政書士:財産目録作成、公正証書の整備
相続の全体像を考える:誰に・どう相続させるか
法定相続分に基づく分割の基本
本人の希望や家族の話し合いを反映させる
遺言書の作成や遺産分割協議書の整備も検討
まとめ|相続財産調査が“最初の一歩”
はじめに|相続財産調査は「相続の出発点」
相続が発生すると、遺された家族にとって多くの手続きや判断が必要になります。その第一歩となるのが「相続財産調査」です。これは、亡くなった方(被相続人)の持っていたすべての財産と負債を正確に洗い出す作業を意味します。
なぜこれが重要かというと、相続の全体像を正しく把握することで初めて、「誰にどの財産を渡すか」といった分割の方針や、「相続税の申告は必要か」「そもそも相続すべきか、放棄すべきか」といった重大な判断が可能になるからです。
この記事では、相続財産調査の基本的な考え方から、生前・死後における具体的な調査の進め方、さらに調査後の相続方針の考え方まで、順を追って詳しく解説していきます。
生前と死後で異なる財産調査の進め方
生前の調査|親の協力を得て行う「準備型」
相続財産調査は、被相続人が生存しているうちから始めることが理想です。これにより、本人から直接情報を得ることができ、財産の全容が明確になりやすくなります。たとえば、どこの銀行に預金があるのか、株式や保険の契約内容はどうなっているのかといった情報は、本人が口頭で教えてくれるだけで確認がスムーズになります。
また、書類を一緒に整理しながら、「エンディングノート」や「財産目録」を作成することもできます。これらは家族にとって大きな手がかりとなり、相続時の混乱を最小限に抑える手段となります。
死後の調査|手がかりをもとに行う「探索型」
一方で、被相続人がすでに亡くなっている場合は、調査は「探索型」となります。通帳、キャッシュカード、保険証券、スマートフォンやパソコンのデータ、郵送されてくる通知書類など、物的な証拠を基に情報を集めていく必要があります。
この場合、被相続人から直接確認することができないため、財産の全容を把握するのに時間がかかる上、見落としのリスクも高まります。また、相続放棄の熟慮期間や相続税の申告期限など、手続きに時間的制約があるため、迅速な対応が求められます。
相続財産調査の目的と重要性
なぜ相続財産の調査が必要なのか
相続財産の調査は、単なる作業ではありません。これを正確に行うことで、以下のような複数の判断や手続きを支える基盤となります。
₋・遺産分割協議の資料になる₋:誰が何を相続するかを話し合うためには、そもそも「何があるか」が明らかになっていなければ話が始まりません。
₋・相続放棄の判断材料になる₋:借金が多く、プラスの財産を上回っている場合には、相続を放棄することが賢明です。借金の存在を見逃していた場合、相続人が思わぬ負担を背負うリスクがあります。
₋・相続税の申告と納税の判断₋:相続税の申告が必要かどうか、またその金額を正しく算出するためには、財産の総額を正確に把握することが不可欠です。
いつまでに調査すべきか
相続財産調査には期限があります。以下に、代表的な期限を示します。
₋・遺産分割協議のため₋:法的には期限はありませんが、早ければ早いほど後々のトラブルを防ぎやすく、目安としては1〜2ヶ月以内に調査を終えるのが望ましいです。
₋・相続放棄のため₋:民法では、相続の開始を知った日から3ヶ月以内(熟慮期間)と定められています。この期間内に財産の全容が判明しなければ、相続放棄の判断が難しくなります。
₋・相続税の申告のため₋:被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告・納税が必要です。
相続財産に含まれるものとは?
