
死後事務委任契約とは?依頼できる内容や契約の流れを解説!
公開日: 2024.7.19 更新日: 2025.1.17
目次
死後事務委任契約とは?
依頼できる内容
依頼できない内容
死後事務委任契約の手続きの流れ
1. 委任する内容を決める
2. 委任する相手(受任者)を決める
3. 契約書を作成する
4. 公正証書として契約を結ぶ
死後事務委任契約を結ぶべき人とは?
1. 親や配偶者、子どもがいない「おひとり様」
2. 家族と絶縁状態にある人
3. 家族に負担をかけたくない人
4. 家族と希望が異なる人
死後事務委任契約の費用
1. 契約書作成にかかる費用
2. 受任者への報酬
3. 実費(葬儀費用や遺品整理費用など)
執行費用を確保する方法
費用を抑えるポイント
死後事務委任契約で起こりうるトラブルと注意点
1. 契約内容が不明確な場合のトラブル
2. 運営会社の倒産によるトラブル
3. 家族や親族とのトラブル
まとめ
終活の一環として注目を集める「死後事務委任契約」。遺産相続や葬儀の準備とともに、自分の死後に必要な手続きを円滑に進めるための制度です。「どんな手続きが含まれるのか」「どんな人に必要か」「費用はどれくらいかかるのか」など、この記事では死後事務委任契約のすべてをわかりやすく解説します。
死後事務委任契約とは?
死後事務委任契約は、依頼者が亡くなった後に発生する事務手続きを、生前に信頼できる第三者に委任する契約です。この契約を通じて、葬儀の手配や行政手続き、遺品整理などを効率的に進めることが可能です。ただし、契約で定められた範囲内でのみ対応できるため、できることとできないことを明確に理解しておく必要があります。
依頼できる内容
死後事務委任契約で委任可能な主な手続きは以下の通りです。
1. 葬儀や埋葬に関する手続き
亡くなった直後に必要となる対応を、受任者が代行します。
・遺体の引き取り:病院や施設、警察からの遺体引き取り手配。
・葬儀や火葬に関する手続き:葬儀の形式や規模を指定し、火葬許可証の取得や火葬場の予約を行います。
・埋葬やお墓に関する手続き:納骨や散骨、樹木葬の手配が可能です。
・供養の手配:法要や宗教的な儀式を希望に基づいて手配します。
2. 行政手続きに関する対応
故人が役所に提出すべき書類の手続きや清算を行います。
・健康保険証や介護保険証の返却:速やかに役所へ返却します。
・年金事務所への連絡:年金受給の停止手続きを行います。
・税金の納付:未納分の住民税や固定資産税を対応します。
3. 契約や金銭に関する手続き
故人の契約関係や未払い費用についての対応も可能です。
・公共料金やサブスクリプションの解約:電気、ガス、水道、携帯電話、インターネット契約などを解約します。
・医療費や介護費用の清算:病院や介護施設で発生した未払い分を清算します。
・賃貸契約の解除:賃貸物件の鍵の返却、原状回復、不動産の明け渡しなどを代行します。
4. 遺品およびデジタル遺品の整理
物理的な遺品だけでなく、デジタルデータの整理も依頼できます。
・遺品整理:家具や衣類などの処分、貴重品や重要書類の保管を行います。
・デジタル遺品整理:SNSアカウントの削除、パソコンやスマホのデータ削除、クラウドサービスの解約。
5. 残されるペットの世話
故人が飼っていたペットのケアも含まれます。
・引き取り先の手配:終生飼養が可能な人や施設を探します。
・健康管理:必要な医療やケアの手配を行います。
依頼できない内容
死後事務委任契約では対応できない業務も明確に定められています。以下の点に注意が必要です。
1. 相続に関する手続き
死後事務委任契約では、相続に関わる業務は依頼できません。これらは遺言書で定める必要があります。
・相続分や遺産分割方法の指定:遺産の分割方法を指定することはできません。
・銀行口座の解約や払い戻し:故人名義の口座の手続きは、相続人または遺言執行者が行う必要があります。
