2025.6.12
お墓参りや納骨の際、私たちは花や線香を手向けるとともに、「木」を供えることもあります。しかし、その木にはどのような種類があり、どのような意味が込められているのでしょうか?一般的には「樒(しきび・しきみ)」や「榊(さかき)」がよく使われますが、地域や宗教によって「松」「竹」「杉」といった他の木も選ばれることがあります。 これらの木は単なる飾りではなく、供養の場において大きな役割を果たしています。それぞれが持つ宗教的・文化的な意味、そして故人への祈りや自然とのつながりを象徴する存在なのです。 本コラムでは、「お墓に供える木って何があるの?」という疑問に答えるべく、代表的な供養木である樒、榊、松、竹、杉に込められた意味や役割について詳しく解説していきます。さらに、お墓に木を植える意味やそのメリット・デメリット、そしてしきびと一緒に供えるのに適した花の種類についても取り上げます。 供養の場に適した木や花を知ることは、亡くなった大切な人に想いを伝える一つの手段です。伝統を理解し、心を込めた供え方を見つけることで、より豊かな供養の時間を過ごすことができるでしょう。
お墓に供える木として最もよく知られているのが、「樒(しきび・しきみ)」と「榊(さかき)」です。どちらも一見すると似たような常緑樹に見えますが、実は宗教的背景や用途において明確な違いがあります。仏教では樒が、神道では榊が主に使用されており、それぞれの木が持つ象徴性は供養の意味をより深いものにしています。 以下では、まずそれぞれの木の特徴を個別に解説し、その後に違いを比較します。
樒(しきび・しきみ)は、 モクレン科の常緑小高木で、正式名称は「シキミ」と呼ばれます。仏教の法要やお墓参りにおいて、古くから欠かせない植物とされており、西日本では特に使用頻度が高いです。 樒の特徴と意味 ・独特な香りを持ち、防虫・防腐効果がある ・一年を通して青々とした葉を保ち、常緑の象徴 ・有毒成分があるため動物や虫を寄せ付けにくい ・「死」や「あの世」とのつながりを浄化する意味合いを持つ その香りと毒性から、樒は「邪気を祓う」植物とされ、線香とともに場を清める役割を果たします。仏教では死者の霊が迷わず成仏できるよう、清浄な空間をつくる重要な存在として扱われます。
榊(さかき)は、ツバキ科の常緑樹で、日本古来の神道において「神の宿る木」とされる神聖な植物です。神社の玉串奉奠(たまぐしほうてん)などにも使われ、神棚に供えることでも広く知られています。 榊の特徴と意味 ・「境(さかい)の木」が語源とされ、神と人との境界を示す ・神事や神道式の葬儀に使われる ・葉の艶やかさと整った形状が、神聖さと清浄を象徴 ・東日本を中心に、お墓や神棚への供え物として一般的 榊は神道における信仰の象徴であり、故人を「神として祀る」形式を取る場合に使用されます。仏教式の供養における樒とは、役割も意味も異なります。
樒と榊は見た目が似ているため、混同されがちですが、その使用意図や宗教的背景にははっきりとした違いがあります。
比較項目 | 樒 | 榊 |
---|---|---|
主な宗教 | 仏教 | 神道 |
主な使用地域 | 西日本 | 東日本 |
主な用途 | 墓、仏壇、法要、命日 | 神棚、神道の墓、神事 |
意味合い | 邪気を祓う、霊を清める | 神との結びつき、清浄を保つ |
その他の特徴 | 有毒・防虫効果あり | 清浄な香り、神聖な印象 |
供養の形式や宗派、地域の慣習によって使い分けることが重要です。仏教式であれば樒を、神道式であれば榊を供えるのが一般的なマナーとされています。
お墓に供える木といえば、「樒」や「榊」が代表的ですが、それ以外にも意味深く供養に適した木がいくつかあります。中でも「松」「竹」「杉」は、日本文化や宗教観の中で特別な意味を持ち、墓地や霊園、あるいは個人の墓地の周囲に意図的に植えられることがあります。 それぞれの木が持つ象徴的な意味や、植樹される理由、風水的・実用的な観点からの解説を通じて、樒・榊以外の供養木としての価値を詳しく見ていきましょう。
松は「常緑樹」の代表格であり、年中緑を保つことから「不変」や「永遠の命」の象徴とされています。特に日本文化では、松は縁起物としての意味も強く、正月飾りの門松や庭園の景観樹にも使用されてきました。 お墓に松を植える意味は以下の通りです。 ・故人の魂が永遠に穏やかでありますようにという願い ・子孫繁栄や家系の安定を祈る ・四季を通じて緑を保つことによる「命の連続性」の象徴 ただし、松は根が広がりやすく、墓石や構造物を圧迫する可能性があるため、植える際には場所選びと定期的な管理が必要です。
竹は日本だけでなくアジア全体で「強さ」「しなやかさ」「潔さ」の象徴とされています。真っ直ぐに伸びる姿と節のある形状は、「人の生き方」や「魂の美しさ」を表すものとして評価されています。 お墓に竹を植えることには、以下のような意味合いがあります。 ・故人の誠実で正直な生き方を称える ・家族の結びつきと強さを願う ・風通しを良くし、霊的な浄化作用を期待する また、竹は成長が早く、風に揺れる音も心地よいため、精神的な安らぎを与える存在にもなります。ただし、繁殖力が強いため、管理には注意が必要です。
杉は古来より神社仏閣に多く植えられてきた木で、日本では特に「神域」や「霊域」を示す木として重用されてきました。その理由の一つが、杉が持つ浄化の力と神聖な雰囲気です。 お墓に杉を植える意義としては ・霊を守る「結界」のような役割を持つ ・自然の霊気を呼び込み、供養の場を清める ・木漏れ日や香りにより癒しの空間を演出する 杉は寿命が長く、高く伸びるため、故人を見守る象徴としても親しまれます。また、風水の観点からも、杉は「気の浄化」を助けるとされるため、墓地の環境整備に取り入れられることもあります。
お墓に木を供える行為には、景観の美しさだけでなく、深い宗教的・精神的な意味が込められています。木々は「生命」「再生」「自然との一体化」の象徴であり、故人とのつながりや家族の絆を形にする大切な存在です。 以下では、供養木として代表的な「樒」「榊」「松」「竹」「杉」ごとに、その象徴性と役割を詳しく掘り下げていきます。
・死者の霊を清め、悪霊を寄せ付けない木 樒は独特な香りと毒性を持ち、墓地を穢れから守るために古くから使われてきました。土葬時代には墓周辺に植えることで、腐敗臭や動物を抑える効果が期待されていました。 ・常緑で枯れにくい → 永遠性の象徴 一年中葉を保つ常緑特性は、「生命の不滅」「霊の継続」という象徴性に通じます。 ・蓮の代替としての仏教的意味 樒の葉は蓮華に似ており、『空海が仏事で代用品に用いた』という言い伝えもあります。
・神道における神との媒介物 榊は神前に置かれ、神と人間の境をつなぐ存在とされます。神社の玉串にも使用され、墓前に供える際は故人を神格化する意味合いがあります。