相続財産には、一般に「プラスの財産」「マイナスの財産」「その他課税対象となる財産」の3つに分類されます。それぞれを明確に把握しておくことが、相続の方針を定める上で非常に重要です。
₋プラスの財産(資産)₋
₋・現金・預貯金₋:すぐに金額が明らかになるため、初期調査の中心となります。
₋・不動産(土地・建物)₋:評価額や名義の確認が必要となるため、後述する法務局での手続きが必要です。
₋・有価証券(株式・投資信託など)₋:証券会社との取引内容や口座残高を確認する必要があります。
₋・動産(車・宝石・美術品など)₋:保管場所や証明書(鑑定書など)が重要です。
₋・保険金(みなし相続財産)₋:契約内容により、相続税の対象となる場合があります。
₋マイナスの財産(負債)₋
₋・借金・ローン₋:住宅ローン、カードローン、事業借入などを含みます。
₋・未払い金・請求書₋:医療費や税金、光熱費などの支払いも含まれます。
₋・連帯保証人義務₋:被相続人が他人の債務の保証人となっていた場合、相続人がその義務を引き継ぐことになります。
₋相続税の対象になるその他の財産₋
₋・死亡保険金₋:一定の金額を超える部分が課税対象となります。
₋・生前贈与(相続開始3年以内)₋:贈与税回避を防ぐため、直近3年分の贈与も課税対象に加算されます。
₋・死亡退職金₋:会社から支給される場合があり、これも課税対象です。
【実践編】自分で相続財産を調査する方法
相続財産の調査は、専門家に依頼することもできますが、財産の内容によっては自分で行うことも十分可能です。ここでは、各種類の財産について、実際にどのように調べていけばよいかを具体的に説明します。
預貯金の調査
まず確認すべきは、預貯金口座です。通帳やキャッシュカード、ネットバンキングの情報があれば、被相続人がどの金融機関と取引していたかを特定できます。最近では紙の通帳を発行しない銀行も多いため、パソコンやスマートフォンの中にあるアプリやブックマークも調査対象になります。
各金融機関に対しては、相続人であることを証明する書類(戸籍謄本、本人確認書類など)を提出することで、「残高証明書」や「取引履歴」の取得が可能です。これにより、正確な残高や入出金の履歴を把握できます。
借金・負債の調査
マイナスの財産の代表例が借金やローンです。信販会社や銀行から届く明細書、督促状、クレジットカードの利用明細などを確認しましょう。これらの書類が見つからない場合でも、信用情報機関に問い合わせることで情報が得られる場合があります。
代表的な信用情報機関としては、CIC(株式会社シー・アイ・シー)やJICC(日本信用情報機構)があり、所定の手続きを踏むことで被相続人の信用情報の開示請求が可能です。これにより、クレジット契約やローン残高の有無が明確になります。
不動産の調査
不動産を相続する場合は、まず「権利証(登記済証)」や「固定資産税の納税通知書」を確認しましょう。これにより、その不動産の所在地や評価額の大まかな目安を把握できます。
次に、法務局に出向いて「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得することで、所有者の名義や抵当権の有無など詳細な情報がわかります。また、市区町村役場で「名寄帳」を取得すれば、その地域内で被相続人が所有していた不動産を一覧で把握できます。
有価証券・その他の資産
株式や投資信託といった有価証券は、証券会社の取引報告書や口座番号、ログイン情報から確認します。近年はネット証券を利用するケースも多いため、スマートフォンのアプリ履歴やメールの通知も重要な手がかりになります。
保険についても、保険証券や保険会社からの通知書類を確認し、契約の有無や受取人、満期日などを調べます。また、契約者貸付(契約者が保険契約を担保にお金を借りる制度)の利用があれば、残高をチェックする必要があります。
その他の資産
自動車やバイクは「車検証」から所有者が確認でき、貴金属や骨董品、美術品などは「鑑定書」「購入証明書」などが手がかりになります。こうした動産は、物理的に確認しづらい場合もあるため、写真やリストで管理していた場合は、それらの記録を探すことも有効です。

財産調査を漏れなく進めるためのポイント
相続財産の調査は、種類ごとに調べる順序を決めておくことで、効率よく、かつ漏れなく進めることができます。
おすすめの調査順序は、「預貯金 → 借金 → 不動産 → その他の資産」の順です。最も把握しやすく現金化しやすい預貯金から始め、次に借金の有無を確認。その後、時間と手間のかかる不動産調査、最後にその他の動産や証券などを確認していくとスムーズです。
また、調査対象となる書類や情報は、家の中のさまざまな場所に保管されている可能性があります。たとえば、机の引き出し、書類棚、仏壇の引き出し、金庫、パソコンの中、クラウドストレージなども忘れずに確認しましょう。
調査が進んだら、結果は「財産目録」として一覧化しておくことが重要です。財産目録は、相続人間での話し合い(遺産分割協議)のベースとなり、また専門家に相談する際にも必須の資料となります。
自分でするか、専門家に依頼するかの判断基準
相続財産の調査は、すべてのケースにおいて自分で対応できるとは限りません。次のような要素を踏まえて、専門家に依頼するかどうかを判断しましょう。
₋自分で進めてよいケース₋
・被相続人の財産が比較的少なく、書類や情報が整理されている