・不動産の売却や名義変更:不動産関連の事務処理は契約範囲外です。
※これらの事項は、遺言書を作成し、必要に応じて遺言執行者を指定することで対応してください。
2. 生前に発生する手続き
死後事務委任契約は、あくまでも「死後」に発生する事務手続きのみが対象です。生前に必要な対応は別の契約で手配する必要があります。
・生前の財産管理:資産運用や財産の管理は対象外です。
・介護や生活補助:身の回りのサポートや介護サービスの手配も含まれません。
※これらの対応を希望する場合は、財産管理契約や見守り契約、あるいは成年後見制度の利用を検討する必要があります。
死後事務委任契約の手続きの流れ

1. 委任する内容を決める
まず、自分が亡くなった後に発生する手続きについて、どのような対応を希望するのかを明確にします。死後事務委任契約でできることとできないことを理解した上で、以下のような項目を検討しましょう。
・葬儀の形式や遺骨の取り扱い(納骨や散骨など)
・行政手続き(死亡届の提出、健康保険や年金の停止手続きなど)
・遺品整理やデジタル遺品の処理(SNSアカウント削除など)
・公共料金の解約や未払い金の清算
・ペットの世話や引き取り先の手配
自分の希望をリストアップして整理することで、次の手続きがスムーズになります。
2. 委任する相手(受任者)を決める
次に、契約内容を実行する受任者を選びます。受任者には、契約内容を確実に遂行できる信頼できる相手を選ぶことが大切です。
受任者の候補
・友人や知人、親戚
資格が不要なため、信頼できる近しい人に依頼することが考えられます。公共料金の解約やペットの世話など、比較的負担の少ない業務を任せるケースが多いです。ただし、手続きの煩雑さや負担を考慮しましょう。
・弁護士や司法書士
法律や行政手続きに詳しい専門家に依頼すると、確実かつ適切に手続きを進められます。相続や遺言作成も含めた提案が可能な点がメリットです。
・社会福祉協議会
地域の社会福祉協議会が受任者となる場合もあります。ただし、「同地域に居住している」「相続人がいない」「契約能力がある」といった条件が設けられていることが多いです。サービス内容や条件は地域ごとに異なるため、各社会福祉協議会に確認してください。
受任者選定のポイント
・信頼性:契約内容を確実に実行できるか
・実績と対応能力:手続きが適切に遂行されるか
・受任者が決まったら、依頼内容をしっかり共有し、合意を得ておきましょう。
3. 契約書を作成する
依頼内容と受任者が決まったら、契約書を作成します。契約書は、依頼者の意思を明確にし、後々のトラブルを防ぐために書面で残すことが推奨されます。
契約書の作成時には、弁護士や司法書士といった専門家に相談することで、より適切で漏れのない内容に仕上げることができます。
4. 公正証書として契約を結ぶ
契約書を作成した後は、公正証書として残すことが理想的です。公正証書は、公証人が作成する公文書であり、法的効力が高く、契約内容を確実に実行するための信頼性を高めます。また、後々のトラブルを防ぐ観点からも、公正証書化することが推奨されます。
公正証書作成に必要な書類と費用
・公証人の手数料は1万1,000円程度がかかります。
・必要な書類としては以下のものがあります。
印鑑登録証明書(発行後3カ月以内)
実印
本人確認書類(運転免許証またはマイナンバーカードなど)
詳細については、持ち込む公証役場にお問い合わせください。
公正証書作成の流れ
公証役場で契約書を公正証書化する際は、事前に予約が必要です。契約内容を公証人に伝え、調整や確認を行った上で、公正証書を作成します。作成された公正証書には、委任者と受任者が署名と押印を行い、それぞれが1部ずつ保管します。
公正証書化にかかる日数や追加費用についても、事前に公証役場へ確認することをおすすめします。
死後事務委任契約を結ぶべき人とは?
