遺言執行者とは?役割・選任方法・必要なケースを完全解説

2025.4.23

  • 相続

遺言は、人生の最期に残す大切な意思表示です。自分の死後、家族が無用な争いを起こすことなく、円滑に財産を受け継げるようにと、多くの人が遺言書を作成しています。しかし、遺言書が存在するだけでは、それが確実に実行されるとは限りません。そこで重要な役割を果たすのが「遺言執行者」です。 遺言執行者は、故人が遺した遺言の内容を法的に執行する人物であり、遺産の名義変更や分割、特定の相続人の排除、第三者への遺贈など、幅広い業務を担当します。遺言執行者が適切に選任されているか否かで、相続手続きのスムーズさは大きく異なります。 本記事では、「遺言執行者とは何か?」「誰がその任に就けるのか?」「選任は必須なのか?」といった基本事項から、選任方法、実行できること・できないこと、さらには報酬や解任の可能性まで、詳しく解説します。終活や相続の準備にあたって、遺言執行者に関する正しい知識を持つことは、残された家族の負担軽減とトラブル回避の大きな助けになります。

遺言執行者とは

遺言執行者とは、遺言書に記載された内容を、法律に基づいて実際に執行する人物のことです。民法第1006条では、「遺言の執行は、遺言執行者によって行う」と定められており、遺贈や名義変更などを通じて、遺言を実際の相続や財産移転へとつなげる重要な役割を担います。 たとえば、遺言書に「長男に自宅不動産を相続させる」「配偶者以外の相続人を廃除する」「孫に現金100万円を遺贈する」といった記載がある場合、これを実際に実行するためには、各種の名義変更、相続財産の調査・分配、家庭裁判所への申立てなど、煩雑かつ専門的な手続きを行う必要があります。 これらの手続きを担うのが、遺言執行者です。遺言執行者は、遺言者(被相続人)の最終意思を忠実に実行し、遺産を適切に処理する役割を負います。相続人間での争いを防ぐ中立的な役割としても、重要な存在です。

遺言執行者には誰がなれる?

法律上、遺言執行者になれるのは「成年であり、かつ破産者でない者」とされています。つまり、未成年者と破産者は遺言執行者になれません(民法第1009条)。それ以外の者であれば、相続人であっても第三者であっても、遺言執行者に選任することができます。 実際には、以下のような人物が選ばれることが多いです。 ・信頼できる家族(長男や配偶者など) ・弁護士や司法書士などの法律専門職 ・行政書士、税理士など、相続手続きに詳しい士業 ・信託銀行などの専門機関 特に相続財産が高額であったり、不動産や株式、海外資産などが含まれている場合、手続きが複雑化するため、専門的知識と経験を持つ士業の選任が推奨されます。

遺言執行者の選任が必要な場合・不要な場合

遺言執行者の選任が必要かどうかは、遺言の内容や相続人同士の関係、財産の構成などによって異なります。すべての遺言書に必ず遺言執行者を指定しなければならないわけではありませんが、法的に義務づけられているケースや、トラブルを回避するために任命しておいた方がよいケースも多くあります。 以下では、遺言執行者の選任が「必要なケース」と「不要なケース」に分けて、具体的に解説します。

選任が必要なケース

1. 相続人の廃除・廃除の取消しが含まれている場合 相続人を廃除したり、その取消しを行うには、家庭裁判所への申立てが必要です。生前は本人のみが申立てできますが、死亡後に遺言で廃除を定めた場合は、遺言執行者だけがその手続きを行えます。したがって、廃除に関する内容を含む遺言には、遺言執行者の選任が極めて重要です。 2. 遺贈がある場合(特に相続人以外への財産譲渡) 遺言によって相続人以外の人物に財産を渡す「遺贈」が行われる場合、財産の名義変更や受贈者への通知などの実務的な手続きが必要となります。これらの手続きを確実に遂行するためには、法的権限を持った遺言執行者の存在が重要です。 3. 相続人同士で対立が予想される場合 相続人同士に感情的な対立や過去のトラブルがある場合、遺言の執行を当事者間だけで円滑に執行するのは難しくなることがあります。中立的な第三者として遺言執行者を選任しておけば、争いを回避しながらスムーズに手続きを進めることができます。 4. 財産が複雑で手続きが煩雑な場合 不動産、株式、事業資産、海外資産など、内容が複雑な遺産の場合、相続人だけで手続きを進めるのは難しいことがあります。専門的な知識を持つ遺言執行者が選任されていれば、適切かつ迅速に手続きを進めることができます。