・相続人同士の関係が良好で、協力して作業を進められる
・預貯金や不動産など、資産内容が複雑でない
・専門知識を要する判断(相続税や評価)が必要ない
こうしたケースでは、相続人だけで財産調査を行っても、大きなリスクや困難は少なく、スムーズに手続きを進めることができるでしょう。
₋専門家に依頼すべきケース₋
・相続財産の総額が多い(目安として3,600万円以上)
・不動産や株式など、評価や分割が難しい資産が含まれる
・相続人同士の関係が悪く、争いが起こる可能性がある
・負債の有無が不明で、相続放棄の判断を急ぐ必要がある
・税務署からの調査リスクを回避したい
このようなケースでは、専門家による法的・税務的な視点からのアドバイスが不可欠です。また、遺産分割協議や申告手続きが円滑になるだけでなく、後々のトラブルを未然に防ぐためにも有効です。
専門家の選び方と依頼先
相続財産調査やそれに続く手続きが複雑化した場合は、専門家の力を借りることが必要不可欠です。ただし、依頼する内容によって適切な専門家は異なります。それぞれの専門領域と役割を理解し、自分のケースに合った依頼先を選ぶことが重要です。
税理士:相続税申告、節税対策、二次相続まで考慮した提案
相続財産の評価や、相続税の申告が必要な場合には、税理士への依頼が有効です。特に不動産や株式などの評価が難しい資産がある場合、正確な評価と申告を行わないと、追徴課税のリスクがあります。また、一次相続だけでなく、将来的な二次相続(たとえば配偶者が亡くなったとき)を見据えた節税対策も提案してくれるため、長期的な視点での相談が可能です。
弁護士:相続人間の争いや調停・訴訟への備え
遺産分割協議がうまくいかない場合や、相続人の間で争いが起きそうな場合は、弁護士の関与が必要です。弁護士は、遺産分割の交渉、調停、さらには訴訟手続きまで対応できます。感情的な対立を避けながら、法的に正当な解決を図るためには、第三者としての弁護士の役割は大きな意味を持ちます。
司法書士:不動産の名義変更、相続登記の手続き
不動産の相続が発生した場合、所有権の移転登記が必要となります。これは司法書士の専門分野であり、法務局への提出書類の作成から手続き代行までを担ってくれます。2024年から相続登記が義務化されたこともあり、不動産を相続する場合は、司法書士に相談するのが確実です。
行政書士:財産目録作成、公正証書の整備
行政書士は、財産目録の作成や公正証書の準備など、書類作成に関する業務に長けています。相続手続きに必要な書類を一通り整えたい、あるいは公正証書遺言の作成支援を受けたいといった場合に依頼すると、スムーズに書類の整備が進みます。
各専門家にはそれぞれ得意分野があり、ケースに応じて複数の専門家が連携してサポートすることもあります。自身の状況を明確に把握した上で、適切な専門家に相談することが、安心して相続を進める第一歩となるでしょう。
相続の全体像を考える:誰に・どう相続させるか
相続財産の調査が完了した後は、「誰に」「どの財産を」「どのように分けるか」を決定するプロセスに入ります。ここでは、法定相続の基本を理解した上で、被相続人の意思や家族の合意を尊重した柔軟な対応が求められます。
法定相続分に基づく分割の基本
民法では、相続人の構成に応じた「法定相続分」が定められています。たとえば、配偶者と子が相続人である場合、配偶者は1/2、子どもは残りの1/2を均等に分け合うのが原則です。ただし、これはあくまで「基準」であり、遺産分割協議により、実際の分配方法は自由に決定できます。
本人の希望や家族の話し合いを反映させる
被相続人の遺志を尊重するためには、「遺言書」が極めて有効です。公正証書遺言であれば法的効力が確実で、遺産分割の混乱を回避しやすくなります。また、遺言がない場合でも、相続人同士で冷静かつ建設的な話し合いを行い、合意を形成することが求められます。
たとえば、自宅を長男に相続させる代わりに、預貯金を次男に厚めに分ける、というような代償分割の工夫も可能です。このように、法定相続に縛られず、家族の実情や希望に合わせた相続の形を模索することが大切です。
遺言書の作成や遺産分割協議書の整備も検討
将来のトラブルを避けるためには、相続前に「遺言書」を作成しておくことが有効です。また、相続人全員の同意のもとで決定した内容は、「遺産分割協議書」として文書化することで、法的な証明力が得られます。これは不動産登記や金融機関での手続きにも必要となるため、必ず作成しておきましょう。
まとめ|相続財産調査が“最初の一歩”
相続は、「何があるか」を把握することからすべてが始まります。相続財産調査は、その出発点として極めて重要な意味を持ちます。
生前に調査ができれば、本人から直接情報を得ることができ、書類の整理や希望の伝達もスムーズに行えます。これは残された家族にとって、非常に大きな助けになります。
一方で、死後に行う調査では、あらゆる手がかりをもとに時間との戦いを強いられることもあります。そのため、正確性とスピードの両方が求められ、専門家の力を借りることも選択肢に入れるべきです。
調査結果が揃えば、遺産を「誰に」「どう渡すか」、そして「どう備えるか」を判断することが可能になります。相続という人生の一大事を円滑に乗り越えるために、相続財産調査を丁寧に、そして早めに進めておくことが、最大の準備と言えるでしょう。
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