1. 親や配偶者、子どもがいない「おひとり様」
自分の死後の手続きを頼める家族がいない場合、葬儀や役所手続き、遺品整理など、必要な手続きが進められなくなる可能性があります。このような「おひとり様」の場合、死後事務委任契約を結ぶことで、信頼できる第三者にこれらの手続きを任せることができます。
該当する人の例
・独身で親や配偶者、子どもがいない人
・一人暮らしで身寄りがいない人
・親族や友人に頼むことが難しい人
2. 家族と絶縁状態にある人
家族や親族と疎遠で、自分の死後の手続きに対応してもらえない可能性がある場合、または家族に頼みにくい場合にも、死後事務委任契約は有効です。この契約を通じて、希望通りの手続きが確実に実現されます。
該当する人の例
・家族と絶縁しており、頼れる人がいない
・家族と話し合いが難しく、自分の希望を実現できるか不安な人
・親族に迷惑や負担をかけたくないと考えている人
3. 家族に負担をかけたくない人
たとえ家族がいても、死後の手続きには時間や労力がかかり、心理的負担も大きいです。専門家や第三者に手続きを委任することで、家族への負担を軽減したいと考える人にとって、死後事務委任契約は非常に役立ちます。
該当する人の例
・高齢の親や親族に負担をかけたくない人
・遠方に住む家族に迷惑をかけたくない人
・家族の精神的・時間的負担を軽減したいと考える人
4. 家族と希望が異なる人
自分が希望する葬儀の形式や埋葬方法が、家族の意向と異なる場合、自分の希望が実現されない可能性があります。死後事務委任契約を結ぶことで、自分の意思を優先して手続きを進めることができます。
該当する希望例
・家族葬や直葬など、特定の葬儀形式を望む
・海洋散骨や樹木葬など、希望する埋葬方法がある
・遺品の整理やSNSアカウント削除など、特定の対応を依頼したい
死後事務委任契約の費用
1. 契約書作成にかかる費用
公正証書作成時の費用
・公証人の手数料:1万1,000円
・謄本代:約3,000円
公正証書作成には合計で1万5,000円程度が必要とされます。また、印鑑登録証明書(数百円程度)などの必要書類の発行手数料も考慮しておきましょう。詳細については、事前に公証役場に確認することをおすすめします。
2. 受任者への報酬
受任者に支払う報酬は、契約内容や依頼の範囲によって異なります。社会福祉協議会など、非営利団体が受任者となる場合、営利目的ではないため費用が比較的低めに設定されていることがあります。
事前に受任者と相談し、報酬額を明確にした上で契約を進めることが大切です。
3. 実費(葬儀費用や遺品整理費用など)
委任内容によって必要な費用は異なりますが、死後事務の執行費用として150万~300万円程度が必要となるケースが多いです。たとえば、以下のような依頼内容を想定した場合です。
・葬儀や火葬、埋葬費用
・遺品整理の費用
・賃借物件の原状回復費用
・公共料金の解約や未払い金の精算費用
このような費用を確保しておくことで、死後の手続きが円滑に進むようになります。
執行費用を確保する方法
死後事務の執行に必要な費用は、事前に確保しておくことが重要です。以下のような方法で、執行費用を準備することができます
1.預託金を用意する
生前に執行費用を代理人に預けておく方法です。契約書に費用の用途や管理方法を明記しておくことで、安心して任せられます。
2.生命保険を活用する
委任者が亡くなった際に支払われる生命保険金を、執行費用に充てる方法です。この場合、受取人として信頼できる受任者を指定することが必要です。
費用を抑えるポイント
死後事務委任契約にかかる費用を抑えるためには、以下の点を検討することが有効です
1.必要な業務だけを依頼する
依頼内容を精査し、不要な業務を減らすことで実費や報酬を削減できます。
2.非営利団体を活用する
社会福祉協議会など、費用が低めに設定されている団体を選ぶことでコストを抑えることができます。
3.公正証書の準備を効率化する
