
おくやみコーナーとは?死亡・相続手続きがスムーズになる仕組みを解説
公開日: 2024.4.23 更新日: 2024.12.16
目次
高齢化が進む日本において、死亡や相続に関連する手続きの効率化が社会的な課題となっています。家族が亡くなった際、遺族は多くの行政手続きや民間契約の処理に直面しますが、これらは複雑かつ時間がかかるため、精神的・肉体的な負担が大きいのが現状です。
こうした遺族の負担を軽減するため、多くの自治体では「おくやみコーナー」という窓口を設けています。このサービスは死亡に伴う行政手続きをワンストップでサポートするもので、近年ではデジタル化による効率化も進んでいます。本記事では、おくやみコーナーの概要、役割、具体的な手続き内容、利用の流れ、そして現状の課題と将来的な展望について詳しく解説します。
1. おくやみコーナーとは?
おくやみコーナーは、死亡や相続に伴う役所手続きを効率的に進めるための窓口です。遺族が複数の役所窓口を訪問する必要を減らし、必要な手続きの案内や申請書類の作成支援、証明書の取得などをワンストップで行えるようにすることを目的としています。
このサービスは、内閣官房IT総合戦略室が2020年に策定した「死亡・相続ワンストップサービスガイドライン」に基づき、多くの自治体で導入が進んでいます。一部ではサポート要員の教育や専用データベースの構築が課題とされていますが、自治体と住民双方に大きなメリットがあります。
特に、予約制を採用することで窓口の混雑を防ぎ、利用者は事前準備を整えやすくなるため、効率的な手続きが可能です。また、荒川区の「届出サポートデスク」、港区の「ご遺族支援コーナー」など、名称が異なる場合もありますが、基本的なサービス内容は同じです。
現在はデジタル庁が関連施策を推進しており、将来的には手続きのさらなる効率化が期待されています。
2. おくやみコーナーでできる主な手続き
おくやみコーナーでは、死亡や相続に関連する公的手続きをワンストップで行うことができます。自治体ごとに対応可能な手続きの範囲は異なるものの、以下の7つの主要な手続きが一般的にサポートされています。これにより、遺族が複数の窓口を回る負担を軽減できる仕組みとなっています。
1. 世帯主変更届の申請
故人が世帯主であった場合、新たな世帯主を登録する必要があります。世帯主変更届は、役所での手続きの中でも早期に行うべき重要なものです。
2. 印鑑登録証の返還・廃棄
故人が登録していた印鑑証明の解除手続きが必要です。印鑑登録証は故人の財産に関する手続きに関連するため、速やかに廃棄や返還を行います。
3. 住民基本台帳カード、マイナンバーカードの返還
故人が保有していた住民基本台帳カードやマイナンバーカードは、役所に返還する必要があります。これにより、カード情報が抹消され、個人情報の不正利用が防止されます。
4. 被保険者証の返還
故人が加入していた国民健康保険や後期高齢者医療保険の保険証を返還します。この手続きは健康保険証の無効化を目的としており、故人の医療保険関連の記録を整理するために必要です。
5. 身体障害者手帳や療育手帳(愛の手帳)の返還
故人が身体障害者手帳や療育手帳を保有していた場合、それらを返還します。これにより、福祉サービスの利用を終了させる手続きを完了させます。
6. 葬祭費の申請
国民健康保険加入者の場合、葬儀費用の一部を助成する「葬祭費」を申請できます。自治体によって支給額は異なりますが、3万円から7万円程度が一般的です。
7. 高額療養費の申請
故人が医療機関に高額な医療費を支払っていた場合、その一部を払い戻し受けられる場合があります。この手続きを通じて、遺族の経済的負担を軽減することが可能です。
3. おくやみコーナーの利用方法
おくやみコーナーを利用する際には、事前の準備や手続きの流れを把握しておくことで、よりスムーズに手続きを進めることができます。多くの自治体では利用方法がほぼ共通していますが、予約制や案内内容には多少の違いがあるため、各自治体の案内に従うことが大切です。以下は一般的なおくやみコーナーを利用する流れを解説します。

1. 死亡届を提出し「おくやみハンドブック」を受け取る
