土葬は日本のどこでできる?法律・条例・実施可能エリアを徹底解説

2025.6.18

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日本における埋葬の方法として、現在は「火葬」が事実上の標準とされています。厚生労働省の統計によれば、全国の火葬率はほぼ100%に達しており、現代の日本社会において土葬は極めて例外的な存在です。実際、日常的に土葬を目にする機会はほとんどなく、一般市民の多くが「土葬はすでに日本では禁止されている」と考えているのではないでしょうか。 しかし、土葬は日本の長い歴史において本来の埋葬方法であり、仏教・神道・儒教などの伝統的宗教においても、自然な形での埋葬として長らく受け継がれてきました。明治時代の文明開化を契機に衛生政策が見直され、火葬が奨励されるようになったことで、次第に土葬は減少していきます。戦後には法制度の整備が進み、多くの自治体が条例で土葬を制限するようになったことで、現在のような火葬一辺倒の状況が確立されました。 それでも、土葬は現在も完全に禁止されたわけではなく、法律上は一定の条件を満たせば実施が可能です。問題はその条件が極めて限定的であり、実際に土葬を行うには行政との調整や適切な墓地の確保など、複雑なプロセスを踏まなければならない点にあります。 本記事では、まず土葬の基本的な意味や歴史的背景を整理し、次に法的な位置づけと制約、さらに現代日本における土葬の実態と実施可能な場所を紹介していきます。そして、なぜ土葬が困難なのかという理由や、実際に土葬を行う際のメリット・デメリットについても詳しく解説します。

土葬とは

土葬とは、遺体を火葬せず、そのまま棺に納めて地中に埋葬する葬送方法です。現代では日本でほとんど見られなくなったものの、かつてはこの方法こそが主流であり、宗教・文化・風習のなかで自然と発展してきた埋葬の形でした。土葬は、遺体を「土に還す」という自然観にもとづき、仏教・儒教・神道を問わず長く受け継がれてきたものです。 一方、形式としては、屈葬(遺体を屈曲させて埋葬)、伸展葬(遺体を伸ばしたまま埋葬)、そして棺葬(棺に収めたまま埋葬)などがあり、時代や地域によってさまざまな様式が取られていました。

歴史的背景

日本における土葬の歴史は非常に長く、縄文時代から人々は自然なかたちで死者を地中に還してきました。弥生・古墳時代を経て、仏教が伝来した奈良時代には、僧侶や皇族の一部で火葬が行われ始めましたが、庶民には土葬が根強く残っていました。江戸時代には、儒教的な身体観の影響から火葬を嫌い、土葬を選ぶ武士階級も見られました。 明治時代に入り、都市化とともに公衆衛生への配慮が求められるようになると、政府は火葬を推奨する政策を取り始めます。1875年には一度出された火葬禁止令が撤廃され、代わって火葬奨励の動きが全国に広まりました。20世紀に入ると火葬場が整備され、戦後の復興期には全国的に火葬の利用が急速に拡大。現在では火葬率が99%以上となり、土葬は宗教的・地域的なごく限られた事例を除き、実施が極めて困難な葬送方法となっています。

法律上の土葬の扱い

日本において土葬が明確に「法律で禁止」されているわけではありません。現行の「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」には、土葬そのものを禁止する条文は存在していません。 しかし、実態として多くの自治体が条例により「土葬禁止区域」や「火葬必須区域」を定めており、これにより日本全国の大多数の地域で土葬が行えない状況となっています。東京都、神奈川県、大阪府など都市部の多くはこれらの条例に基づき、土葬を禁止または実施困難としています。 つまり、国の法律として土葬は禁止されていないが、各自治体レベルの条例により、実質的に禁止または極端に制限されているというのが現実です。

土葬に必要な許可

仮に土葬を実施できる地域であっても、自由に行えるわけではありません。「埋葬」は法律上、火葬と同様に行政手続きが必要であり、主に以下の2つの許可が求められます。 1.埋葬許可証の取得   死亡届を提出した後に交付されるもので、火葬・土葬のいずれにも必要です。これがなければ埋葬は違法となります。 2.墓地管理者からの許可   土葬を許可している墓地はごく限られており、墓地管理者の承認がなければ土葬を行うことはできません。また、墓地は必ず墓地経営許可を受けた場所である必要があります。 さらに、土葬には衛生的観点や近隣への配慮、地質調査、安全管理など、追加的な要件が求められることもあり、個人や家族の希望だけで実施することは極めて困難です。

現代日本における土葬の実施状況

火葬率99.9%超の現実

現代日本において、土葬は事実上、ほとんど行われていません。厚生労働省の2022年度統計によると、全国の葬送件数は約162万8,000件。そのうち火葬は約162万7,500件を占め、火葬率は99.97%に達しています。土葬はわずか490件(0.03%)であり、その多くも一般的な成人ではないケースです。 国際的に見てもこの火葬率は異常なほど高く、日本は制度・文化の両面で火葬が完全に根付いている国といえます。