選任が不要なケース

1. 遺言の内容が単純である場合 例えば、「すべての財産を配偶者に相続させる」など、遺産の配分が単純明快な場合は、遺言執行者を立てなくても相続人自身が手続きを進めることが可能です。 2. 相続人全員の協力が得られる場合 相続人全員が遺言内容に納得し、協力的に行動できる場合、遺言執行者を選任しなくても問題は生じにくいです。特に、家族関係が良好で遺産の分配についての争いが予想されない場合には、手続きを円滑に進められる可能性が高いです。 3. 遺言の執行に特別な手続きが不要な場合 財産が預貯金のみなど、手続きが比較的簡易な場合や、登記などの変更を必要としない場合も、遺言執行者を必ずしも必要としないケースに該当します。 遺言執行者の選任が必要か否かを判断するには、遺言の内容と想定される実務の負担、相続人同士の関係性など、複合的な要素を考慮する必要があります。状況によっては、法的には不要であっても、円滑な執行のためにあえて選任しておくことが賢明な判断となる場合もあります。

遺言執行者の選任方法

遺言執行者を誰にするか、そしてどのように選任するかは、遺言の実効性に大きく関わります。遺言執行者の選任方法は、大きく分けて次の3つがあります。遺言者が生前に明確に意思を示すことが、遺言の円滑な実行につながります。

遺言執行者 選任方法

1. 遺言者本人が遺言で指定する方法

最も確実かつ一般的な方法が、遺言者本人が遺言書の中で「誰を遺言執行者とするか」を明示することです。公正証書遺言であれば、作成時に公証人が法的に適切な形式で記載するため、後のトラブルも起こりにくくなります。 自筆証書遺言の場合でも、「○○を遺言執行者に指定する」という文言があれば有効ですが、記載漏れや曖昧な表現に注意が必要です。記載が不十分な場合、選任が無効とされることもあるため、確実な意思表示が求められます。 指定された人物が遺言執行を引き受けるかどうかは任意であり、本人が就任を承諾しなければ効力は生じません。そのため、事前に意思確認をしておくことが望ましいです。

2. 遺言書の死後、家庭裁判所へ申し立てて選任する方法

遺言書に遺言執行者の記載がなかった場合や、指定された人物が辞退した・亡くなっていたなどの場合には、相続人や利害関係人が家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を申し立てることができます。 申し立てには、遺言書、相続関係説明図、戸籍謄本、申立書などの書類が必要で、家庭裁判所が適任と認めた人物が遺言執行者として選ばれます。 この方法では、相続人全員の同意が必要なわけではありませんが、家庭裁判所が中立的な視点で人選を行うため、選任までに一定の時間がかかる場合があります。専門家が選任されることも少なくありません。

3. 第三者による遺言執行者の指定

遺言書に「遺言執行者の選任を○○に委任する」と記載されている場合、その○○とされた人物が別の人物を遺言執行者として指名することができます。 たとえば、「長男に遺言執行者を指定する権限を与える」と書かれていれば、長男が信頼できる専門家などを選ぶことが可能です。この方法は、遺言者が生前に具体的な執行者を決めきれない場合や、死亡時の状況に応じて柔軟に対応したい場合に有効です。 ただし、委任された人の判断で選任が行われるため、信頼関係が極めて重要です。誤った人選が後々のトラブルに発展しないよう、遺言の文言には慎重な配慮が求められます。 遺言執行者の選任方法には複数の選択肢があるため、遺言者自身の意思や相続の状況に応じて、最適な方法を選ぶことが大切です。特に争族(そうぞく)を避けるためには、遺言書の中で明確かつ具体的に指定しておくことが、最も安全なアプローチといえるでしょう。

遺言執行者ができること・できないこと

遺言執行者は、遺言書の内容を確実に実行するために法的権限を与えられた存在ですが、できることとできないことの範囲は明確に定められています。遺言執行者が権限を超えた行為を行うと、無効とされたり、相続人とのトラブルの原因になることもあるため、職務の範囲を正確に理解しておくことが重要です。 ここでは、遺言執行者が実際に「できること」と「できないこと」を、それぞれ具体的に紹介します。