まず、死亡届を役所に提出します。死亡届は、亡くなった日を含めて7日以内に、以下のいずれかの市区町村役場に提出する必要があります
・死亡地
・死亡者の本籍地
・届出人の住所地
死亡届の提出後、多くの自治体では「おくやみハンドブック」と呼ばれる案内冊子が配布されます。このハンドブックには、遺族が行うべき手続きや必要書類の一覧、担当窓口の情報などがわかりやすくまとめられており、手続きの流れを把握するのに役立ちます。一部の自治体では、このハンドブックをオンラインで閲覧・ダウンロードできる場合もあります。
さらに、このハンドブックを活用することで、「わからないから窓口に行って確認し、書類を準備してまた窓口に行く」という2度手間を回避することができます。事前に必要書類を準備できるため、窓口での手続きがスムーズになり、時間の節約にも繋がります。
手続きを効率よく進めるためには、このハンドブックをしっかりと確認し、必要な書類や手続きの優先順位を把握しておくことが重要です。
2. おくやみコーナーの予約を取る
おくやみコーナーは、ほとんどの自治体で予約制を採用しています。予約を取ることで、待ち時間が短縮され、案内がスムーズになります。予約は以下の方法で行うのが一般的です
おくやみハンドブックを確認する
死亡届提出時に配布される「おくやみハンドブック」に、予約方法が記載されています。
自治体の公式ホームページを見る
自治体の公式ホームページで、おくやみコーナーの予約案内を確認できます。一部自治体では、オンライン予約フォームが提供されています。
予約をせずに訪問することも可能な場合がありますが、その場合は待ち時間が長くなる可能性があるため、事前予約を強くおすすめします。
3. 窓口でヒアリングを受ける
予約した日時におくやみコーナーを訪れ、窓口で担当職員からヒアリングを受けます。このヒアリングでは、故人や遺族の状況をもとに、必要な手続きが整理されます。たとえば、以下のような質問が行われます:
・故人の住民票がある市区町村
・故人が加入していた保険の種類(国民健康保険、後期高齢者医療保険など)
・障害者手帳や療育手帳の有無
・年金の受給状況
ヒアリングを通じて、遺族に必要な手続きがリストアップされ、それぞれの優先順位や窓口が案内されます。一部の自治体では「おくやみコーナー設置支援ナビ」という専用システムが導入されており、約30項目の質問に答えるだけで個別の手続きが自動的に整理される仕組みもあります。
4. 必要書類の作成と提出
ヒアリングで明確になった手続きに基づき、申請書類を作成します。おくやみコーナーの職員が申請書の記入をサポートしてくれるため、初めての手続きでも安心して進められます。
手続きの一部はその場で完了できる場合がありますが、場合によっては他の窓口や施設に足を運ぶ必要があることもあります。また、自治体によってはオンラインでの申請手続きが可能な場合もあります。
5. 提出後の確認
手続きを完了した後、次に必要な行動について説明を受けます。たとえば、相続関連の手続きや、民間契約(銀行口座の解約、クレジットカードの停止など)についての案内が行われることもあります。これにより、遺族は手続きの漏れを防ぐことができます。
注意点
1.提出期限に注意する
死亡届や健康保険証の返還、年金停止手続きなどは、法律や制度に基づいて期限が定められています。特に、年金停止や葬祭費の申請などは、期限を過ぎると受け取れるはずの金額が受け取れなくなる場合があるため、優先して手続きを進めましょう。
2.事前に必要書類を確認する
ハンドブックや自治体のウェブサイトで、必要書類を事前に確認しておくとスムーズです。たとえば、住民票や戸籍謄本などが必要になる場合が多いため、あらかじめ準備しておくことをおすすめします。
おくやみコーナーを利用することで、複雑な手続きが整理され、時間や精神的な負担が大幅に軽減されます。事前準備と予約を心がけることで、さらに効率的に手続きを進められるでしょう。
4. 導入状況と自治体ごとの取り組み
全国的なおくやみコーナーの設置状況
「おくやみコーナー」は、遺族が死亡や相続に伴う手続きを効率的に進められるよう、全国の自治体で設置が進んでいる行政サービスです。