土葬の内訳

残された土葬の大半は、胎児(死産など)を対象としたものであり、2021年の調査では、土葬全体462件のうち374件が胎児に関するもので、成人は約88件にすぎません。すなわち、土葬の選択が成人に適用される例は、極めて限定的だといえます。 また、災害時などに火葬場が機能しない場合、やむを得ず土葬が行われることもあります。実際、2011年の東日本大震災では、一部地域で仮埋葬というかたちで土葬が実施された例が報告されています。これは常態ではなく、緊急避難的な措置として捉えられています。

宗教的ニーズと地方自治体の対応例

こうした中でも、特定の宗教に基づく強いニーズが、土葬の存続を支えている一面があります。とくにイスラム教では、教義により火葬が禁止されており、死後24時間以内の土葬が原則です。日本に住むムスリム人口は2024年時点で約35万人とされており、土葬を希望する声は確かに存在しています。 このような宗教的背景を踏まえ、近年では行政レベルでの対応も始まっています。代表的な例として、宮城県では2024年、在住ムスリムの要望を受けて、土葬が可能な墓地の整備を検討する方針を表明しました。村井知事は「多文化共生の観点から、理解と対応が必要」と述べ、県としての検討を始める意向を示しました。 ただし、この動きには地域住民からの反発も強く、ネット上では400件以上の否定的な意見が寄せられています。懸念の多くは「衛生面」「地下水への影響」「風評被害」などに集中しており、現実的な導入にはまだ高いハードルが残されています。

土葬が可能な地域

日本において土葬を実施できる場所は非常に限られています。多くの自治体では条例や地域住民の合意形成の困難さから、土葬が現実的に行えない状況にあります。それでも、以下に紹介する地域では、実際に土葬の受け入れが確認されています。

北海道:余市郡・よいち霊園

余市郡にある「よいち霊園」は、北海道内でも数少ない土葬受け入れ可能な墓地です。宗教を問わず、明確に土葬区画を設けており、自然豊かな環境で土に還る形を希望する利用者に対して対応可能です。

茨城県:常総市・朱雀の郷

常総市にある「朱雀の郷」は、首都圏では非常に稀な土葬専用霊園です。運営母体は民間法人ですが、NPO団体とも連携し、イスラム教徒を含む多様な宗教・文化背景を持つ人々に配慮した埋葬形式を提供しています。事前相談と申請によって、土葬区画を利用できます。

山梨県:北杜市・風の丘霊園/山梨市・神道霊園

北杜市の「風の丘霊園」は、自然葬や自由葬を受け入れる霊園として知られており、土葬区画も明示されています。山梨市の「神道霊園」では、神道儀礼に基づいた埋葬が可能であり、土葬も正式に対応。イスラム教徒専用区画も設置されており、多文化対応が進んでいます。

栃木県:栃木市・足利市など

栃木県内の一部地域、特に栃木市・足利市周辺では、土葬を明確に禁止する条例が存在しないため、墓地管理者の判断によっては土葬を受け入れる霊園が存在します。事前に直接問い合わせる必要がありますが、現実的に選択肢となり得る地域です。

その他:鳥取県・高知県・三重県・奈良県・岐阜県の山間部や過疎地

これらの地域では、都市部と異なり火葬場が遠方であることや、地域的な風習が残っていることから、慣習的に土葬が継続されている事例があります。特定の墓地や集落単位で、土葬が今も行われている例が報告されています。ただし、一般向けに公表されているわけではないため、利用希望者は地域の宗教団体や墓地管理者に直接確認が必要です。

土葬可能墓地の利用に必要な前提条件

土葬可能な墓地を利用するには、以下の条件が一般的に求められます: ・墓地管理者の事前相談と承認  土葬の可否は墓地単位で異なります。必ず事前に確認が必要です。 ・死亡届・埋葬許可証の取得  火葬と同様に、法律上の手続きを経た埋葬許可証が必要です。 ・墓地が墓埋法による正式許可を受けた施設であること  非公認の土地に埋葬することは違法となります。 ・地元自治体との条例整合性(禁止区域でないか)  自治体によっては条例で土葬が禁止されている場合もあるため、確認が不可欠です。 ・衛生対策や設備対応(棺・棺以外の仕様、掘削深さ、地下水対策等)  地質や環境に応じた埋葬方法が求められることがあります。

地域選びのヒントと注意点

・地方の広域霊園はいくつか土葬区画を設けており、都市部よりも相談しやすい傾向があります。 ・宗教法人が運営する霊園は、イスラム教徒を含め宗教的な希望に柔軟に対応する体制が整っていることが多いため、有力な選択肢となります。 ・希望する地域が土葬禁止区域に該当しないかを事前に確認し、必要に応じて自治体の窓口に相談することが重要です。