遺言執行者ができること

遺言執行者ができる行為は、民法で明確に認められており、以下のようなものが代表的です。 1. 相続財産の名義変更・管理 不動産の登記名義の変更や、預貯金口座の解約・払い戻しなど、遺言に基づいて財産を適切に管理・分配するための手続きが可能です。 2. 財産目録の作成と提示 遺言執行者は、相続財産の内容を正確に把握したうえで、相続人に対して「財産目録」を提示しなければなりません(民法第1011条)。 3. 相続人廃除・廃除取消しの申立て 遺言書に相続人の廃除またはその取消しが書かれている場合には、家庭裁判所にその手続きを申し立てることができます。これも遺言執行者にしかできない重要な業務の一つです。 4. 遺贈の実行 相続人以外の第三者に対して財産を渡す「遺贈」の手続きも、遺言執行者が行います。これには、現金の送付や不動産の引渡し、登記変更などが含まれます。 5. 相続税納付のための準備 納税のための資金確保や不動産の売却など、間接的に相続税の納付を支援する業務も行います(実際の納税義務は相続人にあります)。

遺言執行者ができないこと

一方で、遺言執行者には制限があり、以下のような行為は許されていません。 1. 遺言の内容を変更すること 遺言執行者は、遺言の内容を変更したり、勝手に解釈して執行内容を変えることはできません。遺言書の通りに、法的手続きに従って実行する義務があります。 2. 相続人の合意が必要な行為を単独で行うこと 遺産分割協議など、相続人全員の合意が必要な手続きには、遺言執行者は介入できません。例えば「法定相続分に従って分けるか、特定の割合にするか」といった調整は、遺言書に明記されていなければ相続人自身で話し合う必要があります。 3. 遺言に記載されていない財産の処分 遺言執行者が処理できるのは、遺言に明示された財産や指示に限られます。遺言に書かれていない財産について勝手に処分した場合、その行為は無効になる可能性があります。 遺言執行者は、強い法的権限を持つ一方で、その行動は遺言と法律の範囲内に厳格に制限されています。役割を正しく理解して行動することが、遺言の円滑な実行と相続人との信頼関係の維持に不可欠です。

遺言執行者に選任すべき人

遺言執行者は、遺言書の内容を法的に確実に実現するためのキーパーソンです。そのため、誰を遺言執行者に選任するかによって、遺言の実行が円滑に進むか、あるいはトラブルを招くかが大きく左右されます。 ここでは、遺言執行者に選任する際に重視すべきポイントと、実際に選ばれることの多い人物像を紹介します。

信頼性が高く誠実な人物

遺言執行者は、故人の最終意思を忠実に実現する役割を担います。したがって、何よりもまず信頼できることが最重要条件です。家族や親族の中であっても、誠実さに欠ける人物を選んでしまうと、相続人間の疑念や争いの火種となる可能性があります。

法律や相続手続きに関する知識を持つ人

不動産の登記変更、金融機関での手続き、税金関連など、遺言の執行には高度な法的知識が求められる場面も少なくありません。そのため、弁護士・司法書士・行政書士・税理士など、相続業務に精通した専門家を選任するのが安心です。 とくに以下のような状況では、専門家の選任が有効です。 ・相続財産の種類が多い(不動産・株式・海外資産など) ・相続人の数が多く、調整が難しい ・遺言内容が複雑で、手続きに時間がかかると予想される

相続人との間に利害関係がない第三者

相続人自身が遺言執行者になることも可能ですが、他の相続人との間で利益相反が生じやすい場合には、中立的な立場にある第三者を選任することが望ましいです。感情的な対立や疑念を避け、遺言を公正に実行するためにも、利害関係のない人物を選ぶことは非常に効果的です。

実際によく選ばれる遺言執行者の例

・配偶者や長男など、信頼のおける家族 ・弁護士や司法書士などの士業専門職 ・銀行系信託会社や相続専門の法人 ・遺言者と親しい友人やビジネスパートナー(トラブルのない場合) 遺言執行者にふさわしい人物を選ぶには、単に「知っている人」「家族だから」という理由ではなく、その人物が果たすべき責任を理解し、誠実に遂行できるかどうかを冷静に見極める必要があります。必要であれば、候補者と事前に話し合い、引き受ける意思を確認しておくと安心です。

遺言執行者の報酬

遺言執行者は、遺言書の内容を法的に実行するために様々な手続きを担う、責任の重い役割です。報酬が発生するかどうか、またその金額については、遺言書の記載や相続財産の規模、業務の複雑さなどにより異なります。 ここでは、遺言執行者の報酬に関する基本的なルールと相場について解説します。

遺言書に報酬の記載がある場合

遺言書に「遺言執行者には報酬として○○万円を支払う」と明記されていれば、その金額が基本的には優先されます。この場合、遺言執行者は報酬の支払いを当然に受ける権利があります。