必要書類を事前に揃え、手続きをスムーズに進めることで、余計な手数料を発生させないようにします。
死後事務委任契約で起こりうるトラブルと注意点
1. 契約内容が不明確な場合のトラブル
契約内容が曖昧で必要な項目が記載されていない場合、受任者が対応に困り、希望通りの対応が実現されないことがあります。また、契約締結後に担当者からオプションを提案され、想定以上の費用がかかるケースもあります。
具体的なトラブル例
・希望する対応が契約に含まれていなかった
葬儀形式や遺品整理の具体的な方法が明記されておらず、希望通りの対応がなされなかった。
・高額な追加費用が発生した
契約締結後にオプションを提案され、結果的に契約時の予算を大幅に超える費用が発生した。
注意点と対策
・契約内容を具体的に記載する
希望する葬儀形式、遺品整理の方法、SNSアカウントの削除など、依頼内容を詳細に契約書に記載し、曖昧な表現を避けます。
・費用の見積もりを事前に確認する
追加費用やオプションの有無について、契約前に確認しておくことで、予算を超えるリスクを抑えられます。
・公正証書で契約を作成する
公証役場で公正証書を作成し、契約内容の信頼性と法的効力を高めます。
2. 運営会社の倒産によるトラブル
運営会社が倒産や破産してしまうと、預託金が返還されず、契約内容が履行されないリスクがあります。特に、運営会社に執行費用を預けている場合、この問題は大きなトラブルに発展する可能性があります。
具体的なトラブル例
・運営会社の倒産や破産
預託金を保管していた運営会社が倒産し、葬儀や遺品整理などに必要な資金が返還されなかった。
注意点と対策
・信頼できる運営会社を選ぶ
実績があり、評判の良い運営会社や団体に依頼することでリスクを軽減します。社会福祉協議会などの非営利団体は、営利目的ではないため比較的安全性が高いと言えます。
・預託金の管理方法を確認する
預託金がどのように保管・管理されているかを事前に確認し、資金管理体制がしっかりしている運営会社を選びましょう。
・資金の分散管理を検討する
預託金の全額を一つの運営会社に預けるのではなく、一部を生命保険や別の口座で管理するなど、リスクを分散させることが重要です。
3. 家族や親族とのトラブル
死後事務委任契約の内容や存在を家族や親族に知らせていない場合、死後に意見の対立が発生することがあります。特に、葬儀形式や遺品整理について、契約内容と家族の希望が異なるとトラブルに発展しやすいです。
具体的なトラブル例
・家族や親族に事前に知らせていなかった
死後事務委任契約を結んでいたことを家族が知らず、契約内容に異議を唱える。たとえば、契約では「直葬」を希望していたが、家族が「一般的な葬儀」を望んで対立する。
・遺品整理や遺骨の扱いについて異議が出た
契約内容に基づいて遺品を処分しようとしたところ、親族が反発した。
注意点と対策
・契約内容を事前に家族や親族に共有する
自分の希望を家族に伝え、契約内容を共有しておくことで、意見の食い違いを未然に防ぎます。
・遺言書を併用する
相続や遺品整理の具体的な希望を遺言書に記載し、死後事務委任契約と併用することで、総合的なトラブル防止が可能です。
・家族との話し合いを重視する
家族の意見を取り入れながら契約内容を調整することで、契約締結後の対立を最小限に抑えられます。
まとめ
死後事務委任契約は、自分の死後に必要な手続きを信頼できる第三者に託す制度であり、特に「おひとり様」や家族に負担をかけたくない人にとって有効です。契約を通じて葬儀や行政手続き、遺品整理などを円滑に進められる一方で、契約内容の不明確さや運営会社の倒産、家族との意見の食い違いがトラブルの原因になることがあります。信頼できる受任者の選定や契約内容の明確化、家族との共有を徹底することで、安心して自分の希望を実現できる契約を結ぶことが可能です。終活の一環として、早めの検討と準備をおすすめします。
この記事を共有
Xでシェア
LINEでシェア
Facebookでシェア