日本で土葬が困難とされる主な要因

法制度と自治体条例

日本の「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」では土葬自体を禁止していませんが、多くの自治体が独自の条例で土葬の実施を実質的に制限しています。特に都市部では、火葬を前提とした墓地設計が一般的で、土葬を受け入れる設備や許可を持つ墓地は非常に稀です。 さらに、墓地の新設や運営には地方自治体の許認可が必要で、事業者や宗教法人が土葬対応型墓地を整備する際には、多数の法的・実務的ハードルが存在します。

土地・環境規制・地盤条件

土葬には技術的・衛生的な要件が数多く求められます。たとえば、  ・墓地内の埋葬深度は約1.8メートル以上が必要とされ、地下水位や地盤の水はけも考慮されます。  ・棺の仕様、防腐処理、遺体の安置方法などにも細かい規制があり、衛生面での配慮が不可欠です。  ・土壌汚染対策や地下水保護の観点から、開発時には環境影響評価が必要となる場合もあります。 これらの条件を満たす土地を確保するのは容易ではなく、特に都市部ではほぼ不可能に近いと言えます。

地域住民からの拒否と社会心理

土葬墓地の新設に対しては、周辺住民から強い反対が起こる傾向にあります。「地下水が汚染されるのではないか」「風評被害が生まれる」「地域の雰囲気にそぐわない」といった懸念が多く、行政が調整に乗り出しても実現は困難を極めます。 海外でも、土葬には公的な許認可が必要であり、個人の判断で自由に実施できるものではないという認識が広がっています。こうした背景も含め、日本では土葬に対する心理的ハードルが高く、社会的合意を得るのが難しい状況です。

宗教的ニーズの調整の難しさ

イスラム教徒の増加により、土葬への要望は確実に存在していますが、それに対応できる墓地はごくわずかです。多くの墓地は火葬を前提に設計・運営されており、宗教的配慮が届かない現状があります。 また、宗教法人が土葬対応の墓地を開設する場合でも、地域社会との価値観のずれが壁となることが多く、行政側が宗教的理由だけで特別な措置を講じることも難しいのが実情です。

経済・社会構造の変化

戦後の火葬推進政策が定着したこともあり、日本では「火葬が当たり前」という文化的価値観が根付いています。さらに、  ・高齢化・過疎化によって地方では墓地の維持が困難になり、  ・都市部では土地不足と価格高騰により墓地開発自体が難しくなっている という背景から、土葬が行える環境はますます減少しています。

土葬をするメリット・デメリット

土葬のメリットデメリット

メリット

1.「自然に還る」感覚の実現   土葬では遺体をそのまま土中に埋葬できるため、「土に還る」という古来の思想を体現できます。火葬に抵抗感を持つ人や、自然への回帰を望む人にとっては魅力的な選択肢です。 2.燃料不要で環境負荷を低減    火葬に必要なガスや灯油などの燃料が不要なため、CO₂排出や大気汚染などの環境負荷が軽減されます。近年では、環境に配慮した埋葬方法として土葬に関心を持つ人も増えています。 3.宗教的・文化的要望に応える   イスラム教やキリスト教など、火葬を禁じる宗教では土葬が必須です。信仰上の義務として尊重されるべき重要な葬送方法です。

デメリット

1.土地・環境・衛生への高度な配慮が必要   土葬には広い土地と深い埋設が必要で、地下水や土壌汚染のリスクも伴うため、防腐処理や衛生基準への対応が求められます。都市部では対応可能な土地の確保が極めて困難です。 2.費用・手間がかかる   火葬に比べて土葬は設備・人手・管理費用がかかり、平均で50万円〜300万円ほどとされています。火葬式に比べて経済的負担が大きくなります。 3.社会的合意が得にくい   衛生面やイメージへの懸念から、墓地周辺の住民が反対することも多く、導入には地域社会との調整が不可欠です。宗教的意義が理解されにくいケースもあります。

まとめ

本記事では、日本における土葬の定義と歴史的背景から、法律や条例の現状、そして実際に土葬が可能な場所やその前提条件まで、網羅的に解説してきました。かつては一般的だった土葬も、今や火葬率99.9%を超える現代日本においては、極めて例外的な選択肢となっています。 とくに、墓埋法と自治体条例による制度的制約、地理的・環境的要因、そして社会的合意形成の難しさが、土葬を困難にしている主な要因です。それでもなお、宗教的な信念や自然回帰の志向から、少数ながら土葬を希望する声は確かに存在しています。 この記事を通して、土葬という埋葬方法が現代日本でどれほど制約されているか、またどのような手続き・条件・課題を伴うかを理解していただけたのではないでしょうか。

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