遺言書に報酬の記載がない場合

遺言書に報酬に関する記載がない場合でも、民法第1018条に基づき、遺言執行者は「相当な報酬」を請求することができます。報酬の金額は、以下のような要素に応じて決定されます。 ・相続財産の総額と内容(不動産、金融資産、事業資産など) ・手続きの煩雑さやかかった期間 ・相続人間の調整の必要性 ・執行者の専門性や対応範囲 相続人全員の合意があれば、相応の金額を報酬として支払うことができます。合意が得られない場合や金額に争いがある場合は、家庭裁判所に申し立てて判断を仰ぐことになります。

実務上の報酬相場

実際の報酬はケースバイケースですが、以下は一般的な目安です。 ・相続財産の1〜3%程度が相場 ・最低報酬として10万円〜30万円程度を設定する専門家も多い ・手続きの複雑さにより加算される場合あり たとえば、財産総額が5000万円で、不動産や複数の金融機関にまたがる預金口座が含まれている場合、報酬として50〜150万円程度が請求されることも珍しくありません。

報酬の支払い方法

遺言執行者の報酬は、相続財産から支払うことが原則です。そのため、相続人が自己資金で支払う必要はなく、遺産の中から清算されます。 なお、相続税の計算上、遺言執行者に支払う報酬は「債務控除の対象」となり、相続財産から差し引いて税額が計算されます。 遺言執行者の報酬は、業務に見合った適正な金額を設定することが重要です。とくに専門職へ依頼する場合は、報酬基準を事前に明示してもらい、相続人間でのトラブルを防ぐ工夫が求められます。

遺言執行者を解雇することはできる?

遺言執行者は、遺言書の内容を確実に実行するために選任される重要な存在ですが、もしその執行者が職務を適切に果たさなかった場合や、不正な行為を行った場合などには、解任(事実上の「解雇」)が認められることがあります。 ここでは、遺言執行者の解任が可能なケースや、その手続きについて解説します。

解任できるケース

遺言執行者が以下のような行為を行った場合、相続人や利害関係者は、家庭裁判所に対して解任を申し立てることができます(民法第1019条)。 1. 遺言の内容に反する執行を行った場合 遺言書に記載されている内容を故意に曲げて執行したり、恣意的に内容を一部省略・改変した場合は、重大な義務違反とみなされます。 2. 財産の使い込み・横領などの不正行為 遺産の一部を自己の利益のために使用したり、相続人に無断で処分したような場合も、即時に解任を検討すべき深刻な問題です。 3. 職務に著しい怠慢が見られる場合 長期間にわたって手続きを進めず、遺言の執行が滞っているような場合も、信任関係が崩れたとみなされ解任の対象となることがあります。

解任の手続き

遺言執行者の解任は、相続人やその他の利害関係者が家庭裁判所に申し立てることで実施されます。申立てには、以下のような書類と証拠が必要になります。 ・遺言書の写し ・相続関係を示す戸籍類 ・解任を求める理由を証明する資料(手続きの遅延、不正の証拠など) 家庭裁判所は、申立て内容を審査したうえで、解任が妥当と判断されれば、正式に遺言執行者の地位を剥奪する決定を下します。

解任後の対応

遺言執行者が解任された場合、新たな遺言執行者を選任する必要があります。これは、遺言書に別の執行者の記載があればその人が引き継ぎますが、記載がない場合は家庭裁判所に新たに選任を申し立てる流れとなります。

任意の理由では解任できない

「性格が合わない」「対応が遅い気がする」などの主観的・感情的な理由だけでは、遺言執行者の解任は認められません。家庭裁判所は、解任理由が客観的かつ合理的であるかを厳格に判断します。 遺言執行者は重大な責任を負う立場にある一方で、その行為が不適切な場合には法的に対応する手段も用意されています。相続人としては、不正が疑われる場合には迅速に証拠を集め、然るべき手続きを踏むことが重要です。

まとめ

遺言執行者は、遺言書に記された故人の最終意思を実現するために、法的に重要な役割を担う存在です。遺産の名義変更、遺贈の手続き、相続人の廃除申立てなど、遺言の執行には専門性が求められる場面も多くあります。適切な遺言執行者が選任されていれば、相続手続きは円滑に進み、相続人同士のトラブルも未然に防ぐことができます。 遺言執行者は、法律に基づいた明確な基準のもとで選任され、その職務と責任は民法によって詳細に定められています。選任が必要なケースと不要なケースを見極め、適切な方法で選ぶことが、遺言者にとっても、残された家族にとっても最良の選択となります。 報酬や解任の可能性といった側面も含め、遺言執行者に関する正しい理解を持つことは、終活や相続対策を考えるうえで非常に重要です。遺言書を作成する際には、自分の意思を確実に実現してくれる信頼できる人物を、慎重に遺言執行者として指定するようにしましょう。

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