デジタル庁が2024年度に公開した調査結果によると、約34%の自治体がすでにおくやみコーナーを設置しており、さらに今後の実施予定を含めると約47%に達する見込みです。この数値は、設置推進のための政府方針や自治体の取り組みが成果を上げていることを示しています。
東京都23区の設置状況
東京都23区では、設置済みの区と未設置の区、そして部分的に対応している区があります。以下が2024年6月時点での状況です:
設置済みの区
墨田区、荒川区、板橋区、葛飾区、大田区、豊島区、中野区、練馬区、品川区、文京区、港区、江戸川区、目黒区、杉並区
未設置の区
足立区、世田谷区、新宿区、渋谷区、北区、江東区、台東区
部分的に対応している区
中央区・千代田区
この2つの区では、専用の「おくやみコーナー」は設置されていませんが、遺族が必要な手続きを把握しやすいようにオンライン案内ツールを提供しています。たとえば、「手続きガイド」や「手続きナビ」といったシステムを利用することで、必要書類や手続き内容を事前に確認できるようになっています。ただし、窓口でのワンストップ対応は行われておらず、各窓口を個別に訪問する形となっています。
最新情報の確認の重要性
おくやみコーナーの設置状況や提供されるサービス内容は自治体ごとに異なるため、利用を検討する際には、各自治体の公式ウェブサイトや窓口で最新の情報を確認することが重要です。手続き内容や対応可能な書類が自治体によって異なる場合があるため、事前の情報収集を怠らないようにしましょう。
おくやみコーナーの設置は全国的に拡大しており、遺族の負担軽減に役立つ重要なサービスです。現在利用可能か、または近い将来に利用可能になる予定があるかを把握しておくことをおすすめします。
5. デジタル化の動きと将来的な展望
おくやみコーナーのサービスは、近年、デジタル化によってさらなる効率化が期待されています。特に、死亡届や関連手続きのオンライン化が注目されており、デジタル庁を中心とした政府の取り組みが進行中です。本章では、デジタル化の現状と今後の展望について詳しく解説します。
現在の推進状況
2024年12月時点では、死亡届や死亡診断書(死体検案書)のオンライン提出はまだ実現していません。これらは従来どおり、紙媒体での提出が必要です。死亡届は、故人の本籍地、死亡地、または届出人の所在地のいずれかの市区町村役場に7日以内に提出することが求められています。
しかし、デジタル庁を中心に、法務省や厚生労働省が協力してオンライン手続きの実現に向けた検討が進められており、以下のようなスケジュールが公表されています
・2026年度末:死亡届と死亡診断書のオンライン提出を開始する計画。
これにより、役所に出向く負担が軽減され、特に遠方に住む遺族や高齢者にとっての利便性向上が期待されています。
現時点での課題
デジタル化の進展が期待される一方で、2024年12月現在、以下のような課題が残されています
1. 完全なオンライン化の難しさ
死亡届や死亡診断書のオンライン提出が可能になったとしても、火葬許可証の発行やその他の一部手続きは依然として対面で行わなければならない場合があります。この部分的なデジタル化が、新たな混乱を招く可能性がある点が課題とされています。
2. 自治体間でのデータ連携
自治体ごとに異なるシステムが使われているため、データの統一管理が難しい状況です。標準化が進めば、異なる地域に住む遺族や関係者の手続きもスムーズになると期待されています。
3. デジタル環境への対応格差
高齢者やデジタルデバイスに不慣れな人にとって、オンライン化が新たな壁となる可能性があります。そのため、オンライン手続きと対面窓口の両立が求められます。
まとめ
おくやみコーナーは、死亡や相続に伴う手続きを効率化し、遺族の負担を軽減する重要な行政サービスです。全国で導入が進む中、地域ごとの違いやデジタル化の課題もありますが、自治体ごとの工夫やデジタル庁の推進により、さらなる利便性向上が期待されています。特に、死亡届や関連手続きのオンライン化が進めば、物理的・時間的負担が大幅に軽減されるでしょう。利用者は自治体の最新情報を確認し、効率的にサービスを活用することが大切です。
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